日本はもとより世界の陸・海・空を駆けめぐる、さまざまな乗り物のスゴいメカニズムを紹介してきた「モンスターマシンに昂ぶる」。復刻版の第15回は、速度が重視される軍艦の新旧パワープラントに迫ってみよう。(今回の記事は、2017年12月当時の内容です)

最大の護衛艦「かが」の先代は第二次大戦初期 最大級の空母「加賀」だった!

画像: タイトル画像:現在最大の護衛艦「かが」はヘリ空母に分類される。その大きさは旧海軍最大級の空母「加賀」に匹敵する。80年以上もの時を隔てた両者が、大きさだけでなくパワーも似たスペックなのが興味深い。

タイトル画像:現在最大の護衛艦「かが」はヘリ空母に分類される。その大きさは旧海軍最大級の空母「加賀」に匹敵する。80年以上もの時を隔てた両者が、大きさだけでなくパワーも似たスペックなのが興味深い。

船舶のパワープラント(ユニットと呼ぶにはあまりに巨大で複雑なので)においては、高出力重視という点では何といっても軍艦のものが注目されるだろう。そこで今回は最新・最大の護衛艦「かが」と、旧日本海軍の代表的大型航空母艦「加賀」を比較しながら、モンスター機関を紹介しよう。

2016年に竣工した「かが」は、いずも型ヘリコプター搭載護衛艦の2番艦であるが、その先代は旧日本海軍の正規空母「加賀」として有名だ。しかしこの加賀、建造計画時は戦艦だったものの、ワシントン海軍軍縮条約により空母への計画変更をせざるをえなかった。初期は三段式飛行甲板や、高温の排煙処理=煙突などに試行錯誤が見られた。

艦載機の急速な大型化に伴い、丸1年かけた近代化大改装が行われ1935年に完了。第二次大戦初期に海軍最大の正規空母として活躍したが、1942年のミッドウェー海戦で撃沈される。艦名が同じ両者には80年以上もの時代差があるが、軍艦の変遷を見る上で比較しやすい点が多いので注目してみたい。

かがと加賀は下記のとおり、艦型とサイズがよく似ている。排水量の大きな違いは、もともと加賀が装甲の分厚い戦艦だったからで、大戦中に大和型戦艦の3番艦をベースにした空母「信濃」が登場するまで最大の空母だった。ちなみに空母の同期として有名な「赤城」は天城型巡洋戦艦からの改造なので、似て非なる艦だった。

■護衛艦「かが」 主要諸元

●基準排水量:1万9500トン
●満載排水量:2万6000トン
●全長:248.0m
●最大幅:38.0m
●船体の深さ:23.5m
●最大速力:公称30ノット

■航空母艦「加賀」 主要諸元

●基準排水量:3万8200トン
●総排水量:4万2541トン
●最大長:248.6m
●最大幅:32.5m
●海面より飛行甲板:21.7m
●最大速力:約28.3ノット
※加賀の諸元については近代改装後だが、諸説ある。

画像: 「かが」の広大なハンガー/格納庫。飛行甲板下から3層ブチ抜き。「加賀」では考えれれなかった巨大空間は、この下層だけで収まるコンパクトで高出力なガスタービンエンジンのお陰だ。

「かが」の広大なハンガー/格納庫。飛行甲板下から3層ブチ抜き。「加賀」では考えれれなかった巨大空間は、この下層だけで収まるコンパクトで高出力なガスタービンエンジンのお陰だ。

加賀が竣工した時代、すでにボイラーの蒸気をシリンダーに送ってピストンを動かすレシプロ機関はすでに過去のもので、軍艦のエンジンは大出力の蒸気タービン式に移行していた。蒸気タービンは、石炭や重油ボイラーの蒸気を利用するが、旧海軍のボイラー(缶)は英国のヤーロー社のものを国産化した、ロ号艦本式缶が最も多く製造された。主力艦の大半は、同ボイラーを必要数(戦艦大和は12缶)搭載する合理化が図られていた。ボイラーが発生する高圧蒸気をタービン翼/ブレードに吹き付けシャフトを回転させるという基本原理は、現代のガスタービンエンジンまで継承されている。

