2005年、メルセデス・ベンツから画期的なコンセプトのニューモデルが登場している。それがRクラスだ。CLSで大成功を収めた経験をふまえて、さらに新しい市場を開拓すべく投入されたチャレンジングなモデルだ。当時の反響はどうだったのか。スイス・チューリッヒで開催された国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の記事は、Motor Magazine 2005年10月号より)

新しいコンセプトのRクラスは主に北米市場を見据えたモデル

メルセデス・ベンツによると、Rクラスはミニバンでもなく、SUVにも属さないグランドスポーツツアラーだという。グランドスポーツツアラーとは、スポーツセダン、ステーションワゴン、MPV、SUVの持つそれぞれの長所を融合した新しいクルマ。つまり、優れた多目的性(シートアレンジによる多用途)と高い走行性能(スポーツセダン並み)を兼ね備えたクルマだという。これこそメルセデス・ベンツが開拓しようとしているニューマーケットなのである。そして、キーポイントは、ディメンジョン、デザイン、ダイナミズムにあるともいう。

Rクラスは数年前から着々と開発が進められてきた。2002年のデトロイトショーでコンセプト「ヴィジョンGST」(グランドスポーツツアラー)が出品され、昨年のパリサロンでは「ヴィジョンR」として最終プロトが発表されている。入念な市場調査と開発計画の上で、プロジェクトは進められたというわけだ。

Rクラスはまず北米で今秋より販売が開始され、欧州および日本には2006年から導入される。なぜ米国市場に先行投入されるのかと疑問を抱く読者もいると思うが、Rクラスは主に北米市場を見据えたモデルなのである。プラットフォームやサスペンションを新型Mクラスと共用していること、Mクラス同様、米国アラバマ州にあるタスカルーサ工場で生産されるという背景からも、それがわかるだろう。

米国にはミニバン、SUV、トラックといったクロスオーバー市場が根強く存在する。メルセデスベンツにはプレミアムSUVとしてMクラスが存在するが、この市場にはMクラスだけでは対応しきれない、もっと大きくて、もっと多様なニーズが存在することがわかった。

ならば、そんなニーズに応えるニューモデルを開発しようと考えるのは当然のこと。SUVの使用状況はその90%がオンロード走行という調査データもあることから、オンロードを主眼にして、SUVやミニバンのユーザーをも取り込めるモデルに着手したと想像するのは容易だ。

こうして、メルセデス・ベンツならではの、高級な6人乗りグランドツアラーが誕生したというわけだ。3列シート7人乗りではなく、セカンドシートをゆったりと2人乗りとし、余裕を持たせたパッケージとしたのは、メルセデス・ベンツならではのプレミアム性を主張するという意味があったのだろう。「ライバルはなんですか?」という質問に対し、メルセデスベンツの開発担当は即座に「キャデラックSRX」と答えたのが印象的だった。

画像: ホイールベースは3215mm。これは新型Sクラス、BMW7シリーズのロング版に匹敵する。当然全長のサイズも大きく5157mmもある。大きなワゴンボディのインパクトは新型Sクラス以上。これほど贅沢な3列シートモデルはこれまで存在しなかった。

ホイールベースは3215mm。これは新型Sクラス、BMW7シリーズのロング版に匹敵する。当然全長のサイズも大きく5157mmもある。大きなワゴンボディのインパクトは新型Sクラス以上。これほど贅沢な3列シートモデルはこれまで存在しなかった。

常に最善を求めながら進化していくのがメルセデスの流儀

Rクラスのディメンジョンは、全長5157mm、全幅1922mm、全高1656mm、そしてホイールベースは3215mm。数字からも察しがつくだろうが、実物はなかなかボリュームがある。ただし、今回の試乗車は北米及び欧州向けのロングホイールベース仕様で、日本には現在開発中のショートホイールベース仕様が導入される予定。ロングホイールベース仕様かショートホイールベース仕様の選択が可能となるのは欧州のみということになるだろう。

ショートホイールベース仕様のサイズは全長が4920mm、ホイールベースは2980mmだ。ロングホイールベース仕様との差は240mm(ホイールベースは235mm)なので、室内もこのレベルで縮小されると考えられる。

参考用にショートホイールベース仕様の実車を見ることができたが、デザインに大きな差はないものの、後席用のドアが小さくなっていて、やや寸詰まりの感があった。

フロントフェイスのデザインは最近のメルセデス・ベンツらしい精悍なもの。大きなグリルと長いルーバー、そして強くスラントしたヘッドライトは大きく外側に寄せて配置され、フロントフェンダーのブリスターを強調している。フェイスの攻撃的なフォルムに対してキャビンを形成するボックスはエレガントなイメージだ。AピラーからDピラーにかけて大きな曲線を描くアーチ状のルーフラインがクーペのように美しい。

Rクラスの特徴は、5157mm(ロングホイールベース仕様)という全長に対して、その約64%にあたる3300mmものスペースが居住空間に割り当てられていることだ。これは同サイズのノッチバックセダンではありえないもので、縦方向のスペースが豊かな空間を感じさせる。

3列シートの2列目は個別に前後スライド調整ができる。1列目と2列目シートの間隔は920mmが標準で、2列目がこの位置だと3列目との間隔は840mmとなる。2列目を一杯まで下げると、1列目と2列目のシート間隔は990mmに広がり、2列目を前に移動させると3列目までの間隔は920mmまで広がる。ヘッドルーム(室内高)は後方が高く最大1027mm、ショルダールーム(室内幅)は前1530mm/後1514mmだ。3列目シートはプラス2的シートではなく本格的なものだから、6人の定員フルに乗り込んでも窮屈には感じない。また、3列目シートに乗り込むときは2列目シートがリフトしながら前方に移動するので、その乗降は容易だ。

