日本はもとより世界の陸・海・空を駆けめぐる、さまざまな乗り物のスゴいメカニズムを紹介してきた「モンスターマシンに昂ぶる」。復刻版の第26回は、21世紀に入って急激に巨大化したクルーズシップを紹介する。(今回の記事は2017年8月当時の内容です)
画像: タイトル画像:史上最大級のクルーズシップ「ハーモニー・オブ・ザ・シーズ」。喫水線から16+1階層のデッキを持つ巨大リゾートパーク。全長361m×全幅65m、22万6963総トンに6000人が乗船する。

タイトル画像:史上最大級のクルーズシップ「ハーモニー・オブ・ザ・シーズ」。喫水線から16+1階層のデッキを持つ巨大リゾートパーク。全長361m×全幅65m、22万6963総トンに6000人が乗船する。

全長360m超! 16階建ての海に浮かぶホテル

海のモンスターといえば、クルーズシップ=かつての巨大豪華客船が伝統的な主役だ。元々、豪華客船はその大きさと速力を競う歴史があった。最も有名な1隻は、氷山と衝突して沈んだタイタニック(4万6000総トン/269.1m)だろう。その後もクイーン・メリー(8万1000総トン/310.7m)やクイーン・エリザベス(8万6000総トン/314m)といった巨大豪華客船が、多くの旅客を乗せ高速力で欧州とアメリカを往復していた。海外旅行が航空機の時代となり、一時は絶滅寸前になった客船だったが、20世紀末に高級リゾートホテルを浮かべたような巨大船で航海する優雅な旅行スタイルが人気を博し、新造船の大きさは10万総トンに迫った。

さらに大きな転換期は、南北アメリカ大陸を横切る、パナマ運河の大規模拡張工事だった。パナマ運河はご存知のとおり太平洋と大西洋、アメリカ東部と西海岸を繋ぐ巨大水路だ。この水路の幅が、第2次世界大戦当初から巨大軍艦や船舶にとってサイズの制約となっていた。2016年に完成した最新の水路は、全長366m×全幅49m×喫水15.2m×最大高約58mに収まる、約9万トン級の巨大船が通行可能となった。「パナマックス」と呼ばれる、パナマ運河を通行可能なサイズを考慮するのが世界周遊豪華客船の条件でもあるわけだ。この改修で豪華客船のキャパは一気に大型化した。

画像: コンテナ船の巨大なディーゼルエンジンから見ると小さいが、※ヴァルチラの460mmボアシリーズV型12気筒を4基+V型16気筒を2基も発電機として使う。中速ディーゼルで最適な数だけを駆動するので、燃費と騒音振動・スペースを抑えることができる。 ※ヴァルチラ・ディーゼルは12V(16V)46系だが、掲載画像は最新で一回り大きい18V50DF。

コンテナ船の巨大なディーゼルエンジンから見ると小さいが、※ヴァルチラの460mmボアシリーズV型12気筒を4基+V型16気筒を2基も発電機として使う。中速ディーゼルで最適な数だけを駆動するので、燃費と騒音振動・スペースを抑えることができる。
※ヴァルチラ・ディーゼルは12V(16V)46系だが、掲載画像は最新で一回り大きい18V50DF。

一方で、21世紀に入ると造船上の技術革新が図られた。そのため、パナマ運河を経由しない航路なら、なんと20万総トン超の巨大豪華客船が建造できる時代になった。世界最大(2017年現在)を誇るのは、全長361m×全幅65m×約22万7000総トン、約6000人が乗船する「ハーモニー・オブ・ザ・シーズ」だ。同船はアメリカのロイヤル・カリビアン・インターナショナルが運航するオアシスクラス3姉妹船の最新型である。建造はフランスのアトランティーク造船所で、2003年に竣工した当時世界最大のクイーン・メリー2も同じ造船所だ。客室デッキは喫水上から16階層にもなり、船上構造部には中央をくり抜いた巨大な吹き抜け空間(中庭)を持っている。

