世界の自動車産業は内燃機関から電気駆動にシフトする過程のまっただ中にある。米のZEV規制、中国のNEV規制、そして2021年から施行される欧州の新排出ガス規制等など、内燃機関を搭載する自動車を取り巻く環境は日増しに厳しくなっている。欧州勢を中心にマイルドハイブリッド(MHEV)搭載車が一気に増えることは別の記事でも紹介したが、実はもうひとつの台風の目=プラグインハイブリッド(PHEV/PHV)の動向も無視できない。「2020 自動車キーワード」の短期連載の第3回目では、このプラグインハイブリッドについて解説しよう。

プラグインハイブリッドは、EVとHVのいいとこ取り?最大のネックはコスト増

プラグインハイブリッド(以下、PHEV/PHV)とは、大雑把に言えば充電できるハイブリッドカー(以下、HV)のことである。多くの場合、電気自動車(以下、EV)ほどではないが大容量のバッテリーを搭載し、HVよりも長い距離をEV走行することができる。

PHEV/PHVは日常的にEVのような使い方を主として、長距離の移動で電池残量が少なくなってきたときに発電用エンジンを起動して走行距離を伸ばすというのがおおまかな仕組みだ。EVで課題となっている航続距離の問題を、発電用エンジンを搭載することでほぼガソリン車なみに延長する、現時点では理想的なシステムのひとつではある。

さらに外部への給電機能を持つクルマもあり、蓄えた電気を家電や住宅などに供給する機能(V2H:ヴイツーエイチ)は、特に日本では災害時の給電ステーションとしての役割も注目されている。

もっとも、良いことばかりではない。なんといっても圧倒的に割高である。ただでさえ高コストのHVに、さらに高価な大容量バッテリーや充電用の補機類が加わるのだから車両価格は跳ね上がる。補助金を支給する国も多いが、それでも高いと感じるユーザーは多い。日本国内でPHEV/PHVの浸透度が今ひとつな原因はやはり価格の高さであり、費用対効果を認められていないからだろう。

にもかかわらず、特に欧州車勢は別記事で解説したマイルドハイブリッド(MHEV)とともに、PHEV/PHVの開発に熱心だ。なぜか?

画像: 車種によっては大容量バッテリーの特徴を活かして充電だけではなく外部への給電も可能としている(写真はプリウスPHV:外部給電機能はオプション。別売の専用V2Hアダプターが必要)。

車種によっては大容量バッテリーの特徴を活かして充電だけではなく外部への給電も可能としている(写真はプリウスPHV:外部給電機能はオプション。別売の専用V2Hアダプターが必要)。

欧州排出ガス規制の優遇措置が加速させる、PHEV/PHVの開発競争

ここでもクローズアップされるのが、やはり2021年から始まる欧州の新排出ガス規制への対応だ。欧州の新排出ガス規制は、自動車メーカーごとにCO2の削減目標=企業毎平均燃費を定めた、いわゆる「CAFE規制(Corporate Average Fuel Efficiency)」である。かつて環境対応技術の主軸としてダウンサイジングターボとディーゼルを据えていた欧州勢は、新規制のあらましが決定するやいなや短期間でその対応を迫られた。

なかでも頭を抱えたのが、いわゆるドイツ御三家(アウディ、BMW、メルセデス・ベンツ)だ。これらプレミアムブランドの売れ筋は中〜大型車。しかも昨今のSUVブームを背景に、クルマは大きく重くなる一方だ。マイルドハイブリッドによるCO2低減だけでは、新規制への対応が難しい。

この実情に対して、EUの環境規制当局はPHEV/PHVに特例措置を定めている。具体的にはEV航続距離が25kmあれば「CO2排出量のカウント(燃料消費量削減係数)」を大雑把に言って半分(※)に、50kmならば3分の1まで下げることを認めたのである。マイルドハイブリッドとPHEV/PHVでCO2の総排出量が下がったぶんだけ、中〜大型車の販売も増やせるのだ。となれば、1台あたりのCO2排出量を下げられるPHEV/PHVの開発に積極的になるのも頷ける。

※燃料消費量削減係数=(約25km+EV航続距離)/約25km

また、販売の一定台数を排出ガスのないゼロエミッション車で達成することを定めた米国のZEV規制(従来、優遇措置としてPHEV/PHVとHVも認められていたが、2018年にHVが外された)の動向や、中国のNEV規制の影響も大きい。

そして、日本も2030年度までの新燃費基準を公表した。これは欧州新排出ガス規制(CAFE規制)を下敷きに、2030年までに新車の燃費を2016年比で32%改善することを自動車メーカーに義務づける。これら世界同時多発的に進む排出ガス規制に対して、現在もっとも現実的な対応策のひとつがPHEV/PHVではある。

間違いなく世界はEVへ向けて舵を切っている。とはいえ、その道程には各国の事情やメーカーの思惑・事情などが複雑に絡み合っている。最近ではLCA(ライフサイクルアセスメント)=資源採掘から廃棄・リサイクルまでの環境負荷にも注目が集まっており、急激なEV化に対する懸念の声もある。

2020年夏にはトヨタが第二世代のPHV=RAV4プライム(北米名)を日本でも発売し、日産は初のPHEV/PHVモデルを新型エクストレイルに設定、三菱も新型アウトランダーPHEVを発売すると見られる。いま世界中の自動車メーカーが次世代車の本命を模索しているが、PHEV/PHVはそのひとつであることは間違いない。(文:阪本 透)

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