2005年、ジープのフラッグシップモデル「コマンダー」が登場している。ジープにはラングラーと並ぶ柱として現代的なグランドチェロキーがラインナップされているが、コマンダーはいわばラングラー系のトップモデル。その詳細をアメリカで行われた国際試乗会のレポートで振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年11月号より)

グランドチェロキーよりも大きく、よりジープらしいデザインに

近年各メーカーの各ブランドがラインナップを増やし、ブランドの再構築を図っている。高級パッセンジャーカーのみを販売していたキャデラックがSUVやクロスオーバー、はたまた2シータースポーツカーまでを有し、ポルシェはSUVでは飽きたらず4ドアパッセンジャーカーの準備に取りかかっている。

そんな傾向を考えると、ジープに新たなモデルが加わることなどまったく不思議ではない。多様化するマーケットを鑑みれば順当なところだろう。ということで、ジープファミリーのトップエンドに追加された「コマンダー」を紹介しよう。

このモデルは2005年4月のニューヨークオートショーで発表された。北米では2005年夏から発売が開始され、順次ヨーロッパ、日本で発売が開始される。アメリカ国内用はデトロイトで、インターナショナルモデルはオーストリアのマグナシュタイアの工場で生産される。

特徴はジープ史上初となる7名乗車可能の3列シートを持つこと。フルサイズに近いグランドワゴニア(1963〜1991年)でさえ2列シートだったことを考えれば、ジープにとって新境地といえる。3列シートとなった理由は、まさにそれがトレンドだからだ。

いま北米マーケットでは多くのユーザーがミニバンからミッドサイズSUVやクロスオーバーに乗り換えようとしているが、そこにミニバンに近い内容を要求している。それに応えるようにメーカーは3列シートを用意。エクスプローラーやボルボXC90、最近ではディスカバリーにも3列シートが設定されている。

ところで、コマンダーのスタイリングは何かに似ている。そう、かつて日本でも大ブームとなった先代チェロキーだ。この件に関してジープは「どこから見てもひと目でジープとわかるこのスタイリングは、ジープデザインのアイコンです」と説明する。

要するにアメリカで爆発的に売れた先代チェロキーは、すでに歴史的なモデルということだ。コマンダーはそれを用いることで、ジープのアイデンティティを色濃く表現する。このデザインは新型グランドチェロキー開発の際に最後まで残った案だったという説もある。あまりにジープらしいデザインをボツにすることができず、ならばもうひとつモデル追加しようと考えた……。まぁ、その真意は確かではないが、ジープファンとしては有り難い話である。

そんな逸話があることからも察せられるように、コマンダーの中身は新型グランドチェロキーと共有する。2005年モデルとして新たに開発されたシャシフレームとパワートレーンから成り立つのだ。よって、モノコックにラダーフレームを埋め込んだユニフレーム式を採用。オフロードでのタフな走りと、オンロードでの高級感のある走りを両立させている。また、ラダーフレームがあることでトーイング(牽引)ニーズにもしっかり応えている。北米ではこのニーズは大きいからだ。

ちなみに、ランドローバーも、新型ディスカバリーや近々上陸するレンジローバー・スポーツでこの方式を再度採用している。オフロードを熟知した者たちにとって、いまのところ最適な構造と考えられているようだ。

画像: まるで先代チェロキーを甦らせたようなスタイリング。とはいえ、実寸はふたまわりくらい大きい。

まるで先代チェロキーを甦らせたようなスタイリング。とはいえ、実寸はふたまわりくらい大きい。

21世紀の先進技術を満載、ジープもここまで来たか

ボディサイズは、3列シートを所有するからといって極端にスケールアップしたわけではない。ホイールベースはグランドチェロキーと同じで、リアのオーバーハングを5cmほど延ばしただけ。よって、3列目がそれほどコンフォータブルではないとをあらかじめ報告しておこう。

ではなぜ、ボディをもっと大きくしなかったのか? その点はジープの見識といえる部分だ。このクルマはあくまでもジープ。となるとオフロードの走破性は高レベルの内容が要求されるのだ。よって、これが限界サイズとなる。

もちろん、開発段階からテストが繰り返され、コマンダーはそれをパスしている。今回の試乗でもギャップの大きな林道コースで見事なパフォーマンスを見せた。グラチェロ譲りの電子制御式4WDシステムによって次々に現れるギャップを簡単にクリアする。それを体験すると、このサイズが限界という主張もわかる。

さて、エンジンだが、ラインナップは3.7L V6、4.7L V8、5.7L V8HEMIとなる。ヨーロッパ向けには3Lディーゼルも用意されるが日本導入の予定はない。その中でも、話題はやはりHEMIエンジンで、330psのパワーで大きなボディをグイグイ加速させる。中間加速ではシートにカラダが押しつけられるほどだ。

しかし、堅牢なボディとしっかりしたステアリングフィール、それに手応えのあるブレーキもあって、安心してアクセルペダルを踏み込める。高速でのバウンシングもダンパーが効いててすぐにフラットな乗り心地が味わえる。現行チェロキー以降、ジープは高速域での足まわりのセッティングにかなり時間をかけたようだ。

さらにこのクルマはESPや電子制御式アンチロールシステムなども装備する。オンロード走行を真剣に取り組んだ結果だろう。「ジープもここまできたか」というのが正直な感想だ。カタチはクラシックでも中身は21世紀の先進技術満載といったところである。(文:九島辰也/Motor Magazine 2005年11月号より)

画像: 基本設計をグラチェロと共有しながらも、ダッシュパネルまわりはオリジナルデザインが施される。

基本設計をグラチェロと共有しながらも、ダッシュパネルまわりはオリジナルデザインが施される。

ヒットの法則

ジープ コマンダーHEMI V8(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4787×1900×1826mm
●ホイールベース:2781mm
●車両重量:2361kg
●エンジン:V8OHV
●排気量:5654cc
●最高出力:330ps/5000rpm
●最大トルク:508Nm/4000rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:4WD
※北米仕様

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