それまで「質実剛健」「いいクルマだけど地味」「実直な働き者」と評されていたパサート ヴァリアントは、2005年、一転してスタイリッシュでエモーショナルなワゴンへと転換して注目を集めた。では実際のところどうだったのか。ここでは、発表後すぐにドイツで行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年10月号より)

スタイリッシュ&エモーショナルへの転換、室内空間も大幅拡大

最近こそ多少化粧っ気が増えてきていたとはいえ、基本的には奇をてらわず落ち着いていてシンプルであり続けてきたパサートだけに、新型のスタイリングで示された新しい方向には、戸惑いを覚える人もいるかもしれない。その新しいデザインキーは、新登場のバリアントつまりはワゴンにも、しかと受け継がれている。シルエットがそれほど大きく変わったわけではないが、面という面は大いに抑揚を増して、より情感を増したものに仕上がっているのだ。

堂々とした雰囲気を醸し出しているのは、写真よりもしっくり馴染んで見えた新しいフロントマスクのせいばかりでなく、ボディサイズそのものがひと回り大きくなっているからでもある。スリーサイズは全長4774mm×全幅1820mm×全高1517mm。現行の日本仕様と較べると94mm長く、75mm広く、22mm高い。一方でホイールベースは2709mmと、わずか4mm増しに留まっているから、サイドビューは前後オーバーハングの長さが強調された印象だ。前後ウインドウの傾斜角も増していて、陳腐な言い回しだが、よりスポーティ感を高めている。

縦→横→縦と、モデルごとに世代ごとに搭載方法を違えてきたエンジンが、またも横置きとされたということは、現行モデルと違ってアウディA4とは別のプラットフォームを使っていることを意味する。

サスペンションはフロントがマクファーソンストラット、リアが4リンクとなれば、勘の良い人なら気付くはず。新型パサートのアーキテクチャーは、ゴルフを基本にしているのである。もちろんパサートの方がホイールベースが長く、サスペンションも、フロントロアアームなどに用いたアルミ製パーツや一体成型のフロントサブフレーム、高張力鋼板製のリアサブフレームといったアイテムによって軽量化を図るなど、全体にコストがかけられている。

しかし、それ以上に重要なのは、エンジン横置き化とボディの大型化の相乗効果による室内空間の大幅な拡大ぶりだ。

余裕のあるサイズのドライバーズシートに座ると、特に左右方向のゆとりが大幅に増していることに気付く。とりわけドア側の余裕は甚大。それは側面衝突への対応という意味もあるのだろうが、一方で車幅感覚を掴み辛いものにしているのは、実はゴルフと一緒の悩みである。Aピラーの傾斜は思ったより気にならないが、足元へのホイールハウスの張り出しは若干大きめ。それでも同クラスでは傑出した広さであることは間違いない。

インストゥルメントパネルのデザインも広々感に繋がっている。ダッシュ上面を浮き上がったように見せる造形はなかなか新鮮。新機軸である電動パーキングブレーキングのおかげでスッキリしたセンタートンネルや、スロット式の電子キー(キーレススタート)の採用も効いている。クオリティはゴルフと大差ないが、クロームのメーターリングやウッド調、アルミなどの広面積のトリムが高級感を演出している。

後席も格段に広くなった。足の置き場には困らないし、シート自体もふた回りほどサイズアップ。クッション形状も見直されて、着座姿勢の違和感もようやく解消された。

それでいてラゲッジスペースも拡大しているのだから驚いてしまう。容量は5名乗車時で先代比108L増しの603L、ダブルフォールディング式が踏襲された後席を倒した状態の最大容量は同じく131L増しの1731Lに達する。この数値はスペアタイヤレス仕様のものだが、それにしても十分以上。左右幅はホイールハウス間で100cm、部分的には120cm以上を確保するなど、フロア面積も先代を凌いだ。

後席をダブルフォールディングさせる際にいちいちヘッドレストを外して、立て掛けたシートバックに挿しておかなければならないのは、今のトレンドからすればスマートとは言い難いところだが、その大きなシートと広いラゲッジの両立と引き換えとあらば、まあ仕方ないだろう。

広いだけでなく使い勝手への配慮も行き届いているのは、今どきのワゴンとしては当然だ。中折れ式のフロアボードは立て掛け仕切りのように使うことが可能。さらにオプションでは、アウディA6に採用された、フロア左右の2本のガイドレールにラゲッジフックや荷物固定用ストラップ、セパレーションバーなどを任意の位置で固定できるラゲッジマネージメントパッケージ、そして電動開閉式テールゲートも用意する。

