2005年3月、ジュネーブモーターショーでヴェールを脱いだ新型マツダMX-5(日本名:マツダ・ロードスター)。1989年の登場以来、世界で70万台以上を販売し、「世界で最も多く生産された2人乗り小型オープンスポーツカー」としてギネスブックにも認定されているライトウエイトスポーツは、3代目でどのように進化し、どのように変わったのか。日本デビューの前にハワイ島で行われた試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年8月号より)

スペックからではわからない低速のトルク感

3代目マツダ・ロードスターにようやく乗ることができた。今回ハワイで試乗したのは北米仕様なので、マツダMX-5ミアータというネーミングになる。まだ右ハンドルの日本仕様に乗ることはできないが、ほぼ全容が掴めたのでレポートしよう。

今回は貴島チーフエンジニアの狙う「人馬一体」をどこまで達成しているかを検証してみようと思う。

乗り込む前にエクステリアデザインをチェックする。3代目になってもそのスタイリングに初代から続くDNAが残っている。角の丸みがある「そら豆」系のシェイプは、誰が見てもMX-5とわかる。モデルごとに違う形にしていくという手法もあるが、このようにデザインに歴代のDNAを残すことが、名車としてのブランドを築くことに繋がる。

それでも3代目としての特徴は持っている。それはホイールハウスの膨らみだ。RX-8ほどではないが、タイヤがボディの四隅に張り出し、力強い感じになっている。これはデザインからイメージできる「人馬一体」である。いかにも走りそうに見えるというのは素晴らしい。

「最近、マツダのデザインは元気がいいですね」とマツダの井巻社長に話したことがある。社長がデザイナーに与えたテーマは「乗らなくても走りそうだとわかるデザイン」で、「その実現のためにはお金を惜しまない」と言ったそうだ。このデザインの実現には井巻社長のリードもあったのだ。

ボディは横幅が広くなり、3ナンバーサイズになった。全長と全幅の増加以上にホイールベースとトレッドは大幅に広がっている。つまりそれだけタイヤが四隅にレイアウトされたわけで、これはディメンションからの「人馬一体」の実現だ。

さらにエンジンを135mm後退させると同時に、48Lの燃料タンク(日本仕様50L)を110mm前進させて重量物を車体の中央に集め、ヨーの慣性モーメントを減らしてハンドリング性能の向上に努力している。

バッテリーを4つのタイヤの内側に置いたのも同じ理由だ。デザイン面で残念だったのはタイヤとホイールアーチのクリアランスが少しばかり大きいところだ。走りのイメージが削がれている感じがしてしまう。ちなみに今回試乗したクルマは205/45R17 84Wのミシュラン プレセダを履いていた。

さて乗り込んでみよう。シートは大きくなり、お尻と腰のホールド性が良くなった。ハイバックシートだが、バックレストが高くなったので、ボクの高い座高でもヘッドレストが後頭部に来るようになった。ただし座面の表皮部分はもう少し硬くても良いと思った。

スマートキーなのでキーを挿さずにステアリングコラムにあるイグニッションスイッチを回す。最大トルクの発生回転数が少し高めで低速トルクが心配になるが、実際に走り始めるとそれは杞憂だったことがすぐにわかる。スペック数値から想像するより低速トルクはあり、軽量ボディの効果もあって不満はない。

30km/hでは6速で1000rpm以下だが、そこからアクセルペダルを踏み込んだときにも音や振動を出すことなく加速することが可能だ。

トルクカーブは5000rpmがピークだが、割とフラットトルクなので軽量ボディには余裕がある。エンジン音については少々おとなしい気がする。もっと吸気音、排気音を聞かせてくれた方が、MX-5のオーナーは嬉しいはずだ。高回転になっても口を塞がれて歌っているかのようで、澄んだ音質でない。音の演出に関しての「人馬一体」は、チューニングショップの腕の見せどころになる。

クラッチペダルの操作はやりやすい。ペダル操作に対して遅れなくスムーズにクラッチディスク面がミートしてくれるから、坂道発進も難しくない。6速マニュアルトランスミッションはちょっと重めだがしっかりしたシフトフィールを持っている。シフトストロークは短めだがゲートは明確でシフトミスは起きにくい。

