この連載では、いままで陸や空のモンスターエンジンを紹介してきた。短期連載最終回である今回、モンスターエンジンに昂ぶる 第10回では海のモンスターエンジンの話をしてみたい。石炭燃料の「レシプロ式蒸気エンジン」や「蒸気タービン機関」、「ガスタービン機関」など、いくつかのパワーユニットを見ていこう。

■文&Photo CG:MazKen

陸・空とは比べ物にならない、船の煙突の下に眠るモンスターエンジン

今まで、数々のモンスターエンジンを紹介してきたが、格段に最大級のエンジンは大海原を航海する船の機関と言える。船の推進機関は、風力=帆船から動力=蒸気船に一大進化した後、船のさまざま種類・大きさ・用途によって、急速に多種多様化したため取り上げなかった。今回は、船の機関の概要について触れてみよう。

アメリカ人のロバート・フルトンが19世紀初頭に蒸気船を実用化したが、それが帆船にとって代わるには、さらに半世紀が必要だった。蒸気船は船体中央に巨大なボイラーと機関室、それに石炭庫が必要なため、運搬効率が悪かったからだ。また外洋の荒海では、水車で水を掻く外輪推進式の効率が非常に悪かったこともある。

1845年、イギリス海軍により外輪推進船とスクリュープロペラ推進船の直接対決が行われ、各種バトルの結果スクリュー式が圧倒的に優秀とされると、大型蒸気船は一気に帆船にとって代わった。ちなみに1853年、1854年に日本に来航した「黒船」の旗艦/サスケハナ号は外輪式の蒸気船だった。

この時代から20世紀初頭まで、石炭燃料の「レシプロ式蒸気エンジン」の時代が長く続く。いわゆる「船+煙突=汽船」のイメージはこの頃にできた。日本海海戦で活躍した連合艦隊旗艦の戦艦 三笠をはじめ水雷艇までの艦艇や、氷山と接触して沈んだ巨大客船/タイタニックなどが、この方式の代表例だ。

画像: 日露戦争(1904〜1905)における日本海軍の連合艦隊旗艦 三笠の艦内図。中央の石炭ボイラー(缶)で発生させた蒸気を、後部(左)の直立する3つのシリンダーに送りピストンを駆動させる。まだ「黒船」と大差ない蒸気機関の典型。タイタニック号(1912年竣工)も主機関は同形式。

日露戦争(1904〜1905)における日本海軍の連合艦隊旗艦 三笠の艦内図。中央の石炭ボイラー(缶)で発生させた蒸気を、後部(左)の直立する3つのシリンダーに送りピストンを駆動させる。まだ「黒船」と大差ない蒸気機関の典型。タイタニック号(1912年竣工)も主機関は同形式。

この間にも、石炭ボイラーは細い管を幾重にも束ねて水を通す「水管式」になるなど、効率は飛躍的に進歩している。

高圧蒸気が効率良く作れるようになると、シリンダー内のピストン運動よりも、回転運動で高効率な「蒸気タービン機関」の軍艦が台頭してくる。高圧蒸気とタービン(羽根車)を組み合わせた回転運動機関なので、高回転=高速化と機関自体の小型化が容易だった。

日露戦争直後の1906年に就役した英国の戦艦 ドレッドノートを基準に、これを超える規模を持つ戦艦は「超ド(弩)級」と呼ばれ、急激に武装を強大化し高速化した。

超ド級戦艦以降、軍艦のほとんどが蒸気タービンを主機関とし、燃料を石炭から重油に代えた。1920年代になると、現代の主力護衛艦の30ノット(公称)と対等の33〜35ノットの巡洋艦や駆逐艦が疾走する時代になった。