画像: 全長4774mm×全幅1820mm×全高1517mm。ボディサイズが大幅にアップ、これによりひとクラス上の快適性とボリューム感が生まれている。

全長4774mm×全幅1820mm×全高1517mm。ボディサイズが大幅にアップ、これによりひとクラス上の快適性とボリューム感が生まれている。

乗り味はとても穏やか、落ち着き感はセダン以上

試乗は日本導入予定の2.0FSI+6速AT、2.0T-FSI+6速ATの2台を中心に行った。

走り出してすぐに感じたのは、乗り味が非常に穏やかだということだ。サスペンションはよく動いて路面に確実に追従するが、車体がそれに合わせて煽られることはなく、常にフラット。リアの自動車高調整機能が効いているのか、落ち着き感はセダンよりも上と感じた。

また、ステアリングの座りの良さとリアの接地感の高さが相まって直進性も良好。そこから切り込んだ時の応答性も、鋭さとは無縁だがとても正確だ。乱暴にまとめればとてもフォルクスワーゲンらしい、つまりゴルフと似た乗り味。しかし動きの滑らかさや当たりの柔らかさは、確実にひとクラス上のものに仕上がっている。

唯一、目地段差を越えた時などの大きな入力の受け止め方、車内に伝わる音や振動だけは、ちょっと安っぽいなと感じられた。ゴルフなら良くても、パサートではもう一歩の洗練が欲しい。また、15mmローダウン+17インチタイヤのスポーツラインも試すことができたのだが、こちらは速度を上げるとよりフラット感が高まる一方、低速域、特に荒れた路面では跳ねてしまい、路面追従性に難が見られた。よってオススメは、断然ノーマル仕様である。

2.0FSIの最高出力はゴルフと同じ150ps。車重は100kg以上重いだけに、さすがに立ち上がりはやや緩慢だ。力が涌いてくるのは3000rpmぐらいから。しかしそこから先の伸びは悪くなく、スムーズに速度を高めていく。印象的なのは、その静粛性。全開時にはさすがに勇ましくなるものの、それ以外の時にはエンジン音は室内にほとんど伝わってこないのだ。

そして、それに輪をかけて室内が静寂に保たれるのが2.0T-FSIである。これはターボ特有の消音効果と、アクセルを床まで踏む必要がほとんどない豊かなトルクの相乗効果だ。下から上までキッチリ詰まったトルクのおかげで、どこからでも踏めば即座に加速体制に移ることができる。そんな特性だけに、6速ATとのマッチングはバッチリ。日本市場では、これが主力ユニットとなりそうな気配である。

なお、これも日本導入予定の3.2L V6FSIは、まだ試すことができなかった。これは基本的にはお馴染みの狭角V6なのだが、ボアを拡大する一方、ストロークを縮小。FSI化を図り圧縮比を12.1まで高めることで、3169ccの排気量から最高出力250ps、最大トルク330Nmを発生するという。トランスミッションは6速DSGを採用。このV6モデルはおそらく4MOTIONでの上陸となるに違いない。

ちなみに北米市場向けにはバンク角が10.6度とさらに狭い3.6LのV6も投入されるという。外装、内装はより情緒的かつ高級感を増して、現行モデルで築いたプレミアム志向のユーザーからの信頼を裏切らないものとする一方、中身はあくまで真面目で合理的に作り上げられている。新型パサートバリアントとは、そんなクルマである。(文:島下泰久/Motor Magazine 2005年10月号より)

画像: リアエンドはフォルクスワーゲンの伝統性を表現。ゴルフと異なるのはナンバープレート取付け位置がバンパー上部であること。テールゲートは2.06mの高さまで開口するので積み下ろしがイージー。

リアエンドはフォルクスワーゲンの伝統性を表現。ゴルフと異なるのはナンバープレート取付け位置がバンパー上部であること。テールゲートは2.06mの高さまで開口するので積み下ろしがイージー。

ヒットの法則

フォルクスワーゲン パサート ヴァリアント 2.0FSI(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4474×1820×1517mm
●ホイールベース:2709mm
●車両重量:1474kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1984cc
●最高出力:150ps/6000rpm
●最大トルク:200Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
※欧州仕様

フォルクスワーゲン パサート ヴァリアント 2.0T-FSI(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4474×1820×1517mm
●ホイールベース:2709mm
●車両重量:1518kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:200ps/5100rpm
●最大トルク:280Nm/1800rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
※欧州仕様

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