スポーツモデルで雪道を走ったらどうなのだろうか。ここではゴルフのなかでももっともスポーティな「R」で、実際にスノードライブを体験してみた。(Motor Magazine 2019年3月号より)

30年以上の歴史があるゴルフの4WDモデル

1mを超える積雪量さえ、さほど珍しくはないという日本の豪雪地域。けれども、そんな環境と都市部とが近接している地域というのは、実は世界では数少なくて珍しいのだという。

そうした中で多くの人が生活し、移動という行為を続けるゆえに、気温の上がった日中に溶けだした雪が夜になって再凍結したり、激しい交通量によって表面が磨かれるなどで“ミラーバーン”といった極端に滑りやすい路面環境が発生しやすいのもこうした地域固有の特徴なのである。

だからこそ、軽自動車のバリエーションにも“生活四駆”が必須とされるなど、厳しい冬の天候で知られる北欧などと比べても、そうした地域では、はるかに4WD乗用車が普及しているというのも、また日本ならではだ。

もちろん、欧米メーカーも4WD乗用車を生産していないわけではない。スバル同様、多くの4WDモデルを揃えることをコアコンピタンスとして謳う、アウディのような例も見られる。

だが、そうは言っても4WDバリエーションの充実度では、やはり日本ブランドの作品が他の国のモデルを圧倒しているのは疑いない。たとえば、日本でもっともポピュラーな輸入車の1モデルと紹介しても過言ではないフォルクスワーゲンゴルフに対してすら、「4WD仕様が存在する」と言ったら、むしろ驚く人は今でも少なくないだろう。

ところが、そんなゴルフの4WDモデルに「実は30年以上の歴史がある」と聞いたら、今度は別の意味で驚く人が現れそうだ。

画像: 雪の中でも期待に応える自在度の高い走りは魅力。

雪の中でも期待に応える自在度の高い走りは魅力。

画像: マルチファンクションステアリングホイール、シフトノブ、ドアシルプレートなど、R専用アイテムを数多く装備。

マルチファンクションステアリングホイール、シフトノブ、ドアシルプレートなど、R専用アイテムを数多く装備。

画像: R専用レザーシートはホールド性に優れる。さらに運転席、助手席ともに3段階の調節ができるシートヒーター付き。

R専用レザーシートはホールド性に優れる。さらに運転席、助手席ともに3段階の調節ができるシートヒーター付き。

画像: リアシートは分割可倒式を採用する。シートカラーはチタンブラック/レザー、シート背面には合成皮革を使用する。

リアシートは分割可倒式を採用する。シートカラーはチタンブラック/レザー、シート背面には合成皮革を使用する。

4モーションは大トルクを瞬時に後輪に振り分ける

ゴルフに4WD仕様が初登場したのは1985年。前後輪に同時に駆動力が伝わることをイメージしてか、当時は“シンクロ”というサブネームで差別化が図られたその名も“ゴルフシンクロ”は、日本でも1987年の発売と、そのデビューは思いのほか早かったのである。

現在“4モーション”の名称が与えられるフォルクスワーゲン車は、そんなかつての“シンクロ”を起源に持つ4WDモデルだ。

ただし当然メカニズムは進化を遂げ、4WDシステムの要として当初用いられたシンプルな構造のビスカスカップリングは、より素早いレスポンスで4WDならではトラクション能力を生み出しつつ、燃費効率にも優れると謳われる電子制御式の油圧カップリングへと改められて現在に至っているわけだ。

それでも、FFレイアウトがベースという構造ゆえに、前輪が“主”で後輪が“従”という基本的な考え方は“シンクロ”の時代と同様。ただし、“4モーション”となって大きなトルクを瞬時に後輪側に振り分けることが可能となったがゆえに、こちらはスポーツモデルにもなかなか適したシステムであるということを、今回ゴルフRの雪上テストドライブで、あらためて教えられることとなった。

