2005年に登場した5代目E90型BMW 3シリーズはプレミアムDセグメント市場に大きなインパクトを与えている。3シリーズのフルモデルチェンジに合わせたかのように同じ年2005年にアウディA4が新世代に進化、メルセデス・ベンツCクラスも2004年に大幅な改良を行なっている。5代目E90型BMW 3シリーズの試乗レポート第3弾は、ライバルとなるであろうA4、Cクラスと比較しながら分析している。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年6月号より。タイトル写真は320iと330i)

「攻め」のために重ねた周到な準備が実を結ぶ

それにしても驚かされるのは、最近のBMWの、ニューモデルが発表されてから日本へ導入されるまでのタイムラグの小ささである。それは、つい先日発表されたばかりの新型3シリーズでも、例外ではなかった。何と4月12日に正式発表が行なわれ、早くも日本の路上を走り出すこととなったのだ。

今回は320i、330iの2台に、直接のライバルとなるメルセデス・ベンツC230コンプレッサーアバンギャルドと、アウディA4 2.0 TFSIクワトロの2台を加えた計4台にて、2泊3日の長距離比較テストを敢行した。方々から伝えられている極めて高い評価が、日本の環境においても当てはまるのか。気になる使い勝手はどうなのかを徹底的に見極めてみようというのが、その主題である。

早速、走りの印象をと言いたいところだが、その前にまずは改めてじっくりと、クルマ全体を見回すことから始めたいと思う。

これまで伝えられているように、新型3シリーズは先代E46よりボディサイズをさらに拡大。特に全幅は1815mmにまでなった。北米ではまったく問題ないサイズだろうし、どうもドイツ人を始めヨーロッパの人々も全幅にはあまり頓着していない様子。しかし日本では、それが使い勝手に与える影響は小さくないはずだ。走り出す前に、まずここを見極めておくのは、やはり必要なことだろう。

初対面の印象は、やはりと言おうか、率直に言って「大きくなったなぁ」というものだった。ただし、それは実際にボディが拡大された以上に、そこかしこにある「大きく見せる要素」によるところも小さくないと気付く。平滑な面でマッシブに盛り上がったボンネットや、ボリューム感のあるフロントフェンダー、サイドの彫りの深いキャラクターラインとその前後の複雑な面構成等々の肉感的な造形が、サイズ以上の存在感を醸し出しているのだ。

7シリーズやZ4、あるいは5シリーズの衝撃からするとコンサバだと言われていたし、事前に公開された写真を見る限は僕自身もそうかなと思っていたエクステリアだが、実物は十分にアグレッシブなものだったのである。

さらに見事なのは、それと同時に普遍的な3シリーズらしさもしっかり継承していることだ。ロングノーズのプロポーションやキャビンの造形などが、まさにそれに当たる。唯一、個人的にはテールランプの形状を含めたリアまわりはやや煩雑とも思うが、それでもひと目で3シリーズだとわかる仕上がりであることは間違いない。

新型3シリーズを見た後では、A4はまるで好対照と思えるほどクリーンに映る。よりエモーショナルなデザインを指向してほとんどのボディパネルを改めてきたのにもかかわらず、ディテールだけでなくすべての面で「攻め」のデザインを採用してきた3シリーズと較べると、相対的にはまだまだ大人しく見えるのだ。でも、それは決してネガではない。輸入車の購買層が、必ずしも押しの強さを求める人ばかりではないはずだからだ。

この2台と並べると、Cクラスは小さくすら見えてしまうのが正直なところ。けれど、このサイズが日本の道にぴったりなのも、また確かだ。

実はテスト中、3シリーズが予約したホテルの建物付属駐車場に入れず、離れた場所の機械式駐車場に回されるという事態に遭遇した。それだけで断定はできないが、ここ日本ではやはり使い勝手の良いサイズの限度を逸脱しつつあるのは事実だろう。

全幅1800mmまでしか許容しない駐車場でも、ギリギリ入れられるところは少なくないと思うが、たとえば家族で使うクルマなどとしては、それでは困る場合も多々あるはずだ。

実際に乗り込むと、5シリーズと似た雰囲気の新型3シリーズの運転席まわりは、サイズアップ分ほど広くは感じない。しかし、まあそれも3シリーズらしいと言えるのかもしれない。実際、走らせてみても四隅に手が届く感じは残っている。

