1989年に初代マツダ ロードスターが誕生してから、2019年で生誕30周年を迎えた。世界中に熱狂的なファンを持つ「不滅のロードスター」の魅力を世代別に探る短期集中連載をお届けする。まずは初代(NA型)ロードスターの開発秘話から紹介しよう。

成功を信じて疑わなった開発陣の熱い想いが経営陣を動かした

画像: 1989年のシカゴショーで初披露されたMX-5 ミアータは、アメリカのメディアで絶賛された。

1989年のシカゴショーで初披露されたMX-5 ミアータは、アメリカのメディアで絶賛された。

1989年はスポーツカーファンにとって忘れることのできないビンテージイヤーだ。ホンダ NSXプロトタイプの登場、日産スカイラインGT-Rの復活、そしてマツダ ロードスターの誕生である。ロードスターは同年2月、シカゴモーターショーで鮮烈な初デビューを飾った。北米での名称はマツダMX‐5ミアータ。ミアータはドイツ語で「贈り物」を意味する。

ライトウエイトスポーツカーは1950~70年代に数多く存在したが、快適性や高級指向が世界的に強まった1980年代は、時代の波についていくことなく多くの小型スポーツカーが消えていった。マツダは当時、販売ブランドの多チャンネル化と高級化路線を推進中であり、小さなスポーツカーの実現に難色を示す経営陣もいたという。

しかし、開発陣はあきらめなかった。試作段階の市場調査では、相当な需要が潜んでいることをつかんでいたからだ。あるときユーザーの反応を直接確認するため、カリフォルニア・デザインスタジオ近くの路上にプロトタイプの「V705」をさりげなく置いたという。すると、ロードスターのプロトタイプの周りには、瞬く間に人だかりができたそうだ。

開発陣の熱心な説得により、ロードスターは1989年5月に北米で販売を開始。日本では7月から予約受注を始め、9月に高級車を扱うユーノスブランド初の専売モデルとしてデビューした。

日本で発売されるや否や半年間のバックオーダーを抱えるほど売れた

画像: ブラックのソフトトップが標準装備されたが、オプションで写真のディタッチャブルハードトップも設定された。

ブラックのソフトトップが標準装備されたが、オプションで写真のディタッチャブルハードトップも設定された。

その人気は予想をはるかに超え、半年分ほどのバックオーダーをかかえることになった。幅広い層から支持を集めたロードスターのスタイリングは、実は日本伝統の美が隠されている。しなやかで艶かしいボディフォルムは、日本女性を意識したものなのだ。 

フロントマスクは能面からヒントを、リアコンビランプは江戸商人が使った分銅の形を採り入れるなど、和風の隠し味が絶妙だ。低いドライビングポジションも特徴的で、フロントウインドウを強く傾斜させてスポーティなフォルムを強調している。

ロードスターが目指したのは当時の流行だった絶対的パワーやカタログスペックの追求ではない。「飛ばさなくても走りが楽しめる」クルマを操る面白さを追求した。そのため駆動方式はFRにこだわった。

エンジンは量産車ファミリアから受け継ぐ小排気量4気筒レシプロを選択。コストを有利にした点だが、FR化にはプラットホームを専用開発する必要があり、それには莫大な費用がかかる。クルマ好きには当然だと思えるFRレイアウトだが、マツダとしては難題だった。どこまで量産化が見込めるのか、マツダは潜在需要にかける決断を下した。開発陣はRX-7で蓄積した技術を全面的に生かし、軽量で剛性の高いロードスター専用プラットホームを作り上げた。

このプラットホームでこだわった点は50対50の前後バランスと慣性モーメントの低減だ。これはスポーツカーの基本性能を高める上でもっとも重要かつ不可欠な要素である。 

高剛性と軽量化を両立し理想的な重量配分を追求

画像: タイトなコクピットが特徴のNAロードスター。砲弾型のシフトレバーは極めて短く、手首を返すだけでシフトできる気持ち良さだった。

タイトなコクピットが特徴のNAロードスター。砲弾型のシフトレバーは極めて短く、手首を返すだけでシフトできる気持ち良さだった。

コクピットは適度なタイトさが特徴だ。センタートンネル内部にはコの字型のアルミフレーム補強を備える。ドアにもボディ変形を支える役割を持たせるなど、オープンボディにありがちな剛性不足を補うための秘策を各所に徹底的に施した。

ドライバーのアイポイントはグッと低く、ペダル類は接近している。ペダルストロークを長くして細かいコントロールをしやすくした点も開発陣がこだわったポイントだ。ハイバック型のバケットシートにはステレオスピーカーが内蔵してある。

トランスミッションは発売当初5速MTのみ。砲弾型のシフトレバーは極めて短く、手首を返すだけでシフトチェンジできる気持ちよさをアピールした。エンジンは排気量1597ccのB6-ZE型4気筒DOHCをフロントミッドに搭載。ファミリアから譲り受けたユニットを専用チューニングしたものだ。

ボンネットはアルミ製を採用。通常フロントにあるバッテリーをトランクに移動するなど、各パートで工夫して前後重量配分50対50を実現している。トランク内部のスペアタイヤを極力前方に搭載したのは、コーナリング特性に影響を及ぼす慣性重量低減のためだ。

初代ロードスターはモノグレードで、車両価格を極力切り詰めるためパワーステアリングもオプション設定とした。オプションのスペシャルパッケージを選ぶと、パワーステアリング、パワーウインドウ、MOMO製本革巻きステアリング、アルミホイールを装備するのだ。スペシャルパッケージのオプション価格は15万円で装着率は高かった。

つまりロードスターは、スタイリッシュなオープン2シーターという記号性だけでなく、走りの気持ちよさを実現するためにあらゆるところをきちんと磨き上げた。これが名車と呼ばれる所以なのだ。

マツダ ユーノスロードスター(NA型) 主要諸元

●全長×全幅×全高:3970×1675×1235mm
●ホイールベース:2265mm
●重量:940kg
●エンジン型式・種類:B6・直4 DOHC
●排気量:1597cc
●最高出力:120ps/6500rpm
●最大トルク:14.0kgm/5500rpm
●トランスミッション:5速MT
●タイヤサイズ:185/60R14
●価格:170万円

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