ゴルフRに搭載されるエンジンは、2Lながら最大トルクが400Nmにして最高出力は310psと、際立ったハイパフォーマンスが売り物である。

一方で、そんな高出力/大トルクゆえに、いかに電子制御の4WDシステムを採用し、いかにミシュランの最新スタッドレスタイヤを履いているとは言っても、トラクションコントロール機能をカットしてしまえば、雪上では簡単に“4輪ホイールスピン”状態に陥いることになったのは事実。

そうした中で重要と感じられたのは、前述のように本来は“従”の関係へと置かれる後輪に対しても、アクセルONで間髪を入れずに、エンジントルクが伝えられることだった。スポーツモデル向けのシステムの場合、4WD化で目指すべき能力は、単なるトラクションの向上にはとどまらないということだ。

端的に言えばゴルフRでの雪上ドライブでは、コーナリング中のアクセルペダル操作に対して、即座に酷いアンダーステアに見舞われるような事態には陥らない。もちろん、タイヤが横方向のグリップを失うことで、走行ラインは徐々に外側へと膨らんで行く。

だが、まずは前輪へとエンジントルクが伝わることで、こちら側のみが横方向へのグリップ力を失うことにはならないため、「アクセルONと同時にノーズが外側へと向いてしまう」といった、スポーツモデルには何とも相応しくないだらしない挙動が現れることにはならないのだ。

前述のように走行ラインが外側へと流れた後も、あえてさらなるアクセルONを続けることでノーズを内側へと向けることも可能である。すなわち、ある程度のスキルを持ったドライバーの手に掛かれば、アクセルペダル操作のみで積極的なコーナリングフォームを連続して作り出していくことも、さして難しくはないのがこのモデルなのだ。

そう、こうしたハンドリングの自在度の高さも、スポーツモデルにおいては「2WDを凌ぐトラクション能力が得られる」という点にも増しての4WDの重要なメリットと受け取れる一因であるはず。そして、雪の中でのゴルフRの“4モーション”の動きは、そんな期待にバッチリと応えてくれるものであったというわけだ。

ドライ路面上でのゴルフRの、2Lモデルとは到底思えない脱兎のごとき俊足ぶりはもはや折り紙付き。そして、そんなこのモデルがヘビーウエットというコンディションの中でも、すこぶる高い安心感を味わわせてくれるというのも、すでに実体験済みの事柄だ。

それらに加えて、今回のような条件下で確認できたベースのFWDモデル以上に自在度の高い走りというのも、ゴルフRならではの新たな走りの魅力として自身へのメモリーに追加されることになったもの。

路面を問わずにスポーツドライビングを堪能させてくれる、ゴルフシリーズ随一のオールラウンダー、それが、同じ“スポーティなゴルフ”という同じカテゴリーであってもGTIなどとは一線を画した、『R』ならではのキャラクターなのである。(文:河村康彦)

画像: 搭載エンジンは7速DCTがDJH型、6速MTがCJX型となる。違いは最大トルクで後者は380Nmを発生する。

搭載エンジンは7速DCTがDJH型、6速MTがCJX型となる。違いは最大トルクで後者は380Nmを発生する。

画像: 純正ホイールにミシュランのスタッドレスタイヤを装着。サイズは225/40R18。

純正ホイールにミシュランのスタッドレスタイヤを装着。サイズは225/40R18。

画像: 第5世代ハルデックスカップリングを採用。前後の駆動トルクを100:0〜50:50の範囲で配分。

第5世代ハルデックスカップリングを採用。前後の駆動トルクを100:0〜50:50の範囲で配分。

フォルクスワーゲン ゴルフ R 主要諸元

●全長×全幅×全高=4275×1800×1465mm
●ホイールベース=2635mm
●車両重量=1510kg
●エンジン=直4DOHCターボ
●排気量=1984cc
●最高出力=310ps/5500-6500rpm
●最大トルク=400Nm/2000-5400rpm
●トランスミッション=7速DCT
●駆動方式=4WD
●車両価格=569万9000円

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