一方、後席は明らかに広くなった。座面長はさほど変わらないが、足元や膝の前の余裕が増している。肩まわりも窮屈な感じはなく、なかなか快適と言える。

しかし、この点でもっとも健闘しているのはCクラスだ。室内幅には、3シリーズとの全幅の分ほどの差はないし、後席も十分なサイズで足元の広さはほぼ3シリーズと変わらない。同じFRレイアウトでも、Cクラスのエンジンは最大でV8。パッケージングの効率はやはり優れているのである。

相変わらずクオリティの高さでは際立つA4だが、室内の広さの点では逆に縦置きFFの効率の悪さがもろに出てしまった。後席は足元が狭く、シート自体も小ぶり。ただしトランクルームは逆に広くて、容量は460Lある。

ちなみに新型3シリーズも同じく460L、Cクラスは430Lとなる。いずれもクラス平均値を上回っているのはさすがと言えるだろう。

画像: ボディ剛性が高く、そのおかげで路面からの衝撃をすべてバネ下で収められてしまう感じの3シリーズ。サスペンションはダンピングこそ強力ながら基本的にはソフトな設定。

ボディ剛性が高く、そのおかげで路面からの衝撃をすべてバネ下で収められてしまう感じの3シリーズ。サスペンションはダンピングこそ強力ながら基本的にはソフトな設定。

BMWらしさとは何か、ライバルとの明確な差

おおよその感じが掴めたところで、いよいよその走りを味わってみる。まず乗り込んだのは320iだ。

直径360mmという小径のステアリングは中立付近がやや重めで手応えもやや弾性感があり、スッキリとした軽さの中に抜群の精度感を味わわせてくれた先代と較べると、やや繊細さを欠く感がある。ただし、操作系すべてのバランスが取れているため、重さ自体は程なくして気にならなくなる。

それにしても驚かされるのはボディの比類無い剛性感だ。サスペンションはダンピングこそ強力ながら基本的にはソフトな設定。ランフラットタイヤも、銘柄によって違うのだろうが少なくとも試乗車が履いていたミシュランはサイドウォールがしなやかで、乗り心地はなかなか良い。通常のタイヤに較べれば重くドタッとした感は依然として残るものの、屈強なボディのおかげでショックはすべてバネ下で収められてしまう。街中での乗り心地は、十分に快適と評せるものだ。

しかし高速道路では、うねりや段差を乗り越えた際に、そのサイドウォールがたわんで戻るかのようにブワンと煽られることもあった。特に波状路では、上下動が長く残る感があり、高速コーナーではそれがステアリングの正確性を若干損なっているようにも思う。重箱の隅を突くような話だが、こうした繊細な感覚こそが、皆がBMWに求めているもののはず。今後さらなる熟成が進むことを期待したい。

より輝いて見えたのは330iだ。前後225サイズの17インチホイールを履くシャシは適度に締め上げられ、おかげで操作のすべてに曖昧さを排したキレの良い操縦性を見せる。硬めではあってもスッキリ減衰する特性ゆえに、快適性も悪くはない。個人的には、むしろこちらの方が好みだった。

ハンドリングも大したものだ。ステアリングもアクセルも、あるいはブレーキまでも、レスポンスはシャープで正確。打てば響くとはこのことかというくらい、すべての操作に活き活きと反応するのに気を良くして、もっともっと攻め立てたくなる。

特筆すべきは6気筒モデルにオプションとなるアクティブステアリングの熟成ぶりで、改良されたとは言え5シリーズではまだ残る操作上の違和感が、ほぼ完璧に解消されている。何も聞かされないまま乗って、しばらくはアクティブステアリン付きだと気づかなかったのは本当の話。ワインディングに入り、やっとそれとわかったほどだ。3シリーズ程度のサイズや重量なら不要な気もする反面、この出来なら積極的に選びたくもなる。後述するように、キビキビ感のみならず直進性にも大いに貢献するシステムだけに、これは相当悩むポイントとなりうる。

ただし、ノーマルステアリング車も含めて、E46型と明らかに異なるのは、単に曲がりたがるばかりでなく、懐深い安定感も備わっているところである。

相当な大舵角までリニアに反応するフロントに、リアがどこまでも追従して不意に路面を離すことがない。中立付近では何となく違和感があったステアリングフィールも、こうした場面ではしっくり馴染む。ボディは大きくなったのに、ハンドリングの一体感は先代モデルを上回るのではと思わせるほどだ。それでいて直進時だって、勝手に真っ直ぐ走るというほどではないものの、直進のために気を煩わされることもないという、BMWらしい「あの感じ」はしっかり守られている。