空母は、艦載機を短い飛行甲板から発艦させる使命を持つ。第二次大戦初期は、艦載機を瞬時に加速させるカタパルトが実用化されておらず、おまけにプロペラ機も非力だったため、空母自体を高速前進させて発艦速度を稼いでいた。そのため、空母に求められた速力は30ノット超(約56km/h)だったため、その多くは8缶・4タービン・4軸推進で34ノット前後を誇る俊足だったのだ。ところが戦艦ベースの加賀は約28ノットが限界。それでも広大な飛行甲板と幅広の艦型は、安定性と信頼感があり人気があったという。

画像: 「加賀」と同型のヤーロー式/国産化名・ロ号艦本式ボイラー。ここで発生させた蒸気でタービンを回す、蒸気タービンエンジン。ボイラー8缶:タービン4基で4軸推進。旧海軍の主力艦の大半はこのユニットの数が違うだけ。

「加賀」と同型のヤーロー式/国産化名・ロ号艦本式ボイラー。ここで発生させた蒸気でタービンを回す、蒸気タービンエンジン。ボイラー8缶:タービン4基で4軸推進。旧海軍の主力艦の大半はこのユニットの数が違うだけ。

護衛艦「かが」はベストセラーのガスタービンを搭載している

奇しくもほぼ同じサイズの最新護衛艦/ヘリ空母のかがは、どのような推進機関なのだろう。現代の護衛艦の装甲は大型艦でも、旧海軍の駆逐艦程度しかない。ミサイル戦が主体の現代において、重厚な装甲を施しても致命的な被害は免れないため、装甲は最小限だ。また空からの攻撃に対して、多少の最高速力アップは意味を持たないという理由から、大半の護衛艦は公称30ノットとなっている。軽量で最高速力も無理しないとなると、俊敏な運動性能が重視されるようになった。

一方、多様なミサイル兵装、ヘリコプターや輸送物資を収める艦内空間が重要になってきた。かがの格納庫は、空母の加賀よりはるかに広大な平面で、3層ぶち抜きになっている。これは艦載機を整備するだけでなく、災害時などには救援物資等を少しでも多く搭載するためでもある。

こうした空間の床下に、コンパクトなLM2500ガスタービンエンジン4基がおさまっている。ガスタービンは圧縮・燃焼・膨張・排気が同時にひとつのユニット内で行われるため、小型軽量・超高出力・低騒音が特長だ。アメリカのGEが開発したLM2500ガスタービンエンジンは特殊な軍用ではない。なんと、元はマクダネルダグラス DC-10やMD-11、エアバス A300〜330、ボーイング 747〜767等の旅客機で定番のGE・CF6ターボファンエンジンの派生型だ。1990年代から世界中の多種多様な艦船に搭載され、船舶ガスタービンエンジンとしても定番となった。

画像: 現在、イージスシステム搭載護衛艦をはじめ主力護衛艦の大半が使用するのと同じ、GEのライセンスをIHIが製造するLM2500ガスタービンエンジン。本体は直径が約2m、全長が約6mしかない。2基ずつが1組で2軸推進。

現在、イージスシステム搭載護衛艦をはじめ主力護衛艦の大半が使用するのと同じ、GEのライセンスをIHIが製造するLM2500ガスタービンエンジン。本体は直径が約2m、全長が約6mしかない。2基ずつが1組で2軸推進。

護衛艦では初のイージスシステム搭載艦「こんごう」から採用され(IHI製)、主力艦の大半が2または4基を必要に応じ搭載している。かがは2基1組で減速機を介した直接機械駆動2軸推進だが、最新鋭の護衛艦「あさひ」では巡行時は同タービンを発電機とした電気推進。高速時は機械駆動とした、高燃費のハイブリッド式になっている。

80年もの年月を隔てた両艦だが、その大きさと機関の方式に意外と大差ないのが面白い。(文 & Photo CG:MazKen)

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