2005年に日本に上陸した2代目メルセデス・ベンツAクラスは、初代から独自のサンドイッチコンセプトに基づくボディ造りを受け継ぎながら、ひと回り大きくなったボディによって、Cセグメント市場に喰い込む存在となっていた。はたしてCセグメントカーとしてどれほどの実力を持っていたのか。Motor Magazine誌は早速ベンチマークたるゴルフと比較試乗を行なっている。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年10月号より)

新型Aクラスなら一台ですべての用途を不足なく満たせそう

2004年9月に本国ドイツを始めとする欧州圏で発売が開始され、2005年2月には早々と日本の地を踏んだ新型Aクラス。路上観察から得られた感触によると、このメルセデス・ベンツ最小のモノスペースカーは着実に売れ行きを伸ばしているようだ。

特に欧州では訪れる度に確実に増えていることを実感させられる。しかもドイツ本国はもちろん、国を問わず路上生息数が多いのだ。これは新型移行でCセグメント車として存在感を増したからだと思う。

全長+235mm、全幅+45mm、全高+25mm。ホイールベースも+145mmとすべてが大きくなったことにより、新型Aクラスは居住性を大幅に向上させた。先代の標準ボディは後席の足下スペースが狭く、4〜5人で乗るファミリーカーとしては少々辛い部分があった(そのため後にロングボディのLが追加されたのは周知の通り)が、新型なら一台ですべての用途を不足なく満たすに違いない。

質感の向上も大きな進化点だ。何よりボディサイズが拡大されたことで見た目が立派になった。タイヤを四隅に置きオーバーハングを極限まで切り詰めた合理的なパッケージングは相変わらずだが、サイズアップに伴いデザインに使える余裕も増えたようで、先代の強すぎる「集積感」が薄まった。ひらたく言えばグリル周りの厚みが増してメルセデスらしい「押し出し」が感じられるようになったし、フェンダーの張り出しも豊かでフォルム自体の安定感も増しているのだ。

二重床構造の「サンドイッチコンセプト」に基づいて作られるAクラスは、高さ方向にスペースのゆとりを求めたミニバン的なパッケージングが特長。その結果Cセグメント内でかなり異端のスタイリングになっていたのは事実で、特に機能に対して直球勝負だった先代は「風変わりなクルマ感」がどうしてもついて回った。

しかし、新型は良い意味でこなれて来た。2代目という受け手側の馴れもあるのだろうが、今回Cセグのベンチマークとして同時に連れ出したゴルフと較べても、もはや風変わり感は少ない。むしろ、より小さいサイズで遜色のない居住空間を実現していることから、これからのコンパクトカーの行く末はAクラスの方向性にあるのではないか? とすら思わせたほどだ。

インテリアの進歩も目覚ましい。先代は棚状のダッシュボードにセンターコンソールを吊り下げるポップな印象のコクピットだったが、新型はより乗用車的で高級感も意識したオーソドックスなT型インパネに全面的に変更している。

後席も「まず折り畳みありき」のベンチ型タンブルフォールド式から、インテリアと一体化したデザインとなり高級感が増した。それでいて折り畳みにも依然として積極的で、座面を立ててから背もたれを前倒しするダブルフォールドを採用している。近年のCセグメントはより簡便なシングルフォールドが主流だが、この辺はメルセデス流のこだわりなのだろう。さらに、折り畳みの際にフロアが面一になるようラゲッジ側の床に2段階の高さ調節機構まで持たせている。

画像: Aクラスはゴルフに比べ、全幅とホイールベースはほぼ同じながら、全長で355mm短く、全高で110mm大きい。これでキャビンスペースに大差ないのだから発想の違いは明白だろう。

Aクラスはゴルフに比べ、全幅とホイールベースはほぼ同じながら、全長で355mm短く、全高で110mm大きい。これでキャビンスペースに大差ないのだから発想の違いは明白だろう。

先代から受け継がれる独自のパッケージング

と、このように進化著しいAクラスなのだが、特異なパッケージから来る独特の居住感や乗り味はまだ少なからず残っている。

フロアを二重構造としたサンドイッチフロアコンセプトは、乗員が高い位置に座ることと、フロア自体が強固な点で側突を受けた時に有利。それに前方への衝突時は専用設計のエンジンが床下に落ち込んで室内への貫入を避けるという効果がある。

小さなクルマにも最良の安全性能を確保しようするこうしたメルセデス・ベンツの考え方は、燃料電池が床下に納まるのが当分先のことになりそうな現状を鑑みても十分に納得できるものだ。

よく言われる乗降性に関しては、着座位置も高いため腰の移動量が少なく、この点で高床はメリットにもなっている。そこから足を引き入れる時に少し難儀するのはお年寄りには辛いかも知れないが、馴れれば何とかなるだろう。

ただ、通常こういったフロアの高いクルマは、着座姿勢も直立気味のアップライトポジションを採る場合が多いのに、Aクラスは足を前方に投げ出すリラックス姿勢を強いる。つまり高い位置に寝そべって座る感覚なのだ。そのためクルマの挙動がモロに腰とお尻に伝わって来る。しかも着座位置が高い分だけ増幅されるからちょっと始末が悪い。