ちなみに、世界最大級の艦船として有名な原子力空母ニミッツ級のロナルド・レーガンは全長333m×全幅77m×満載排水量約10万1000トンだ。これと比較すると「ハーモニー・オブ・ザ・シーズ」のモンスターぶりがよくわかるだろう。

その動力機関、パワープラントには最新テクノロジーを駆使

本題のエンジンについて触れよう。あまりに巨大で複雑なクルーズシップの推進機関は、パワープラントと呼ぶ。コンテナ船は超巨大な2ストローク・ディーゼルエンジンを70〜100rpmで、大直径のスクリュープロペラを回していた。しかし、客船は荷物を大量に運べば良いコンテナ船と違う条件が求められる。

画像: 推進機は主機関と同じヴァルチラが製造する3基のアジポッド。総出力は約8万1000hpで22.6ノットの巡行速度。昔懐かしい(?)水中モーターの超巨大版で、見学者や2台の大型ハイデッカーバスと比べて欲しい。

推進機は主機関と同じヴァルチラが製造する3基のアジポッド。総出力は約8万1000hpで22.6ノットの巡行速度。昔懐かしい(?)水中モーターの超巨大版で、見学者や2台の大型ハイデッカーバスと比べて欲しい。

第1に快適空間の確保がある。これは単純に客室数の意味ではなく、現代のクルーズシップならではのシアター(劇場)やスポーツジム、アイススケートリンク、カジノなどといった船体下部の快適・娯楽施設で、この空間の充実=機関室最小化は重要だ。

第2に静粛性。低回転のディーゼルでは低周波騒音が避けられず、動力機関は可能な限り静粛性が求められる。

第3に小回りの利く推進装置。いちばん大雑把なのがタンカーだとすれば、軍艦やコンテナ船はある程度自力で接岸できることが要求される。さらにいろいろな観光地を巡るクルーズシップは、いっそう小回りが利き、短時間で接岸・離岸できる必要性がある。実際タグボートを必要としない、舵の役目を兼ねる首振り式の、プロペラポッド(扇風機を逆さにして水中に漬けたような形状)推進機が主流である。

画像: 大きさでは抜かれたものの、人気の高いクイーン・メリー2はロールス・ロイスのアジマススラスター(ポッド)を4基装備。ヴァルチラの16V46Cエンジン4基と、GE製LM2500ガスタービン2基による発電で、26.5ノットの高速巡行ができる。

大きさでは抜かれたものの、人気の高いクイーン・メリー2はロールス・ロイスのアジマススラスター(ポッド)を4基装備。ヴァルチラの16V46Cエンジン4基と、GE製LM2500ガスタービン2基による発電で、26.5ノットの高速巡行ができる。

パワープラントは統合電気推進式と呼ばれ、ディーゼルエレクトリック方式をコンピュータ制御で進化させたもの。クルーズシップもコンテナ船同様、21世紀初頭までは、ある程度の高速性が要求されたが、世界最大のオアシスクラスなどの最新型では、よりクリーンな排出ガスと省エネを重視するようになった。

クイーン・メリー2は、ヴァルチラのV型16気筒ディーゼルの16V46C×4基+GE製LM2500ガスタービン×2基による発電。推進機はロールスロイスのアジマススラスター(ポッド)を4基装備し、26.5ノットの高速巡行型。ガスタービンは燃費で不利だが、小型で高出力に向いている。オアシスクラスの3姉妹は、同じくヴァルチラのV型12気筒の12V46F×4基+16V46F×2基を発電機とする。推進機はヴァルチラ製のアジポッド3基で、総出力は約8万1000hpで22.6ノットの巡行速度だ。

だが残念なことに、かつての造船大国ニッポンの名前は、どこにも出てこない・・・。(文&Photo CG:MazKen)

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