アウディeトロンやメルセデスEQCを見るまでもなくSUVとBEV(バッテリー電気自動車)の相性はとてもいいと言えるだろう。今回はそんなSUV+BEVをいち早く日本へ導入したジャガーIペイスに2日間試乗した。(Motor Magazine 2019年12月号より)

大容量リチウムイオンバッテリーを床下に収納

日本ではバッテリー電気自動車(BEV)がかなり早くから街を走っていた。それは三菱のi-MiEVや日産のリーフである。今でこそリーフは、WLTCモードで458kmまで航続距離を伸ばしているけれど、デビュー当初は、実際の航続距離が100km程度で、BEVの航続距離についてのイメージは「ロングドライブには向かない」という印象が残っている人も多いだろう。

しかし今なら、近距離向けのBEVがあってもいい。最近そう思えるようになったのは、より大容量のバッテリーを搭載し航続距離400kmオーバーのインポートBEVがすでに日本上陸、もしくは導入を控えているモデルもあるからである。性能も個性も異なるBEVが増えるほどユーザーにとっては選ぶ楽しみも増すだろう、とジャガー初のBEVとなるIペイスをジックリと試乗してますます思ったのだった。

Iペイスは90kWhの大容量リチウムイオンバッテリーを床下に搭載し、航続距離はWLTPモードで最長470km。最大効率97%を発揮するというジャガー製モーターを前後に一基ずつ計ふたつ備え、合計最高出力400ps、最大トルク696Nmを発生する。0→/100km加速は4.8秒だそうだ。

ボディにはIペイス専用アルミニウムアーキテクチャーを採用。この軽量なアルミニウムボディ構造とアルミニウムフレームで保護されたバッテリーパックとの組み合わせ、そしてレイアウトにより前後重量配分を50対50とし、ジャガー史上もっとも優れたねじり剛性を実現しているという。

今回はそんなIペイスでロングドライブをする機会を得た。エンジンを搭載する必要のないBEVはその分、デザインにも自由度がありペイスはキャブフォワードなスタイルが特徴だが、だからといって特別にBEVを意識させるわけでもない。しかしこのデザインはとても個性的だ。バッテリーを床下に配置しパワートレーン系を含むパーツ点数も少なくていいBEVの居住スペースはFペイス以上の広さが得られるというメリットもあり後席のスペースもたっぷりある。

運転席に移ろう。カラフルで視認性に優れる液晶メーターパネルはドライバーが欲しい情報を選び表示することができる。なかでも常にチェックできるのがバッテリー残量と航続可能距離だ。この日、スタート時のバッテリー残量は2/3ほどで航続可能距離は229km。阿蘇くまもと空港から目指す先は福岡市内で、予めナビにルート設定された試乗コースの走行距離は165km。

道中は阿蘇の外輪山を走る風光明媚なドライブルートで知られるミルクロードをはじめ、カーブやアップダウンも多いルートと高速道路を走る。ミルクロード経由のドライブは初めての道ではなくドライブがとっても楽しいルートなのだが、あまり余裕が感じられないバッテリー残量と航続可能距離に一抹の不安を抱いたというのが本音である。ただし事前に予想以上に充電施設があることがわかり、安心感はあったが、そうした心配は杞憂に終わった。

画像: 696Nmという高トルクが瞬時に立ち上がるので短い直線の後にコーナーが連続するミニサーキットのようなコースでは2240kgという車重を意識させない軽快さを感じた。

696Nmという高トルクが瞬時に立ち上がるので短い直線の後にコーナーが連続するミニサーキットのようなコースでは2240kgという車重を意識させない軽快さを感じた。

BEV特有の航続距離への不安は走って解消された

ドライブフィールはBEVであってもやはりジャガーらしい。Iペイスの車重は2トン以上あるが、そもそもジャガーはFペイスにしてもEペイスにしても物理的な重さとは別の「テイスト」としてドッシリとした重量感とその質感、そしてそれがひと塊で走るスポーティさが個性としてある。

ワインディングロードで欲しいトルクを瞬時に得られるモーターによる加速とトルク、そして強力な減速も可能にする回生ブレーキを使ったワンペダルドライブが連続可変付きエアサスペンションを装備する走りに一層のメリハリを与えてくれた。やや重ためのステアリングフィールがこれを操る感覚を一段と強く与えてもくれる。

Iペイスはハイとローの回生ブレーキの設定があり、ハイは低速走行でもアクセルペダルを内燃機関のような感覚で緩めると、強烈なエンジンブレーキがかかるような減速Gが発生し、ウッカリすると自分でもビックリしてしまうほどだった。

ローモードは一般的な走行が可能だ。ワインディング路ではエネルギー回生も多くかつリニアな走行が楽しめるハイモードがいいが、欲を言えばハイとローの中間があるとより様々なシーンで使いやすい。もっと欲を言えばパドルで何段階か回生ブレーキの強さを選べたらスポーティな運転好きにとっても魅力が増しそうだ。

そうしたことを考えつつ、航続距離を意識しながらも様々な場面でいろいろなドライビングスタイルを試した結果、165kmの走行を終えてもまだバッテリーにはの航続が可能な容量が残っていた。ほぼ、メーターに表示される航続距離どおりだったのだ。

バッテリーの搭載量も多いが、エネルギーの出し入れの効率もよさそうだ。しかし気になるのが所有した際の充電だろう。Iペイスは、最大7kWの普通充電と100kWの急速充電(日本では50kWのCHAdeMO)に対応。0%から80%まで充電するには、100kWの場合は約40分だが、50kWの場合は約85分、普通充電では約10時間を要する。

回生効率に優れ、パフォーマンスと航続距離にも優れるもののたくさんバッテリーを消費してしまうとその分、充電時間もかなり必要になるが、休憩や買い物の合間にこまめに、もしくは自宅で充電できるなら、所有するメリットも魅力も多いに享受することができる。そしてなによりデザイン的な個性とジャガーらしさ、さらにBEVのメリットを活かす走りを持つIペイスは、他にはない魅力が感じられるはずだ。(文:飯田裕子)

画像: 10インチと5インチのデュアルタッチスクリーン「タッチプロデュオ」ではナビ設定、空調操作などさまざまな操作が可能。

10インチと5インチのデュアルタッチスクリーン「タッチプロデュオ」ではナビ設定、空調操作などさまざまな操作が可能。

試乗記一覧

■ジャガーIペイス 400V HSE 主要諸元

●全長×全幅×全高=4695×1895×1565mm
●ホイールベース=2990mm
●車両重量=2240kg
●モーター最高出力=400ps
●モーター最大トルク=696Nm
●駆動方式=4WD
●車両価格(税込)=1184万円

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