インテリアやシートの造りは、さすがにメルセデス・ベンツ、と感じさせる質感を持っている。そして、シートのアレンジによって荷室容量を使い分けることができる。2列目以降のシートを倒すことでフルフラット化も可能だ。その荷室全長は最長で2217mm(ショートホイールベース仕様:1982mm)もあり、ステーションワゴンではとても収納できないような長尺の荷物も積み込める。

最大荷室容量は2385L(ショートホイールベース仕様:1950L)と大きな容量を誇る。ちなみに、すべてのシートを使用した6席乗車時の荷室容量は314L(ショートホイールベース仕様:244L)だ。

画像: いかにもメルセデス流の入念なインテリア。センターコンソールはシフトレバーがなくなったおかげでグローブボックス(小物入れ)の体積がグンと広がった。

いかにもメルセデス流の入念なインテリア。センターコンソールはシフトレバーがなくなったおかげでグローブボックス(小物入れ)の体積がグンと広がった。

大柄なボディサイズだが身のこなしは実に素直

今回の試乗会はスイスのチューリッヒで開催された。頂に雪渓を抱える山々に囲まれた美しい高原のワインディングでのRクラスの走りは興味深いものだった。

日本に導入されるRクラスは2グレードが用意される。3.5LのV6エンジンを搭載するR350と、5LのV8エンジンを搭載するR500だ。北米と欧州向けには、510Nmというビッグトルクを誇る、新型のV6直噴ディーゼルエンジンを搭載するR320CDIもラインナップされるが、日本への導入予定はない。

R350は272ps/350Nmを発生し、0→100km/h加速8.3秒、最高速230km/h。V8ユニットを搭載するR500は306ps/460Nmで0→100km/h加速は6.9秒、240km/hの最高速を誇る。

R350は非常にフラットなトルク特性で、パワーに不満を感じないが、スポーツツアラーとしての力感を味わいたいのなら、やはりR500をお勧めする。V8の滑らかさと力強さはなかなか魅力的だ。

そのエンジンに組み合わされるトランスミッションは7速ATの7Gトロニックで、これには新機能としてダイレクトセレクトが搭載されている。これはステアリングコラム右側に配された小さなセレクターレバーを使って電子制御でシフトを操作するもので、ステアリングホイール裏のギアシフトボタンでマニュアルシフトも可能だ。

Rクラスは新型Mクラスとプラットフォームやサスペンションを共用することもあり、新型Mクラスと同様のフルタイム4WDの4マティックが標準装備される。足まわりは、フロント:ダブルウイッシュボーン式、リア:4リンク式で、これも新型Mクラスとの共用。リアにはエアサスを装備し、乗員や荷物が乗っても車高を一定に保つオートレベリング機能がついている。また、オプションでエアマティックDCサスペンションを選ぶことも可能。こちらはキャビンからボタンひとつで3段階にサスペンションの硬さを変えることができる。

ハンドリングは、古き良き時代のメルセデス・ベンツが蘇ったかのようにスタビリティが高く、自然なフィーリングを持っている。今回試乗したモデルは北米仕様ということもあり、ソフトなセッティングになっていたが、それでもコーナーでの身のこなしは非常に素直でわかりやすかった。ライントレース性が高く、ステアリングを何度か動かせば、スムーズに狙ったラインにつくことができた。

欧州仕様はさらにしっかりしたハンドリングになることが予想され、そうなるとスポーツセダン並みのドライバビリティが実現されるかもしれない。また、室内がとても静かで、NVHの処理が高次元でバランスされていたことも報告しておこう。

スイスの美しい景色の中を走りながら、日本でRクラスに乗る状況を想像してみた。大きなスリーポインテッドスターがあしらわれたフロントフェイスは、やはり他を威圧するのだろうか。1922mmという車幅はどうだろうか。プレミアム性を主張するためには、このサイズと押しの強さが必要なのだろうか。

Rクラスは、持つことそのものにも憧れを感じさせるクルマだが、このクルマの性能を使いこなせるようなライフスタイルこそ、うらやましいと感じる。それは友人や家族に囲まれた理想的な生活環境を持っていることの証明だからだ。Rクラスのある生活を夢見るのはきっと私だけではないだろう。(文:松田秀士/Motor Magazine 2005年10月号より)

画像: フロントにダブルウイッシュボーン、リアに4リンクのサスペンションの構成は、基本的に新型ML350/ML500と部品を共有するが、細部のセッティング、チューニングは異なる。ベーシックモデルはコイルスプリングだが、エアマティックDCサスペンション装備車も用意される。

フロントにダブルウイッシュボーン、リアに4リンクのサスペンションの構成は、基本的に新型ML350/ML500と部品を共有するが、細部のセッティング、チューニングは異なる。ベーシックモデルはコイルスプリングだが、エアマティックDCサスペンション装備車も用意される。

ヒットの法則

メルセデス・ベンツ R350(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:5157×1922×1656mm
●ホイールベース:3215mm
●車両重量:2205kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3497cc
●最高出力:272ps/6000rpm
●最大トルク:350Nm/2400-5000rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:4WD
※北米仕様

メルセデス・ベンツ R500(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:5157×1922×1656mm
●ホイールベース:3215mm
●車両重量:2240kg
●エンジン:V8SOHC
●排気量:4965cc
●最高出力:306ps/5600rpm
●最大トルク:460Nm/2700rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:4WD
※北米仕様

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