第二次大戦末期、ドイツ軍はロケット戦闘機を実用化させた。日本でも、ドイツから秘密裏に運ばれた図面を基に、同様のロケット戦闘機を完成させたのだった。モンスターエンジンに昂ぶる第6回は戦闘機に搭載されたロケットエンジンだ。

■文&Photo CG:MazKen ■取材協力・資料提供:三菱重工業株式会社

史上初・唯一無二のモンスター戦闘機

今回は、史上初のロケットエンジン戦闘機を紹介しよう。メッサーシュミット Me163と、その日本版「秋水」だ。

ロケット戦闘機(後述)というのは、Me163以外に量産・実戦投入された機はなく、最初で最後、そして唯一無二の存在なのだ。

画像: ご本家、メッサーシュミットMe163B。ロケットエンジンだけでもスゴイのに、無尾翼のデルタ翼機でもある。説明する部分が多くてキリがない!

ご本家、メッサーシュミットMe163B。ロケットエンジンだけでもスゴイのに、無尾翼のデルタ翼機でもある。説明する部分が多くてキリがない!

火薬花火のようなものを除く、近代ロケットの発明者はロバート・H・ゴダード(米国)とされる。ゴダードは1926年に史上初の液体燃料ロケットの打ち上げに成功し、現代のロケットの礎を築いた人物である。その翌年、1927年からドイツでは「ドイツ宇宙旅行協会」が創設され、1930年には有名なフォン・ブラウンが入会し、大型液体燃料ロケットの研究開発が本格化している。

一方、これとは別に研究していたのがドイツ航空省で、ロケットエンジンを搭載した高速迎撃戦闘機の実用化を急いでいた。

主動力にロケットエンジンを搭載した、DFS194試作機の初飛行に成功し、要求性能に到達できなかった競合試作機に圧勝した。この機は性能だけでなく、アレクサンダー・リピッシュによる後退翼+無尾翼=デルタ翼という画期的な機体設計で、その斬新さも強い印象を残した。

試作機はメッサーシュミット Me163Aとして実用化が本格化し、1941年には時速1000kmを超え、1942年4月には武装や無線機などを搭載した量産型Me163Bが完成。史上初にして唯一無二の、ロケットエンジン戦闘機が実戦配備された。

画像: 復元された特呂二号/KR10ヴァルターエンジン。思ったより小さく単純に見える。右端が燃料と酸化剤を調整・ガス化・加圧を担当する主機。左が燃焼室。

復元された特呂二号/KR10ヴァルターエンジン。思ったより小さく単純に見える。右端が燃料と酸化剤を調整・ガス化・加圧を担当する主機。左が燃焼室。

この最新戦闘機の設計図は、遅れて量産化された有名なジェット戦闘爆撃機Me262の設計図とともに、1944年4月、伊29潜水艦で日本に向け出港。同年7月、フィリピン沖で米国潜水艦の待ち伏せに遭い撃沈されたものの、帰路を急いで下艦した巌谷技術中佐の手で、ごくわずかな資料が空路で日本に到着した。

A4版数十枚だけという少ない資料と巌谷中佐の報告により、国産化を目指した「秋水」は、陸軍・海軍の共同開発というきわめて稀な兵器で、三菱重工も共同で必死の開発が行われたことがわかる。

劇薬燃料の魔力と落とし穴とは…?

Me163BのエンジンはHWK109-509Aという。フォン・ブラウンが開発したV2弾道ミサイルにはじまり、現代まで進化を続ける液体燃料ロケットとは異なる燃料方式だ。

当時すでに、出力制御が困難な花火の一種とも言える固体燃料ロケットが軍用機(特攻兵器「桜花」が有名)に使われはじめている。しかし、これはあくまで補助推進機=ブースターで、推進力を制御して自由に飛行できる動力ではなかった。

HWK109-509Aは開発者の名からヴァルター機関とも呼ばれ、燃料と酸化剤を一定の比率で混合することによって自己発火し推進力を生じた。燃料はヒドラジンとメタノールからなるC液(日本名は乙液)。酸化剤は高濃度の80%過酸化水素液からなるT液(同、甲液)で、約8対2の比率で混ぜるだけで自己着火し、高温高圧ガスを噴出する推進機だった。

書くと簡単で、実物も小型で極めて簡素な推進機だが、薬剤の取扱いと調合は非常に危険で、毒性・腐食性・引火性が強く、細心の注意が必要だった。実戦配備されたMe163Bにおいても、劇薬による事故が多数発生していた。秋水の試験においても、燃料が乾燥物と反応し発火しないよう、周囲に十分な散水を必須とされていた。 

画像: 作動原理図。C液 メタノール+ヒドラジン系燃料とT液 80%過酸化水素(酸化剤)を、①主機でそれぞれ吸引・圧送・ガス化する。ガス化した燃料と酸化剤を加圧し、②燃焼室で噴射すると、混合された瞬間に自然発火=爆発する。最終的なパワーは噴射ノズル12口の数で調整する。

作動原理図。C液 メタノール+ヒドラジン系燃料とT液 80%過酸化水素(酸化剤)を、①主機でそれぞれ吸引・圧送・ガス化する。ガス化した燃料と酸化剤を加圧し、②燃焼室で噴射すると、混合された瞬間に自然発火=爆発する。最終的なパワーは噴射ノズル12口の数で調整する。

ロケットの推力は1700kg。馬力に換算できないのだが、最高時速は同時期の戦闘機P51マスタングやメッサーシュミット Me109Kの約740km/hに対し、900km/h以上。上昇力は高度10,000mまで3分強。プロペラ戦闘機が3,000mまで到達する時間と同等で、3倍以上も上昇する怪物パワーだ!(実際には空気が薄い高高度ほど、プロペラ機の上昇率は低下する)

まさに比類なきパワーでありながら、ロケット戦闘機には致命的な欠点があった。エンジンの燃焼時間が満タンでもせいぜい8分程度だったことだ。わずか3分で高空に達しても、戦闘可能時間が皆無に等しく、燃料が燃え尽きれば、ただのグライダーとなって降下するのみ。これを見た連合軍がすぐ反撃手段を考えたのは言うまでもない。

一方、日本の秋水は1945年7月7日、横須賀海軍航空隊(現・日産追浜工場)での初飛行に漕ぎ付いた。しかし、技師を無視した海軍の命令で燃料を1/3しか入れなかったため、急上昇中にエンジンがストール。貴重なテストパイロットと一号機を失ってしまった。

終戦後、ロケット戦闘機は米軍によりテストされながら、ジェット機に比べ非実用的と判定され、航空史に足跡を残すのみに終わったのだった。

画像: 史上初のロケット戦闘機Me163Bを基に国産化した「秋水」。試験飛行とは言え、国産唯一の有人ロケットでもある。

史上初のロケット戦闘機Me163Bを基に国産化した「秋水」。試験飛行とは言え、国産唯一の有人ロケットでもある。

※史上初の超音速機ベルX-1や、有人機最速/最大高度記録のノースアメリカンX-15は、ロケット推進実験機で戦闘機ではない。

HWK-109-509A

方式:高温式ヴァルター・ロケットモーター
燃料:C液 メタノール+ヒドラジン系燃料+T液 80%過酸化水素
最大推力:1700kg[約17kN](1500kg[約15kN])
上昇力:10,000mまで3.2分[3125m/min.]
最大速度:約960km/h(約900Km/h)
航続時間:約8分(約6分)
※()内は国産の特呂二号/KR10

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