飛び抜けて落ち着いたハンドリングに躾けられているのがCクラスだ。そのステアリングはセンター付近でビシッと芯の通った感触を示し、直径375mmと大きめのステアリングホイールに軽く手を添えておくだけで見事なほどに直進していく。サスペンションも、縮み側はしなやかなのに、伸び側はしっかり減衰して、ゆっくり姿勢を戻していく特性とされ、快適かつフラット感も上々。このリラックスできる高速巡航性能は、依然としてクラス最良のレベルにあると言っていい。

3シリーズも、オプションのアクティブステアリング付きならシャシ性能的にはこの領域に相当にじり寄っていると言えるが、Cクラスと較べるとまだ外乱に進路を影響されやすいなど、荒っぽさは残る。無論、それは意図的にでもあるのだが。

A4 2.0 TFSI クワトロも、高速性能は文句ない。一番の要因は、言うまでもなくフルタイム4WDのクワトロ。特に意識しなくても、クルマが真っ直ぐ走っている。しかも、その特性は条件が悪くなるほどに光る。

この優れた土台を活かして、サスペンションは操舵レスポンスを重視した設定になっている。サーボトロニックの採用で特に低速時は極端に軽くなり、それでいて掌に十分な路面感覚をもたらすステアリングともども、軽快なスポーティ感を演出。ワインディングで大いに楽しめるというタイプではないが、限界もつかみやすく、安心してペースを保つことができる。

ただし、スプリングに対してダンパーの減衰力が足りないのか、特に上下方向のうねりや段差へ過敏に反応するのは大きな弱点。乗り心地にも直進安定性にもマイナス要因となっている。これは先代でも指摘されていたことであり、またS4ではほとんど感じないのに、なぜ改善されないのだろうか。速度が高くなれば気にならなくはなるが、その快適と感じる速度域は、日本の法定速度の範囲を大きく超えてしまうのである。

ダイナミック特性と快適性を同時に向上させるという新型3シリーズの開発のテーマは、特に前者においては相当なハイレベルで達成されたと言える。反面、特に強調されている快適性については、E46型より明らかに良いとはまだ言い切れない。ただし、もっと距離を伸ばせばダンパーのフリクションも取れて、乗り味はマイルドになるはずだから、その経過を見極める必要はあるだろう。逆にハッキリと進化が感じられたのは静粛性で、特にロードノイズはグッと低減されている。

画像: この取材ではメルセデス・ベンツC230コンプレッサーとアウディA4 2.0 TFSIクワトロも用意されていたが、それぞれが明快なテイストなり世界観なりを持っているのも興味深かった。

この取材ではメルセデス・ベンツC230コンプレッサーとアウディA4 2.0 TFSIクワトロも用意されていたが、それぞれが明快なテイストなり世界観なりを持っているのも興味深かった。

数値よりも感覚性能に重きを置くBMWの姿勢

今回集まった4台は、すべてエンジン形式が見事に分かれていた。唸らされるのは、こちらもそれぞれが明快なテイストなり世界観なりを持っていたこと。あるいはシャシ以上に、そのクルマの印象を左右するパワートレーンなだけに、この辺りはさすがプレミアムブランドだと感心させられた。その4つのパワートレーンの中から、独断でもっとも印象的だったものを選ぶとすれば、330iが積む直列6気筒の3Lバルブトロニックユニットということになる。

実は乗り込んだ当初は、回り方が硬くてトルク感も物足りないと思ったが、距離を重ねていくうちに、そのフィーリングは劇的に改善されていった。

まず驚いたのはピックアップの鋭さである。低回転域から、ひと踏みで大きなトルクがもたらされるのにまず驚く。さらに回していくと、充実した中回転域を過ぎて高回転へ差し掛かった辺りから、まるで鳴りの良いエレキギターを思いっ切りチョーキングさせたかのような、金属的でありながら泣きも効いている迫力あるサウンドを響かせ、一気に7000rpmのレブリミットにまで到達する。その過程は堪らない快感だ。従来のストレート6とは違う種類の回転感覚とサウンドだが、きっとこれも新たな魅力として、多くの人を虜にするに違いない。

では320iはと言えば、こちらも動力性能は十分に満足の行くレベルにある。車重のせいかセッティングが異なるせいか、トップエンドは以前に試乗した120iほど伸びないが、最後までスムーズさは失われず、気持ち良く回転を高めていく。

