2005年のジュネーブオートサロンで鮮烈なデビューを飾ったアルファ159は、E90型BMW3シリーズやB7型アウディA4、W203型メルセデス・ベンツCクラスなどがひしめく欧州プレミアムDセグメントにあって、どう評価されていたのだろうか。販売が開始されて間もなく、ドイツ・ミュンヘンで開催された国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年8月号より)

ライバルに負けない車格と大きさを手に入れて登場

アルファロメオはこれまでの156シリーズで独特、独自の地位を築いてきた。ライバルに比べて小柄でかつスポーティ。それが功を奏してヒットはしたものの、もう少し大きな市場に挑戦するためには、あのサイズ感はいかにも中途半端だったのだろう。

156の後継となるアルファ159は、大きくなったと評判のE90型BMW3シリーズにも負けない大きさを手に入れて登場した。ライバルたちと比べてもより幅広く、より低いスタイルだから、一見してアルファらしいスポーティネスを感じることはできる。イタルデザインの作品だ。

ボディサイズ以外のニュースは、ごく大まかに言うと以下の3つになる。

・GMユニットをベースとした直噴ストイキJTSエンジンを、直4とV6の2種類用意。
・トルセンCデフを用いた4WDシステムQ4を搭載。
・NVHにこだわって仕上げられた走行性。

以上を確認するため、ドイツ・ミュンヘンで開催された国際試乗会に出かけた。予め断っておくと、試乗車はすべて6速MTで、セレスピードやオートマチックの生産はもう少し先になる。

まずはトップモデルの3.2L V6 JTS Q4に乗り込んだ。相変わらず細身のシートがアルファロメオらしい。助手席との間のスペースを見れば、156とはまったく違う、クラスさえ異なるような室内スペースを得ているのがわかる。

エンジンを掛けたくなるのを抑え、インテリアをじっくり観察してみよう。

いきなりだが、ステアリングホイールのセンターパッドとスポークの形状および質感にはがっかりさせられた。デザインは好みの問題だとしても、あまりにプラスチッキーだ。156ならまだしも車格の上がった159にこれはどうか。ついでにデザインへの感想をもうひとつ言わせてもらえば、ドライバーサイドに向けられたダッシュボードデザインも古めかしい。BMWがやり尽くした手法だし、近年ではサーブが積極的に用いたカタチで、新たに使うにあたってそれらに対するアドバンテージが何もない。

メーターナセルだけはアルファらしく円形に縁取られている。大判のメーターは向かって左がフルスケール260km/hのスピードメーターで、液晶モニターを挟み、右に9750rpmからレッドとなるタコメーターが置かれる。

レザー巻きのステアリングホイールそのものは、パッドとスポークの格好はともかく、太さ、形状、ともにスポーティな走りを十分に期待させるものだ。クラッチペダルを踏んで6速MTのシフトノブを軽く動かし、ギアを入れてみると、ストロークフィールが見事にこれまでのアルファ風だ。血は争えないというべきか。例のちょっと長めで適度なクッションを伴ったシフトフィールである。

まったく未経験のクルマに乗るときの常で、ヘッドライトやハザードの位置を確認する。ライトのオンオフダイヤルの使い勝手が少々悪い。

キーをひねる、のではなくセンターパネルにあるスタートボタンを押す。クラッチを切っていなくてもエンジンは掛かる。目覚めたV6ユニットの鼓動は、紛れもなくアルファのもの。ただし、クルマのNVH性能が相当に上がっているため、聞こえてくる音は極めて控え目で、音と脈動でドライバーをけしかけるような積極性は薄まった。

軽くブリップしてみる。低回転域にもどかしく感じられるポイントがあったがそれも一瞬のことで、アクセルペダルに十分な重量感を与えながら野太いサウンドを発して吹け上がる様は、正しくアルファのV6然としている。

そう、ファンとしては最も気になっていた部分でもあるだろう、GM製エンジンの腰下(至るところにGMマークがある!もちろん2.2もそうだ)にアルファのヘッドとはいえ直墳ユニット、という組み合わせに、昔日のアルファV6フィールの消散を危惧。個人的にはそれは杞憂に終わった。

そうとわかれば俄然、やる気になった。軽いクラッチペダルを踏む。トルクは旧3.2Lエンジンの+11%もあるから、アイドルスタートもラクだ。

走り出してすぐにわかるのは、やはり156とは別物の「しっかり感」である。大きさといい、乗り出しの味付けといい、159を156の後継と考えるよりむしろ、まっく違うモデルだと思ったほうが入りやすいのではないか。

そんなことまで思うほどに、別の、よく言えば最新の乗り味になった。プジョー407などもそうだったが、「らしさ」は「らしさ」として、最新のクルマに求められる安全性や静粛性、剛性を確保した結果である。

中立位置でややあいまいなステアリングフィールは高速直進時の安心感を狙ったものだし、その先の適度にロールを伴ったリニアでシャープなノーズの動きは、クルマを大きく感じさせないことに成功している。

