7月12日から15日に英国で開催されたグッドウッドフェスティバル・オブ・スピード。この伝統あるモータースポーツイベントで、新型スープラの市販プロトタイプが初めてその走りを披露した。今回はその開発責任者を務める多田哲哉氏に直撃インタビューを敢行。ベールに包まれた開発の舞台裏を取材することができた。BMWとの共同開発は多数の困難があったというが、その真相(&深層)を未編集でお届けする。(取材・文責:ホリデーオート編集部)
画像: イギリスのグッドウッドフェスティバル・オブ・スピード。そのメインイベントであるヒルクライムでポテンシャルの高さを見せつけた新型スープラの市販プロトタイプ。ドライバーは開発責任者の多田哲哉氏。

イギリスのグッドウッドフェスティバル・オブ・スピード。そのメインイベントであるヒルクライムでポテンシャルの高さを見せつけた新型スープラの市販プロトタイプ。ドライバーは開発責任者の多田哲哉氏。

「今回グッドウッドで走らせた車両は、トヨタ社内で『号試車』と呼ばれるもので、市販車と同じ仕様のボディ形状で量産に向けての最後の確認をしたりする車両です。かなり市販に近い車両です。もともと今年のグッドウッドを走る予定はなかったんですが、主催者からぜひ走らせて欲しいとのオファーをいただいて。もともとイギリスの一般道でテストしようとしていた車両を持っていって、急遽走らせることになりました」

「パレードランの走りでは、エンジンやエキゾースト系の音を観客のみなさんに聞いてもらいたかったので、全開走行ではないですが、エンジン回転数は高めに、アクセルオフ時の音も意識的に出すように走っていました。 今回の搭載エンジンは、歴代スープラ(直6・FR)にあわせて直6です。排気量も3L(ターボ)で踏襲しました。4気筒モデルについては、ユーザー層を広げたり、価格設定を下げてカスタマイズを楽しむ人たちに向けてラインアップするかもしれませんね」

「このクルマのプロジェクトが始まった経緯は、2012年に行われた86の欧州ジャーナリスト向け試乗会にさかのぼります。この時に、社内の某役員から『BMWと一緒にコラボレーションできるか、話をして来てくれないか』と言われたことからスタートしました。当時はどんなことが始まるのか、まったく見当も付きませんでしたが、いろいろ話し合いを進めるうちに、とりあえず何かを始めてみようということになりましたが、そこから先に予想しなかった困難が待ち構えているとは、その時は夢にも思いませんでしたけれど(笑)」

「その時はどんなクルマを作るかということはまだ決まってませんでし、逆にBMW側からは『我々とどんなクルマが作りたいのか?』と聞かれたぐらいでした」

画像1: 新型スープラ開発責任者 多田哲哉氏が語ったBMWとの共同開発の舞台裏

「以前、豊田章男社長と話したときに、『トヨタにも86だけじゃなくて、いつかは兄と弟を持たせて3兄弟にできるといいね』という話が出たことがあります。ということはBMWと共同開発をするなら、(86の)兄貴分にあたるスポーツカーを作るというのが自然な流れだったと思います。スープラが直6だったことと、BMWが直6が得意だったこと、この一致は偶然だったのかもしれませんし、これが“縁”というものだったのかもしれません」

「スバルさんと86&BRZで共同開発したときと比べてどうかというと、開発は正直今回の方が大変でしたね。あるときからお互いの理解が深まって、非常にプロジェクトがスムーズに進むようになりましたが、BMWには生まれて初めてトヨタ車を運転するという人もいましたから、当初はトヨタがどんな会社なのかを理解してもらうのも大変でしたね。そんな状態が1年ぐらい続いたかな。それでも少しずつトヨタのクルマづくりというものを理解してもらって、プロジェクトが進んでいくようになりましたね」

「BMWのクルマづくりもたくさん勉強させていただいきましたね。とにかく手間とお金がかかる開発をしていることには驚きました。トヨタの常識からは考えられないことがたくさんありました。こんなに手間とお金をかけてしまうと儲からないんじゃないかと心配になってしまいましたが、それがそうはならないことにも驚いた。設計図などもトヨタよりもたくさんの図面を書いていて、さらにシミュレーションの造り込みもトヨタ以上のものをやっていたし、もちろん実車の造り込みとテストも凄かったです」

「デザインの決め方も随分違いましたね。BMWはどんなデザインにするかというよりは、どんなプロポーションというかパッケージングにするかということを決めるのに、とても時間をかけていることがわかりました。我々はどうしてもスケッチを重視したり、デザインを先行させがちですが、BMWはクルマのプロポーションさえ決まれば、外装デザインは自ずと決まってくる、というようなスタンスでした」

画像2: 新型スープラ開発責任者 多田哲哉氏が語ったBMWとの共同開発の舞台裏

「豊田章男社長はニュルブルクリンクを走るときに、『うちには練習するのに中古の80スープラしかなくて、ものすごく悔しい。欧州のスポーツカーに対抗できるスポーツカーが欲しい』と常々言っていましたが、今回のスープラでようやくそれを実現できるモデルができたと思います」

「(ニュルでは)BMWと共同でやった方がいい安全面とか信頼性のテストなどはいっしょにやっていますが、基本的には、とくにハンドリングや走りに関するテストは別々にやっています。テストドライバーは、故・成瀬弘さんのお弟子さんで、TME(トヨタ モーター ヨーロッパ)のエルヒー・ダーネスにマスタードライバーを担当してもらっています。ニュル24時間でCーHRで走った経験もある人物です」

