日本はもとより世界の陸・海・空を駆けめぐる、さまざまな乗り物のスゴいメカニズムを紹介してきた「モンスターマシンに昂ぶる」。復刻版の第25回は、以前にも航空機用として紹介した星型エンジンを搭載した戦車を紹介しよう。(今回の記事の内容は、2017年4月当時のものです)

アメリカ軍のM4シャーマン中戦車、その秘伝のエンジンとは?

画像: ドイツのタイガー&パンサー戦車、ソビエトのT-34と並び有名なアメリカのM4シャーマン。お世辞にもカッコイイとは言えないこの戦車は、アメリカ的合理主義の塊だ。

ドイツのタイガー&パンサー戦車、ソビエトのT-34と並び有名なアメリカのM4シャーマン。お世辞にもカッコイイとは言えないこの戦車は、アメリカ的合理主義の塊だ。

第二次大戦で最強だった戦車といえば、ドイツ軍のタイガー戦車を思い浮かべるミリタリーマニアは多いはず。今回の主役は、そのタイガーと戦ったアメリカ軍のM4シャーマン中戦車だ。

M4シャーマンはタイガーの好敵手、と言いたいところだが実際のところは「やられ役」という印象が強い。旧ソ連の主力T-34中戦車同様、圧倒的な製造台数と長年の運用で有名になったモデルでもある。また、大きな特徴がスタイルだ。タイトル画像のM4シャーマンを見て、誰もがカッコイイ戦車と思わないだろう。ドイツのタイガーやパンサー、旧ソ連のT-34のような、近代的フォルムには遠く及ばず、ズングリとした腰高で、正直言って不格好ですらある。この腰高フォルムの原因は、なんと3世代前のM2やM3軽戦車から踏襲している星型空冷エンジンにある。

画像: 先にR975-C1エンジンを搭載した、先代のM3リー中戦車。M4の原型であることがわかる。じつは、さらに先代のM2中戦車から基本設計は変わっていない。

先にR975-C1エンジンを搭載した、先代のM3リー中戦車。M4の原型であることがわかる。じつは、さらに先代のM2中戦車から基本設計は変わっていない。

M2およびM3軽戦車は大戦前に製造された軽戦車だが、ともにエンジンはコンチネンタル製の星型空冷7気筒(約260hp)という、当時量産されていた航空機の練習機や偵察機用のものだった。第一次世界大戦でも、その後の戦間期でも、アメリカは敵地に戦車を投入する戦略がなく、また自国に敵国戦車が侵攻する確率も皆無だったので、アメリカ陸軍は積極的に新型戦車を開発する必要がなかったのだ。その一方、量産型の航空機エンジンは余るほどあり、それを戦車に転用すれば十分な状況だったのである。

欧州や中国から戦火が上がった1930年代末になると、さすがに強大な戦車が求められ、1940年にM2中戦車、1941年にM3中戦車と立て続けに新型戦車を製造する。しかし、車体の大型化に対応するため、エンジンもより大きなライト製の星型空冷7気筒のR975系(340hp、400hp)を搭載した。

画像: コンチネンタル R975-C1を交換しているのだろう。空冷星型エンジンは全高こそあるが、全長や重量は他形式よりずっと小さく、構造もメンテナンスも簡単だ。

コンチネンタル R975-C1を交換しているのだろう。空冷星型エンジンは全高こそあるが、全長や重量は他形式よりずっと小さく、構造もメンテナンスも簡単だ。

星型エンジンは以前紹介したように、7気筒でも9気筒でもシリンダーが放射状(星型)に並ぶため、直列やV型などのエンジン型式と異なりクランク軸がほぼ1気筒分の長さで済む。つまり直径=全高は大きいが、厚み=全長は極めてコンパクトに収まる。加えて空冷なので、冷却に付随する複雑な構造や補器も不要でのため軽量だというメリットもある。

冷却用の補器がなく、エンジンが小型軽量というのは、製造効率や前線での整備性に大変優れているわけで、まして航空機と共用であれば、量産性もコストも、整備士の教育も有利になる。T型フォード以来、アメリカには合理主義と大量生産という武器が確立していた。

M4シャーマンはゲテモノエンジンも飲み込む、悪食怪獣だった?

1941年に配備された多砲塔型のM3中戦車はM2中戦車の改良型で、R975エンジンはコンチネンタル社でライセンス生産され、そのままM4中戦車へと受け継がれる。代々同じ型式の大直径エンジンは車体後部機関室に搭載され、文字どおりプロペラシャフトは車内中央を斜めにブチ抜き、車体前部のトランスミッションに繋がる前輪駆動である。エンジンが星型なので機関部が高くなり、乗員も装備もプロペラシャフトより上に乗るため、車体全体が異様に高くなってしまったわけである。エンジンが車体フォルムを決定した「合理性の塊」といえる。なお、前輪駆動というのは現代戦車でこそ希少だが、タイガーをはじめドイツ戦車も同様だった。

M3の武装があまりに時代遅れなコンセプトで、ヨーロッパおよびアフリカ戦線ではまったく通用しないことを受け、翌年に急造されたM4中戦車はかなり気張った?近代的な単砲塔戦車にしたつもりだったが、車体や武装の基本設計の古さは否めなかった。旧ソ連のT-34同様、単独の戦闘能力ではドイツ戦車にはかなわないM4であるが、その合理性は意外な発展を見せる。M4は実に11社もの工場で製造され、車体だけでも圧延鋼鈑溶接/一体鋳造/両方の混合と、さまざまなタイプが存在する。装甲板の角度、砲塔形状、武装など製造時期別も含めると、分類不可能なほど千差万別なバリエーションが存在したのである。

画像: 本来はアメリカ軍の練習機、ノースアメリカン BT-9やBT-15などに搭載されていたポピュラーなエンジン。前後を逆にしてプロペラシャフト(黄白線)を延長すると、典型的な前輪駆動式 米軍戦車のレイアウトに重なる。

本来はアメリカ軍の練習機、ノースアメリカン BT-9やBT-15などに搭載されていたポピュラーなエンジン。前後を逆にしてプロペラシャフト(黄白線)を延長すると、典型的な前輪駆動式 米軍戦車のレイアウトに重なる。

エンジンもGM製 6気筒×2列ディーゼル、フォード製 V8DOHCガソリン、クライスラー製 6気筒×5列マルチバンク、キャタピラー製 星型9気筒ディーゼル(ボーイングB17爆撃機エンジンのディーゼル版)と、なんでも搭載できる悪食ぶり(!?)を見せている。とくに末期型のクライスラー製マルチバンクは、なんとバス用6気筒エンジンを扇型に5基も束ねたものだという。その他のエンジンにしても量産品ではあるものの、いわばゲテモノばかりだ。

同盟国である旧ソ連のT-34の約5万8000輌には及ばないものの、こうした「何でもあり」的な大量生産で約5万輌近くが製造された。タイガーとパンサーの総数7860輌を、質より量で凌駕したのである。(文 & Photo CG:MazKen)

■コンチネンタル R975-C1(C4) エンジン諸元

●形式:空冷 星型9気筒・OHV 18バルブ
●排気量:約1万5930cc
●燃料供給方式:キャブレター
●燃料:ガソリン
●最高出力:350hp(400hp)/2400rpm

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