シフトチェンジフィールは悪くない。スパッスパッとキマる類ではないが、もどかしさは感じない。もっとも、試乗車両は相当ハードに乗られていたらしく、クラッチの切れがあいまいで、デフからも常に音が出ていた。いい状態ならば、もっと気持ち良く乗れたはずだ。

画像: 正面に大径のスピードとタコメーターを配し、センターコンソールには燃料/水温/油圧のサブメーターを置く。エンジンのスタートはキーをサブメーター横のスロットに差込み下のボタンを押す。オプションの6.5インチのナビはアルファとしては初めて実用的となった。

正面に大径のスピードとタコメーターを配し、センターコンソールには燃料/水温/油圧のサブメーターを置く。エンジンのスタートはキーをサブメーター横のスロットに差込み下のボタンを押す。オプションの6.5インチのナビはアルファとしては初めて実用的となった。

得意種目となった高速走行、JTSは回す楽しみが増した

街中ではアルファと思えぬくらいに静かである。振動もよく抑えられ、乗り心地も優秀だ。それでいて、挑戦的なエグゾーストサウンドはしっかり聞こえてくる。BMW3シリーズやプジョー407といった最新の欧州Dセグメントセダンと比べても、ユニークさをはっきりと感じる。

260psとなって、今やGTAを凌駕するパワースペックを手に入れているが、GTAオーナーが数字だけを見て買い換えたとしたら、裏切られるだろう。十分にパワーはあるが、過激な演出はない。クルマそのものが大きくなり、重くなり、剛性が増していることもあるだろう。

159 Q4が260ps出ているならば、156GTAは300ps出ている、と乗り手の感性は言いたくなるだろう。それだけ159が現代の、最新のクルマだということだ。156に見受けられた「危うさ」は微塵も感じられない。

そのことは高速道路でも追認される。高速走行におけるスタビリティの高さに関心するとともに、メーター読みで220km/h弱までは速度をそれほど感じないし、怖さも不安もない。風切り音も格段に減少している。

気になったのはブレーキフィールだ。これだけは昔のままのフィーリングである。初期のタッチがあいまいで、空走を感じてしまう。効き自体はそれほど悪くないし、慣れればリニアに思える類のものではあるが。

ちょっとしたワインディングに持ち込んでみた。リアに57%のトルクがスプリットされるというQ4システムだが、その恩恵はすぐに感じることができる。ノーズの切り込みがクイックで、リアもその動きにしっかりついてくる。

ただそのぶん、ドライバーはラインをイッパツで決めてやる必要があり、目測を誤ると速さによってはその動きに驚くこともあった。もっとも各種電子デバイスがそのあとは補ってくれるし、何よりクルマがしっかりとしているおかげで、突発的な対処も安心して行える余裕があるのが有難い。よりアクセルコントロールが重要になるという点でも、Q4の走りは刺激的だ。

FFの直4JTSはどうか。街中のしっかり感やNVHにはQ4とほぼ同じ印象を持った。高速域のスタビリティに関しては、160km/h以上の領域で少しだけ劣るものの、それでもオーバー200km/hまでラクにもってゆける。

気になるのはV6同様に、エンジンだろう。メカニカルに吹け上がる官能さは期待できないが、これまでのJTSよりも格段に元気に回る。低中回転域はもちろん、上でもしっかりとパワー感がついてくる点がこれまでのユニットとは違う。今度のJTSは積極的に回して楽しもう、という気にさせる。6速化されたのも嬉しいニュースだ。

ハンドリングも、Q4のFR風なシャープさこそないものの、こちらは伝統のアルファFFらしく、コーナリング途中で修正を入れることがかえって楽しいと思えるような、適度にダルで適度に自然なフィールをしっかりと受け継いでいる。

ドライブすることに不満はなし。ただ、後席は問題だ。空間的には広いが、座面の形状、クッション、背もたれの角度がなっていない。5分でも座るのは憚られた。この点で、同じホイールベースである166には存在理由がある。後席に人を載せるなら、迷わず166だ。

もっとも、そんなことを第一条件にしてアルファロメオを、ましてや159を買う人がそう多いとは思えないが。(文:西川 淳/Motor Magazine 2005年8月号より)

画像: アルファ156の後継として登場したアルファ159。「159」という数字は、1950年代にグランプリシーンを席巻したアルファロメオ ティーポ159につながる栄光の証。

アルファ156の後継として登場したアルファ159。「159」という数字は、1950年代にグランプリシーンを席巻したアルファロメオ ティーポ159につながる栄光の証。

ヒットの法則のバックナンバー

アルファロメオ アルファ159 3.2 V6 Q4(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4660×1828×1417mm
●ホイールベース:2700mm
●車両重量:1740 kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3195cc
●最高出力:260ps/6200rpm
●最大トルク:322Nm/4500rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:4WD
※欧州仕様

アルファロメオ アルファ159 2.2 JTS(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4660×1828×1417mm
●ホイールベース:2700mm
●車両重量:1490 kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:2198cc
●最高出力:185ps/6500rpm
●最大トルク:230Nm/4500rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
※欧州仕様

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