MX-5が得意なのはコーナリングだ。広がったトレッドとホイールベースが効果を発揮しているのと同時に、MX-5専用に開発された軽量サスペンションがうまく働いているのがわかる。しなやかに路面を捉えつつもしっかりしたフィールをドライバーに与えてくれる。ギューッとコーナリングするのではなく、まるでミズスマシのような感覚である。スイスイ動くのだが安定感も高い。

ハワイ島の山を上りながらワインディングロードを走ったが、エンジンパワーに脚が勝っている感じでDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)はほとんど作動しなかった。次回はサーキットを攻めてみたいと思わせる魅力を持っている。

ボディは緩いところがなく、しっかりしている。これによりハンドリング性能と乗り心地性能の両方を向上させることに成功した。オープンで走ってもブルブルした感じが少ないし、応答性も正確なままだ。建て付けがしっかりしていて、バネ下にもバネ上にも揺すられるボディパーツがないのは大きな進歩だ。

貴島チーフエンジニアは「RX-8と同じサスペンションを使え」という会社からの指示に反発して、MX-5専用サスペンションを開発した。軽量ボディのMX-5に200kg重いRX-8用のサスペンションではライトウエイトスポーツの走りは実現できないと確信していたからだ。

開発費が28億円余計に掛かってしまったそうだが、コストが高いアルミ素材の使用量が少ないのでクルマが売れればペイするという。ここまでこだわったクルマ造りをするチーフエンジニアは最近珍しくなったが、クルマ好きには嬉しい限りだ。

コーナリングが愉しいMX-5であるが、直進付近の微小操舵時の手応えがあまり良くない。フリクションのような感じでもあるし、セルフアライニングトルクが不足の感じでもある。センター位置が手応えからわかりにくいので、ちょっと脇見をすると自分の車線から外れそうになる。日本仕様が発売されるまでには改善してもらいたい。

画像: 全長+40mm全幅+40mm全高+15mm、ホイールベースは+65mm、トレッド前+75mm後+55mm、それぞれ先代比で大きくなっているが、徹底した軽量化を行い軽快で自然なテイストは受け継がれている。

全長+40mm全幅+40mm全高+15mm、ホイールベースは+65mm、トレッド前+75mm後+55mm、それぞれ先代比で大きくなっているが、徹底した軽量化を行い軽快で自然なテイストは受け継がれている。

細かな注文はあるが、基本的な造りはしっかりしている

6速AT車にも試乗するチャンスがあった。このクルマは205/50R16 87VサイズのヨコハマA11Aを履いていた。PRNDがジグザグゲートでDレンジから左にセレクターレバーを倒すとMレンジになる。セレクターレバーの前後操作でもハンドルに付く+-のパドル操作でもシフトアップ/ダウンができる。左手右手どちらでもアップもダウンもできるのは良い。

できれば、Dレンジのままでもパドル操作が可能であったり、Gの変化でDレンジに戻るプログラムがあればなおいい。一般道ではほとんどがこれで間に合うだろう。

ATのギア比からみて燃費を稼げそうだと思ったが、それを裏切る面もある。80km/hで走行中にアクセルペダルを戻すと回転数が大幅に下がってすぐに1200rpm程度になってしまうのだ。これでは燃料カットが効かずにアイドリング分を噴射してしまう。もっとロックアップを効かせる範囲を広くしないと、せっかくスムーズなATなのにそれだけで終わってしまう。

もうひとつ注文は、Mモードでも自動シフトアップした方が良いと思う。6700rpmからレッドゾーンが始まるが、タコメーター上のフューエルカットは7200rpmだ。ここでワウワウワウと前後の振動を伴った頭打ちになる。どちらにしても、もう少し上品な燃料カットを実現してもらいたい。

細かいところに注文も付けたが、基本的な造りがとてもしっかりした良いクルマである。骨がしっかりしているところから、これからの進化が期待できる。3代目のMX-5になっただけで終わらず、どんどん熟成を続けて、数年後にさらに成長した3代目になってほしい。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2005年8月号より)

画像: コーナリングではしなやかに路面を捉え、安定感のある走りを提供する。

コーナリングではしなやかに路面を捉え、安定感のある走りを提供する。

ヒットの法則のバックナンバー

マツダ MX-5 ミアータ(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:3995×1720×1245mm
●ホイールベース:2330mm
●車両重量:1222kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1998cc
●最高出力:170ps/6700rpm
●最大トルク:189Nm/5000rpm
●駆動方式:FR
●サスペンション:前ダブルウイッシュボーン後マルチリンク
※北米仕様

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