「驚くべき進化を遂げた」と、すでに高い評価を得ていた新型3代目グランドチェロキーは、デビュー間もなく、2005年7月に日本上陸を果たしている。それまでのジープのイメージを覆し、本格的な高級SUVへと舵を切ったモデルと言われた新型グランドチェロキーは、日本でどんな走りを見せたのか。オンロードとオフロード、2つのステージで試したレポートを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年9月号より)

オン、オフを高レベルで走りこなす「本物」のSUV

3代目グランドチェロキーの日本での試乗会には特設オフロードステージが設定されていた。そのコーディネートを担当したのがダンカン・バーバー氏なるオフロードのスペシャリスト。彼の活動拠点はスコットランドだが、各国でのこのイベントや自身で参加するキャメルトロフィーを通じ世界のSUV事情に精通している。

その彼に食事のときに聞いた。「SUVの主要市場はアメリカだけどオフロード性能はそれほど重要なのかな? フリーウェイが発達していればそう必要とも思えないけど」、「いや、舗装を一歩外れれば広大な砂漠や森林がある。アメリカ人はその環境を実際に楽しむのさ。それにはやはりSUVが都合がいい」、「その環境が日本にないのは残念」という結論で、この話題は終わったが、ここで僕は、やはりSUVは極めてアメリカ・ローカルなクルマなのだという確信を深めた。

それにしても面白いのは、かくもローカルな市場を世界のメーカーが鵜の目鷹の目で狙っていることだ。これじゃあ、さぞや本家のアメリカ車はやりにくかろう。今回のグランドチェロキーも、その真っただ中に置かれている一台である。

オフロード性能とオンロードでの気持ちの良い走りは相反することが多い。したがって一部を除く日欧のプレミアムSUV達はいずれもオンに軸足を置いた味付けだ。ま、新参者はそれでも許されるだろうが、背後に4WDの始祖という金看板を掲げるジープブランドには難しい。お洒落な新参者Aに対抗するには、オフ性能は決して落とさず、オンでの気持ち良さも相当なレベルにまで引き上げる必要がある。

実はジープはこの点にも早くから工夫を重ねていた。ラダーフレームと訣別したユニフレーム構造などはとうの昔のチェロキーからだし、最近は4WDシステムも凝りに凝る。

新型グランドチェロキーにもそうしたジープの最新技術が詰まっている。まず注目がエンジン。クライスラー300Cにも搭載された5.7L V8のHEMIユニットを得たのだ。ボディサイズもひと回り大きくなった新型グラチェロは確実に一段上級に移行した。

さっそくHEMIでオンロードを走り出す。5.7LのV8と言うと、ドロドロと回るひたすら低速トルクの性格と思われがちだが、HEMIに関してはそれは完全な先入観。レブリミットは6000rpmだが、そこまでのアクセルレスポンスがよくシュンシュン回る。メルセデスと同じ横ティップ付きの5速ATをカタカタやるとけっこうスポーティに走れてしまう。500Nmのトルクも強烈で2.2トン近い巨体をグイグイと押し出す。

ただしそのぶん燃費や環境負荷は気になるところ。このHEMIも低負荷時に4気筒を休止させるMDSが採用されるが10・15モード燃費は5.7km/Lとお世辞にも良くはない。ただ、MDSは定速走行で特に効果があるので、走り方次第である程度の期待はできそう。

ちなみにラレードに搭載される4.7Lの燃費は6.1km/Lと少し良いが、HEMIに乗った後だと力感が物足りない。それに加速中に上がるエンジン音もHEMIほどの快音ではなくザワザワと少し騒々しかった。

それにしても驚くのは動きの軽快さである。ラック&ピニオンになったステアリングはフルロック2.9回転という乗用車的な設定。サスペンションは前/ダブルウイッシュボーン、後/5リンクリジッドだが、SUVにありがちな大きいスナッチやロールがほとんどない。コーナリングはフラットな姿勢を保ったままスルリと完了する。

コーナリングで嫌な横揺れがないのは、5リンク式リアサスによる軸の位置決めが上手く行っているからだ。巨大なタイヤ&ホイールを履くクルマゆえギャップを乗り越えた後の「ブルン」とした余韻は残るが、そこを除けば大型SUVでは極めて洗練された乗り味と言える。

居住性はサイズから想像する通りの余裕。シートやコンソールのデザインもスッキリで、もはやアメ車の危うさはない。ただインパネはシボ模様が粗く、材質もカチカチでまるでクーラーボックスのよう。プレミアムを謳うのであれば、この辺の質感にはもう少し気を使って欲しい。

画像: グランドチェロキー リミテッド5.7。オンロードでは軽快な走りを見せた。コーナリングはフラットな姿勢でクルリとこなす感じだ。

グランドチェロキー リミテッド5.7。オンロードでは軽快な走りを見せた。コーナリングはフラットな姿勢でクルリとこなす感じだ。

新しい4WDシステムはオフロードで抜群の威力

さて、オンロードでの心地よさを堪能した後に、いよいよ特設のオフロードコースへと向かう。新型グラチェロには2種類の4WDシステムがある。ベースの4.7ラレードはクォドラトラックⅡで、これはセンターデフで路面状況に応じた前後トルク配分を行うとともに、左右輪の駆動力配分は一輪ずつ個別にブレーキを掛けてトラクション抜けを防ぐというもの。似たシステムを使うクルマも最近は多い。

4.7リミテッドと5.7リミテッドはこれをベースとし、センターと前後の3つのデフにも電子制御のLSD機能を持たせる贅沢なクォドラドライブⅡになる。前者が空転が始まってからブレーキを掛けに行くのに対し、クォドラドライブⅡはより素早く繊細な制御をする。

その違いはオフロードではっきりと体感できた。クォドラドライブⅡ搭載車は、対角線スタックをするような深いモーグルでも「ズルッ」と来ることがない。グリップしているタイヤにのみ(たとえそれが1輪でも!)即座にトルクを集中するため極めてスムーズに走れるのだ。もちろん、豊かなホイールストロークと、十分な各障害角も確保されている。いかにもジープらしいこうした基本構造があるからこそ新しい4WDシステムも活きるのである。

このパフォーマンスを生かせる場所は、おそらく日本にはなかなかないと思う。しかし「本物」を持つ満足感は大きい。プレミアムSUV造りは、本家のアメリカがいちばんヘタという見方もあるが、オン/オフ両方の性能をここまで昇華させた新型グランドチェロキーは、その限りではないようだ。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2005年9月号より)

画像: グランドチェロキー リミテッド5.7のインパネまわり。機能優先で乗用車感覚。

グランドチェロキー リミテッド5.7のインパネまわり。機能優先で乗用車感覚。

ヒットの法則のバックナンバー

ジープ グランドチェロキー リミテッド5.7(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4760×1880×1750mm
●ホイールベース:2780mm
●車両重量:2180kg
●エンジン:V8OHV
●排気量:5654cc
●最高出力:326ps/5200rpm
●最大トルク:500Nm/4000rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:588万円(2005年当時)

ジープ グランドチェロキー リミテッド(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4760×1880×1750mm
●ホイールベース:2780mm
●車両重量:2130kg
●エンジン:V8SOHC
●排気量:4700cc
●最高出力:231ps/4500rpm
●最大トルク:410Nm/3600rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:525万円(2005年当時)

ジープ グランドチェロキー ラレード(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4760×1880×1750mm
●ホイールベース:2780mm
●車両重量:2100kg
●エンジン:V8SOHC
●排気量:4700cc
●最高出力:231ps/4500rpm
●最大トルク:410Nm/3600rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:451万5000円(2005年当時)

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