久しぶりに“8”の数字が付けられたBMWモデルは最先端のテクノロジーと美しいスタイルを併せ持ったラグジュアリークーペである。MパフォーマンスモデルとなるM850iから日本へ導入された。
(Motor Magazine 2019年5月号より)
画像1: 【試乗】新型BMW8シリーズは、理想的なフォルムとパフォーマンスを手に入れた最上級クーペ

8シリーズは7シリーズのクーペ版ではない

BMWのネーミングの原則で説明すると、大きな数字なので上級グレード、偶数なのでクーペということで、8シリーズはBMW最上級のラグジュアリークーペという意味になる。少し前までの解釈の5シリーズセダンに対して6シリーズクーペという流れでいけば、7シリーズセダンのクーペ版になってしまうが、そうではない。 

実は1990年にE31の8シリーズがデビューしている。当時の7シリーズと同じV12エンジン(M70B50型、最高出力300ps、最大トルク450Nm)に4速ATを組み合わせたのが850iだった。過去には68年に登場したE9、76年モデルチェンジしたE24の6シリーズがあっただけだ。このような背景を考えると新型8シリーズも90年当時と同じく6シリーズの後継ではないクーペと考えた方がいいだろう。

BMWのポリシーから、偶数のクーペシリーズはカッコ良さが最優先されるという。とくに妥協を許さない美しい面と線で構成されるエクステリアデザインは、歴代のBMWクーペを見てもわかるように時代を超えて美しい。

画像: 4855mmという全長は4895mmとなる6シリーズクーペよりも短く、ホイールベースも35mm短い。

4855mmという全長は4895mmとなる6シリーズクーペよりも短く、ホイールベースも35mm短い。

フラッグシップに相応しく究極の美しさを追求した

新型8シリーズ(G15)を細かく見てみよう。キドニーグリルのシェイプが変わっている。左右のヘッドライト側の角の位置が下がってきている。これはBMWのスポーティモデルのグリルとして今後も定着するようだ。

また左右のグリルの間がボディ色ではなく枠と同じ材質になったことで、中央のカメラのレンズが目立たなくなった。つまり左右のグリルは部品点数として1個になったのだ。シャッター付きになり、右側(向かって左)は6枠、左側には赤外線カメラが付くので4枠が開閉する。

水温が上がると開くが、ハイスピードになると下の開口部から入る空気で十分冷えるので閉まる。空気抵抗を低減する効果があるからだ。冬など外気温が低いときには、一度暖まったエンジンを冷やさない効果もあるので燃費も向上する。市街地走行ではエンジン音を車外に漏らさないことにも貢献する。

空気抵抗という意味では床下の整流も一歩進んだ。床下にはパネルを貼ってあるし、後輪ロアアームに整流フィンが付けられているが、デファレンシャルギアよりも後ろ側のトランク下付近やマフラー周辺にもカバーが設けられ、空気抵抗低減を実現している。

BMWのクーペは後席が意外と広いが、8シリーズの後席は狭い。ヘッドクリアランスが足らず私の体型では頭がつかえて座れない。そこまでカッコ良さを追求したということだろう。後部にハンドバゲージが置けるおしゃれな2シーターと割り切れば納得できる。

ライブコクピットという最新版のインストゥルメントパネルが装備されている。タコメーターの針を反時計回りにすることで、その内側にさまざまな情報を表示できる。ウインカーレバーの頭を1回押すごとに、瞬間燃費/平均燃費、総走行距離、平均スピード、Gメーター、現在発揮しているNmとkWを表示するスポーツメーター、さらにエンターテインメントの表示までを繰り返す。

ただしリアルな空気圧表示が欲しい。BMWのハンドブックでは一カ月に2回タイヤ空気圧のチェックが指定されているが、そんな面倒なことをするオーナーは稀だ。20インチの大きなホイールを履いていると絶対空気量が少ないから、空気が漏れていったときの影響は大きい。

ランフラットタイヤだとしても空気圧は自然低下していくし、それが4輪同じように減ると今のシステムでは警告はでないという問題があるのだ。

クリスタル風シフトノブ右側にエンジンスタート/ストップボタンがある。センターコンソールに移動し、わかりやすい場所になったが座っていきなりブラインドタッチは難しい。ドライビングパフォーマンススイッチも特徴がなく平らなので、ブラインドタッチは難度が高い。スイッチを綺麗に並べて見た目は良いかもしれないが、実用性は伴っていない。

画像: ハンドル左にACC用、右にはオーディオ用の操作スイッチを用意。パドルシフトも装備する。

ハンドル左にACC用、右にはオーディオ用の操作スイッチを用意。パドルシフトも装備する。

画像: クリスタル製のATセレクターは、8の文字が浮かび上がり、夜間は光るようになっている。

クリスタル製のATセレクターは、8の文字が浮かび上がり、夜間は光るようになっている。

750Nmという大トルクを4輪で確実に受け止める

走り出すと、ドライバーを含めて2トンの車重は意外と重く感じない。4.4L V8ツインターボが発生する750Nmの最大トルクは1800rpmから4600rpmの間で絞り出せるから、高いシャシ剛性とあいまって重さを感じさせないのだ。

このトルクはさすがに2輪駆動では賄いきれなくてxDriveになっている。通常は後輪が主体で駆動し、必要に応じて前輪にも駆動力を配分する。いきなりアクセルペダル全開にしたようなケースでは、後輪が滑る前から前輪に駆動力配分するフォワード制御も採用している。前後重量バランスがほぼ対ということもあり、4WDと思わせるようなクセは感じられない。

後輪操舵も装備されている。そのメリットは高速走行中に落下物を避けるような急ハンドルを切ったときだ。右に避けて左に戻るという急操舵をするとリアが右に流れるが、後輪操舵によりそれをピタリと止めてくれるのだ。また最小回転半径が3シリーズより小さい5.2mというのも、逆位相の後輪操舵の恩恵だ。

ワインディングロードでカーブに入るとき、ターンインからコーナリング状態になるまでの素直さがないのは後輪操舵の欠点だが850iでは目立たなくなった。ラグジュアリークーペとしてどこへでも自信を持って出かけられるが、スポーティクーペとしてもドライビングを楽しむことができるのもM850iの魅力だ。

本格的なスポーツクーペを望むならM8を待たなくてはならない。またボディバリエーションも追加される可能性もある。今後も8シリーズに注目だ。(文:こもだきよし)

画像: N63B44D型V8ツインターボエンジンを搭載。最高出力530ps、最大トルク750Nm。

N63B44D型V8ツインターボエンジンを搭載。最高出力530ps、最大トルク750Nm。

■BMW M850i xDriveクーペ主要諸元

●全長×全幅×全高=4855×1900×1345mm
●ホイールベース=2820mm
●車両重量=1990g
●エンジン= V8DOHCツインターボ
●排気量=4394cc
●最高出力=530ps/5500rpm
●最大トルク=750Nm/1800-4600rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=8速AT
●価格=1714万円(税込)

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