すでに新型となるタイプ992の発売はスタートしている。しかしここに、あえて991を見直すべき新スタイルが完成した。そのスピリットにはGT3やRSR、GT3Rの魂までもが息づいているのだ。(Motor Magazine 2019年8月号より)
画像1: 【海外試乗】タイプ991が魅せた究極の花道「ポルシェ911スピードスター」。迫力の姿と刺激的な走りに迷いなし!

1948台限定でタイプ991の有終の美を飾る

「さよならを言うのはまだ早い」。先代のタイプ991のファイナルモデルとして1948台限定で登場した911スピードスターをドライブした時、正直そう思った。

このモデルは、2018年にポルシェの70周年を記念して発表された「コンセプト」の市販版だ。端的に言えば、ウインドスクリーンの上端をカットしたカブリオレのボディに、991-Ⅱ型GT3のパワートレーンと足まわりをそっくり移植したもの。単なる「911」ではなく、よりハイパフォーマンスな「GT3スパイダー」と呼ぶべきだろう。

カブリオレに比べて低いウインドスクリーンと、「ロープロファイルフライングライン」と呼ばれるダブルバブルのリアフードが印象的なボディは、カレラ4Sカブリオレがベースとなった。911GT3譲りのフロントスポイラー(リップはスピードスターの専用デザイン)を備えていることもあって、そのたたずまいは迫力に満ちている。

画像: 左がポルシェ911スピードスターのオプション仕様「ヘリテージ デザイン パッケージ」。ボディ色のGTシルバーが、モータースポーツでの輝かしい歴史を思い起こさせてくれる。

左がポルシェ911スピードスターのオプション仕様「ヘリテージ デザイン パッケージ」。ボディ色のGTシルバーが、モータースポーツでの輝かしい歴史を思い起こさせてくれる。

トランスミッションは6速MTのみで軽量化

もともとカブリオレの設計自体、ボディ剛性には十分な余裕を持たせてある。そのためスピードスターではとくに、新たな強化は行っていない。その代わりにボディパネルにはCFRPを多用しており、ボンネットフードは6kg、フロントフェンダーは片側2.8kg、一体型の大きなリアフードもたった10kgしかない。そうした軽量化の追求は他でも徹底される。たとえばソフトトップは、ロック機構のみを自動とした手動式を採用。エキゾーストシステムも新たにステンレス製となり、従来より10kg軽くなった。

さらに、ギアボックスは6速MTの設定しかない。「PDK(DCT)はMTより25kgほど重いからね。7速MTにしなかったのは、シフトフィールが良くないのと、1枚ギアが少ないぶん軽いし」と、パワートレーン開発担当のマークス・ヘンデス氏は説明する。その甲斐あって911スピードスターの車重は、GT3よりもわずか増の1465kgに纏められているのである。

彼によれば、リアに収まる自然吸気の4Lフラット6ユニットの進化には、RSRやGT3R開発の経験が生かされているそうだ。噴射圧を引き上げ、噴射効率も最適化させた高圧フューエルインジェクター、個別スロットルバルブ付きインテークシステムなどの採用により、10ps上乗せした最高出力510psを達成。ガソリンパティキュレートフィルターを2基備えることで、欧州排出ガス基準EU6DGもクリアするなど、アップデートが施されている。 

画像: クローズドのスタイルも美しい。座ってみるとヘッドクリアランスも十分で、後方視界もしっかり確保。

クローズドのスタイルも美しい。座ってみるとヘッドクリアランスも十分で、後方視界もしっかり確保。

一方シャシは、リアアクスルステア、ダイナミックエンジンマウント、PTV、PSM、PASMをフル装備。20インチの鍛造アロイホイールにはミシュランパイロットスポーツカップ2が奢られ、ブレーキはPCCBが標準装備されるなど、GT3そのもののメニューになっている。このようにまるで、991型のいいとこどりをしたようなパッケージを持つスピードスターが、走らせて面白くないわけがない。

2速アイドリングからでも、しっかり加速するNAユニットは、扱いやすい。アクセルペダルに力を込めると、何のためらいもなくレッドゾーンの9000rpmまで吹け上がる。素晴らしいのは、トップを開け放って走っていると、レブカウンターの上昇に合わせて背後から迫力たっぷりのNAサウンドが聴こえてくることだ。また低い着座位置とコクピットまわりの空力処理の巧みさもあって、低いウインドスクリーンでも不快な風の巻き込みがほとんどない。これは特筆に値する。

試乗の舞台となったイタリア サルディーニア島の荒れた路面でも、心配していたボディ剛性の不足は感じられず、ドライ路面ならGT3譲りの足まわりと抜群のグリップを誇るスポーツタイヤが、ガッチリ路面を捉える。加えてリアアクスルステアの恩恵もあり、ワインディングでの挙動は510psのRRとは思えないほど軽快だ。ルーフを取り払った開放感も手伝って、ノーマルのGT3より軽いのでは?と錯覚するほどだ。

そんな圧倒的パフォーマンスだけでも十分に満足だが、さらに驚いたのはタウンスピードでの乗り心地の良さだった。ワインディングで感じた硬質感とは違い、足まわりがしなやかに動いているように感じる。これは、ダイナミックエンジンマウントが効いている証拠だろう。

また小気味の良いタッチの6速MTには、出来のいいオートブリッピング機能やヒルアシストも付いているので、ノーマルの911カレラのような気楽さで乗ることもできるのだ。これぞまさに991型911の最後を飾るに相応しい1台。まだまだタイプ991には、これほどのポテンシャルが残っていたんだと、改めて感服させられた。(文:藤原よしお)

試乗記一覧

■ポルシェ911スピードスター主要諸元

●全長×全幅×全高=4562×1852×1250mm
●ホイールベース=2457mm
●車両重量=1465kg
●エンジン= 水平対向6DOHC
●排気量=3996cc
●最高出力=510ps/8400rpm
●最大トルク=470Nm/6250rpm
●駆動方式=RR
●トランスミッション=6速MT

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