蒸気タービンの「頂点」が原子力空母や原子力潜水艦の推進機関として、現代もなお怪物パワーの源となっている。

船の動力機関にも複合方式時代が到来

燃料が石炭から重油に代わる1920年代、蒸気機関より高効率で小型、そしてメンテナンスフリーなディーゼルエンジンが客船や貨物船など商船の主力になってくる。いうまでもなくトラックやバス、鉄道機関車用ディーゼルエンジンの巨大版だが、蒸気タービンより速度を必要としない船舶や、燃料コスト重視の船舶で本命の機関となる。

ディーゼルエンジンの場合、煙突は「集合排気管」となり、本来なら束ねて船舶の中央に鎮座させる意味はなくなるが、機関室から最短距離で排気させるため「煙突」は排気管カバーとして存在する。

画像: 横浜港に文化財として係留される氷川丸(1930年竣工)は、機関室の内部が見られる珍しい大型船。蒸気機関からディーゼル機関になったため煙突は集合排気管である。2軸推進のため、写真の左右に8気筒のディーゼルエンジンが並ぶ。船底から3階層ぶち抜きの巨大空間だ。

横浜港に文化財として係留される氷川丸(1930年竣工)は、機関室の内部が見られる珍しい大型船。蒸気機関からディーゼル機関になったため煙突は集合排気管である。2軸推進のため、写真の左右に8気筒のディーゼルエンジンが並ぶ。船底から3階層ぶち抜きの巨大空間だ。

ほぼ同時代から亜種も現れ、蒸気タービンやディーゼルで発電しモーターで推進する、エレクトリック方式が登場した。この方式の利点は、必要電力分だけ機関を回せば良いので、省エネになること。そしてモーターが推進機なので高トルクが得られ、複雑な減速機なしに速度変化にも対応できることだ。

第二次大戦以降主流になったのが、ディーゼルエンジンだ。ディーゼルは4サイクルから、ユニフロー掃気2サイクル・排気ターボ付きが標準化した。この進化は高出力化と高燃費の両立に貢献した。また、同方式で発電し、モーター推進とするディーゼル・エレクトリック方式も普及している。代表例に巨大クルーズ客船/クイーン・エリザベスIIIがある。

画像: 現代の超大型クルーズ船 クイーン・エリザベスIII(2010年竣工)。ディーゼル・エレクトリック方式なのでモーター駆動。近年の客船は高速である必要がなくなり、騒音振動と燃料消費を極力抑え、船内を広く使うためパワーユニットをコンパクトにマルチ化する方式を採用している。

現代の超大型クルーズ船 クイーン・エリザベスIII(2010年竣工)。ディーゼル・エレクトリック方式なのでモーター駆動。近年の客船は高速である必要がなくなり、騒音振動と燃料消費を極力抑え、船内を広く使うためパワーユニットをコンパクトにマルチ化する方式を採用している。

一方、速度重視といえば軍艦。現在就役中の多くの軍艦は「ガスタービン機関」が主流。蒸気タービンとの大きな違いは、高圧蒸気を発生させるボイラーが不要で、自ら燃料を燃焼し高圧ガスを発生させることだ。レシプロエンジンとも違い、圧縮→燃焼→膨張→排気を行程ではなく、本体の4区画が担当する。

日本の主力護衛艦の大半は、船舶汎用ガスタービンを4基搭載する。小型タービンを複数使用するのは、機関のスペースを最小化できること。必要パワーを最適な機関数で得られるからだ。また同方式で発電し、モーター推進の艦船も多く存在する。

現代の艦船は、複数のディーゼルやガスタービンエンジンを主機に、数々の補器や排熱発電などを複合的に制御し、効率良くパワーにしている。

※出力表記は資料のままを採用。

画像: 船といえば、甲板上構造物でひときわ目立つ煙突がシンボルである。しかし内部の機関は、時代とともに急激にかつ多種多様に進化した。上から戦艦 三笠、貨客船 氷川丸、護衛艦 いずも。

船といえば、甲板上構造物でひときわ目立つ煙突がシンボルである。しかし内部の機関は、時代とともに急激にかつ多種多様に進化した。上から戦艦 三笠、貨客船 氷川丸、護衛艦 いずも。

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