トルク特性もフラットで谷はなく、どこから踏んでも即座に欲しいだけの加速を得られる。そのドライバビリティの良さには新採用の6速ATも貢献している。キックダウンの際のギアのつながりは素早く、しかもショックは小さいから、走りは上質そのものである。となると、一層気になるのが6速MT仕様。おそらくはもっともっとレスポンスに富んだ走りを堪能できることだろう。

C230コンプレッサーは、本格的に過給が始まる前、アイドリング+αの領域での最初のひと踏みこそ、搭載するのが過給ユニットであることを意識させるが、そこから先は上から下まで1.8Lとは思えないほどトルクがぎっしり詰まっていて、ブン回そうなどとは思わせないが、リラックスした走りにも、ちょっとペースを上げたいという時にも、実に頼り甲斐がある。

先代の1.8Lでは同じような雰囲気だったA4のターボユニットだが、直噴のTFSIへと進化した2Lは、その優れた柔軟性はそのままに、いかにもターボらしく回すほどにパワーが二次曲線的に盛り上がる、楽しめる特性をも併せ持つことに成功している。

6速ATにブリッピング、つまりシフトダウン時に回転合わせのための空吹かしを入れる機構まで備わることもあって、走りのキレ味はなかなかのものだ。2000rpm以下の領域でボーッという排気音がこもりがちになるのは減点材料だが、これもまた紛れもなくスポーティユニットと呼べる仕上りを見せていると言えるだろう。

ハンドリングにしてもそうだが、この3ブランドのエンジンを含むパワートレーンについての考え方は、まるで異なっている。

その中でBMWが、数値ばかりを追うのではなくリニアなレスポンスやパワー感といった「感覚性能」に、より重きを置いているのは最新ラインナップでも変わりない。率直に言ってバルブトロニックを最初に用いた先代318iの2Lユニットは、高効率性の陰でそうした味の部分がやや薄まってしまった感はあった。しかし1シリーズへの搭載を経て熟成が進んだ2Lも、そしていよいよバルブトロニックを採用した最新のストレート6も、その点では、もはや一切の不満を感じさせないものに仕上がっている。

特にBMWのストレート6に対する過剰とも言える期待にしっかり応えつつ、新たな歓びをも提示した330iの3Lユニットには、すっかり心酔させられてしまったというのが正直なところだ。

そもそも3シリーズが属する欧州Dセグメントは、駆動方式もエンジン形式もバラエティに富んだ個性的なモデルが多数揃うカテゴリーだ。その中で新型3シリーズは、さすがベンチマークらしく威風堂々、基本コンセプトにいささかのブレも感じさせることなく、実に3シリーズらしい形で進化を遂げたといえる。しかし、それは単純に冒険を避けたということとは違う。

今回連れ出したCクラスやA4のように、それぞれのアプローチでその牙を突き崩さんとするライバル達に取り囲まれる中では、守りに入ったら負け。3シリーズは貪欲なまでにそのコンセプトを突き詰める「攻め」の姿勢を貫いている。それはエクステリアデザインに何より顕著だし、フットワークにしろエンジンにしろそうだ。従来同様という部分はなく、すべてにおいて積極的なチャレンジが行なわれている。

見事なのは、それでいて紛れもなくこれぞ3シリーズと納得させるアイデンティティの継承も確実に行なわれていることだ。あるいは見て乗って、最初は面喰らうかもしれないが、きっとすぐに、やはりこれは3シリーズだと誰もが納得するに違いないということは、密度の濃いロングドライブでその真価を深く味わってきた僕が太鼓判を押す。

何しろ、2泊3日で1200kmあまりという普段ならお腹一杯になるような距離を走って、それでもなお、まだまだ乗り足りないとすら思わせるクルマだったと言えば、僕が言いたいことを、きっと理解していただけるのではないかと思う。(文:島下泰久/Motor Magazine 2005年6月号より)

ヒットの法則のバックナンバー

BMW 320i(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4525×1815×1425mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1460kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1995cc
●最高出力:150ps/6200rpm
●最大トルク:200Nm/3600rpm
●トランスミッション:6速AT(6速MTも設定)
●駆動方式:FR
●車両価格:399万円(2005年当時)

BMW 330i(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4525×1815×1440mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1550kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:250ps/6600rpm
●最大トルク:300Nm/2500-4000rp
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:625万円(2005年当時)

This article is a sponsored article by
''.