「新型スープラと新型BMWスポーツは86とBRZと同じような関係で、意匠がちょっと違っていたり走り味がちょっと違う程度だ、と書いているメディアが多いのですが、ここでハッキリ言います。両車はまったく違います! まず、いろいろ共通化して安く作ろうという発想がありません。だから外装も内装も同じ部品というのは極めて少ないんです。たとえばシフトノブすら違うデザインで作っています。エンジン本体やターボなどハードウェアは同じものですが、チューニングはお互い違っています」

「想定ライバルは、レイアウトは違うけれどポルシェのケイマン&ボクスター。デザイン面では80スープラのイメージは残したかったので、リアフェンダーのボリューム感みたいなものは面影があると思います。ただ、デザインスケッチを書くのは簡単だけど、実際に生産段階になると鉄板で形を作るのは大変でしたね」

画像3: 新型スープラ開発責任者 多田哲哉氏が語ったBMWとの共同開発の舞台裏

「新型スープラの走りは、いつでもどこでも“ニュートラルステア”だということが特徴です。サーキットはもちろんですが、実はこのクルマの開発はほとんど…8割以上は一般道でテストしてきました。ニュルももちろん走っていますが、アルプス越えからフランスの山道、そしてアメリカもたくさん走りました。実は日本でも走ってます(じつはホリデーオート編集部員も目撃しました)。一般道を走ると見えてくることがいっぱいありますから。乗り心地もそうだし、いろんな路面のいろんなコーナーを走り込むと、ダメなところがわかるんです」

「豊田章男社長からは、開発の初期モデルでは厳しいダメ出しもありましたが、最近では『やっと悔しい思いが晴れるときが来た』と言って喜んでくれていますね」

「新型スープラは2シーターです。2シーターが絶対条件ではなかったのですが、ホイールベースとトレッド、そのほか理想的なレイアウトを考えたときに、2シーターがベストだったということです」

「価格については、実はあまり考えずに作ってきたんですけど、トヨタがスポーツカーを作るということでは、なるべくたくさんの人が買えるスポーツカーにするこということに意味があります。価格を高くすればどんなものでも作れるし、1000万円以上のクルマを買う人たちにはたくさんの選択肢もあるでしょう。なので、あまり高価にならないようにあえてカーボンなども使っていないし、軽量化のためにはクルマを小型化するという考えも採り入れている。あとは市販されてからは、アフターパーツでいろいろとカスタマイズしてもらえればいいと思います」

「直6エンジンの一番の特徴はスムーズさです。クルマの挙動を落ち着かせるためには、エンジンの動きがスムーズな方がいいんです。その面で直6はメリットがあります。新型スープラではそのスムーズさも生かしながら、極力“ワイルド”な味付けをしています。たとえば、シフトアップ&ダウンなどでも、あえて振動が出ても、アップダウンがスピーディに行えるようにセッティングしてあります」

画像: ジュネーブモーターショーで公開された「GR Supra Racing Concept」。 ました

ジュネーブモーターショーで公開された「GR Supra Racing Concept」。

ました

「新型スープラはレーシングカーにモディファイすることも想定に入れて開発をしてきました。レースでの使用を考えた設計をいっぱい採り入れている。だからジュネーブモーターショーでレースカーを先行発表したんです。たとえばここに穴が空いていれば、下から空気が抜けてダウンフォースがでるとか。あと、ターボエンジンなのでパワーアップは比較的簡単なんですが、大事なのはクーリングがいかに機能するかということで、トランスミッションやデフなども冷やせるようにクーラーの取付スペースなども考慮して設計してあります。」

「どのレースに出るかというのはこれから議論していきたいと思います。ル・マン24時間で言えば、今年総合優勝できたので、次はGTクラスで出ればなんていうお誘いもフランスからはあったりしますし…。先日、NASCARでの参戦も発表しましたが、国内でのスーパーGTでの参戦も含めていろいろと候補はありますね。ニュル24時間については、どのカテゴリーで出るかというのが議論になりそうですね」

「ニュルのラップタイムですか? まだ測っていませんが、かなり速いと思いますよ。普通に走っても7分台は楽勝で走れると思います。本当にニュートラルなステア特性なので、ニュルでもほんとに走りやすいし、タイムも自然と出ると思いますね。とくに回頭性の良さは圧倒的です。実は“デフ(ディファレンシャル)”に秘密兵器を搭載しているんですよ。詳細はまだお話しできませんが、デフに超ハイテクが盛り込まれています」

「市販後の展開ですが、GRMNバージョンみたいなモデルは出していくと思います。そもそもスポーツカーは毎年のように進化させていかないとすぐに飽きられてしまうので、いろんな意味で少しずつ進化させていくつもりです」

「BMWのFRに対するこだわり、重量配分に対するこだわりには、いろいろと驚かされました。スポーツカーだから軽くしたいということはあるんですが、FRの場合、フロントを軽くすることが実は難しかったりする。私は少しぐらいフロントが重いのもしょうがないと思っていましたが、BMWはエンジンの搭載位置を下げようと提案してきた。かなり開発が進んだ段階だったのでビックリしましたが、実際にそれを実現したのには驚きましたね…」

to be continued…近日中にさらに突っ込んだ情報をお届けする予定です(ホリデーオート編集部)

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