重心位置の高いAクラスはサスペンションも相応に締め上げており、これに伴うユサユサとした揺れが70km/h以下の常用域で感じられてしまうのだ。さらに速度が上がるとフラットな乗り味に変わり、安定感も高まって快適だが、低速域では揺さぶられ感がどうしても気になる。ゴルフのアップライト気味で常識的な高さのドラポジに乗り換えると正直ホッとしたほどだ。

また、乗車位置が高いのに、全高は野放図に高く出来ないというせめぎ合いから、前席の頭上まわりの空間に余裕が少ない。サンバイザーが近く開放感に乏しいのだ。こうした独自のパッケージから来るクセは、先代モデルからあまり変わっていない。そこが残念に思えた。

画像: Aクラスは二重構造フロアを採用。正面衝突の際、エンジンがフロア下に落ち込み、パワートレーンの室内侵入を抑制する。

Aクラスは二重構造フロアを採用。正面衝突の際、エンジンがフロア下に落ち込み、パワートレーンの室内侵入を抑制する。

CVTと電動パワステにさらなる熟成を期待する

さて走りだが、新型Aクラスはエンジンの排気量をそれぞれ0.1Lずつアップし、ミッションにオートトロニックと呼ばれるCVTを組み合わせたのがニュースだ。

パワーはA200で136psと、150psのゴルフGLiに対していくぶん控えめなものの、中〜低速トルクに厚みがあり動力性能に不満はない。レスポンスはAクラスの方がややもっさりしているが、力強さ自体はゴルフよりも上と感じさせる場面が多かった。それに加速中や巡航時の静粛性にも優れている。これはCVTが低い回転域を積極的に使うことが効いているようだ。

ただしこのCVTは、まだ熟成の余地を残す部分も多い。回転の上昇と共に車速が伸びて行く「フケ伸び感」はけっこうあるし、スタート時のギクシャクもよく抑えられている。この辺はメルセデス初としては良く出来ているが、プーリー比の変化レスポンスが鈍いのだ。したがってパーシャルから再加速という場面ではしばし考え込むような「待ち」があって俊敏な動きが得にくい。また、加速態勢からクルージングに移ろうとアクセルを緩めても、まだ加速を続ける引きずられ感が残るのだ。

このオートトロニックもDレンジからの左右レバー操作で7段マニュアルとして使えるが、無段変速のCVTにこうしたギミックを盛り込むよりも、まずはCVT自体の性能向上に努めて欲しいものである。

ステアリングは軽めのタッチで軽快に切れる。応答性も鋭く、ロールさせない硬めのサスチューンと相まってキビキビとした印象だ。ただ、同じく電動パワステを使うゴルフと較べるとフィーリングにしっとりした感覚が薄く、路面からのフィードバックもあまり鮮明ではない。さらに言うならペダルもストロークや剛性感にメルセデスらしさが薄い。

ボディ自体はいかにも堅牢そうな「硬さ」が感じられるし、直進安定性も空力面で不利な背高ボディを感じさせないほどハイレベルなのだが、こうした操作系の感触により乗り味全体がやや軽薄になってしまっているのが残念だ。

これに対してゴルフは、シリーズ中最も実直な乗り味を持つGLiということもあって、乗り心地とハンドリングのバランスは見事だし、操作系の感触なども乗り味に見合った自然さが貫かれている。5世代目でさらに大きく豪華になったゴルフには様々な賛否の声があるが、やはりこのクルマは慣れ親しんだFF2ボックスの完成型であり、Cセグメントのベンチマークと言えるだろう。

しかし、だからと言ってAクラスを否定する気はない。専用のエンジンやシャシを起こして居住性や安全性の底上げを行った新しいパッケージは尊敬に値する。固定化したCセグメントに新風を送り込もうとするならば、このくらいのチャレンジ精神は必要だ。

問題はスペース配分だと思う。件の揺すられる乗り味も、独自のドライビングポジションも、すべてはサンドイッチコンセプトに端を発する。それがメルセデスの考える最善のパッケージであるならば、もう少し床を低くするか、さもなければ全高を上げる必要があった。

ただし、そんな大改革を行なわずとも、Aクラスが進化する道は残っている。電動パワステとCVTだ。両方ともメルセデスベンツとしては新しい技術で、今後さらに熟成されて行くのは間違いない。すでに質感と実用性には高い評価が与えられるクルマなのだから、この2点の熟成により完成度は飛躍的に高まる。そうなった時、Cセグメントの新しいスタンダードとしてAクラスが君臨する可能性は十分にあるのだ。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2005年10月号より)

ヒットの法則

メルセデス・ベンツA200 エレガンス(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:3850×1765×1595mm
●ホイールベース:2570mm
●車両重量:1320kg
●エンジン:直4SOHC
●排気量:2034cc
●最高出力:136ps/5500rpm
●最大トルク:185Nm/3500-4000rpm
●トランスミッション:CVT
●駆動方式:FF
●車両価格:309万7500円(2005年当時)

フォルクスワーゲン ゴルフGLi(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4205×1760×1485mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1380kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1984cc
●最高出力:150ps/6000rpm
●最大トルク:200Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:278万2500円(2005年当時)

This article is a sponsored article by
''.