以前に連載した「昭和の名車」では、紹介しきれなかったクルマはまだ数多くある。そこで、1960年代以降の隠れた名車を順次紹介していこう。今回は「マツダ キャロル」だ。

マツダ キャロル(KPDA型):昭和37年(1962年)2月発売

画像: リアウインドーはスッパリと切り落とされたクリフカットが特徴的なサイドビュー。

リアウインドーはスッパリと切り落とされたクリフカットが特徴的なサイドビュー。

1961年の東京モーターショーに参考出品したプロトタイプ「マツダ 700」を軽自動車規格に合わせて改良し、1962年に発売されたのがキャロルだ。パワーユニットは世界最小排気量の水冷直4 OHV。しかもオールアルミでクランクシャフトは5ベアリングという、軽自動車にはオーバークオリティの極致ともいえる、とんでもなく贅沢なエンジンを搭載して周囲を驚愕させた。同時にルーフ後方を大胆に切り落としたクリフカットと呼ばれるスタイルでも注目された。全長3mという当時の軽自動車の規格内で4人分の室内空間を確保するためのデザインと説明したが、極めて斬新で、これがキャロルの個性ともなっている。

基本構成は、モノコックボディのリアにエンジンを横置き搭載したRRで、前後にトレーリングアーム/トーションラバー式サスペンションを備えるなど、先に登場したR360クーペと同じ設計思想だが、個々のユニットは長足の進歩を遂げている。エンジンのバルブ駆動はOHVだがクロスフローで、放熱性の高いアルミヘッドと半球形燃焼室によりレギュラーガソリンで10.0の高圧縮比を実現した。特性は最高出力を6800rpmで、最大トルクを5000rpmで発生するため高回転型に見えるが、2500~5000rpmまでほとんどフラットなトルクカーブを描く柔軟性を持っている。

画像: 358ccながら4気筒のOHVエンジンを横置き搭載。ラジエターはボディ左側にあった。

358ccながら4気筒のOHVエンジンを横置き搭載。ラジエターはボディ左側にあった。

とはいえ単室容積90ccではトルクが稼ぎにくく、最大トルクは当時のスバル360の66%弱の2.1kgmに留まった。そのため、回転が上がれば2速以上にシンクロ機構を備えた4速MTを駆使して小気味良い走りが楽しめるが、剛性を上げ、振動騒音を抑えるためボディ重量が増えた(スバル360より140kg重い)こともあって、発進加速や長い登坂路を苦手とした。モーターマガジン誌の実測テストでは、3名乗車時の0→50km/h加速は18秒を記録。車重の軽いR360クーペは2名乗車で15秒だった。ちなみに、最高速度のカタログデータで90km/hだ。

新設計のサスペンションはフロントをダブルトレーリングアームとした。スプリングはR360クーペ同様前後トーションラバーだが、車重増に対応するため内側と外側ラバー間に環殻を挿入した2重環状ラバー構造として強度と耐久性を高めている。ゴムバネによるソフトなクッション性を好むカスタマーは多かった。ロードホールディングも良好で、未舗装の峠道を40km/hで下れたという。ステアリングはラック&ピニオン、ブレーキは四輪ドラムだが、冷却性の向上とバネ下重量の軽減を図るためアルフィンドラムが採用されている。

画像: ラジオもないシンプルなインパネ。ダッシュボードにシフトパターンが描かれていた。

ラジオもないシンプルなインパネ。ダッシュボードにシフトパターンが描かれていた。

1962年5月にはDX(デラックス)を追加、翌1963年9月のマイナーチェンジでパワースペック20psと2.4kgmにアップすると同時に、軽自動車初となる4ドアモデルもラインアップした。そしてマツダは軽乗用車において、1962年は67%、1963年は62%、1964年は56%のシェアを確保していく。一方、1962年11月にはマツダ 700をベースとした4ドアのキャロル 600を発売。586ccの直4 OHV/28psエンジンを搭載したこのモデルが、次代のファミリア開発へのステップとなったことは言うまでもない。

画像: エンジンもラジエターも後ろにあるRRだったので、スリットはリアサイドまで回りこんでいた。

エンジンもラジエターも後ろにあるRRだったので、スリットはリアサイドまで回りこんでいた。

昭和の名車のバックナンバー

マツダ キャロル 主要諸元

●全長×全幅×全高:2980×1295×1340mm
●ホイールベース:1930mm
●重量:525kg
●エンジン型式・種類:DA型・直4 OHV
●排気量:358cc
●最高出力:18ps/6800rpm
●最大トルク:2.1kgm/5000rpm
●トランスミッション:OD付き3速コラムMT
●タイヤサイズ:5.20-10 4P
●価格:37万円

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