3代目ルノー ルーテシアが日本で正式に発表されたのは2006年3月。激戦区となっているヨーロッパでもルーテシアの評価は高く、2006年の欧州カー・オブ・ザ・イヤー受賞という勲章をひっさげての上陸となった。となると注目は日本市場で輸入コンパクトカーの定番となっていたポロの牙城をどう崩すかということに集まった。当時安定した人気を誇っていたポロと比較しながらの、興味深いインプレッションを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年5月号より、タイトル写真はルーテシア 5ドア1.6とポロ4ドア)

粘っこく路面を捉える接地感はいかにもルノー

ジュネーブショー取材の折り、フランスでレンタカーを借りたのだが、リヨン空港のエイビスホテルにはまさに新型クリオ(日本名ルーテシア)があふれていた。フランス最大のルノーが作る最もポピュラーなクルマ。それがBセグメントに位置するクリオで、日本に置き換えればさしずめ、ヴィッツ。したがってこの光景も当然なのだが、僕がフォードで走り出してからも(クリオは予約で埋まっていた)路上にはかなりの数が確認できたし、また存在そのものが目立ってもいた。

その理由はスタイリングだろう。均整のとれた2ボックスボディに近年のルノーのお約束である大きなヘッドライト。しかもノーズをシャープに絞り込んだ新型クリオのスタイリングは存在感十分。欧州においてはすでに小型車の新たなトレンドセッターの地位を得ているように思えた。

帰国後、その日本版である新型ルーテシアと、同じBセグメントの雄として日本では特に人気の高いフォルクスワーゲン ポロを連れ立ってテストドライブできたわけだが、少なくともデザイン面においては、両者の登場年次の差を見せつけられる結果となった。

新型ルーテシアのサイズは全長3990mm×全幅1720mm×全高1485mm。先代に対し80mmもの拡幅がデザインの自由度を高めたのは確かで、ふくよかなフェンダーやキャラクターラインなど、表情豊かなプロフィールを得ている。

一方のポロは、昨年2005年8月のマイナーチェンジでワッペングリルを得たものの、基本的なパッケージは2002年の登場当時のままで、全幅1665mmというスリムボディに遊びはない。スクエアでビジネスライクなスタイリングに徹している。

インテリアも然りで、ルーテシアは曲面構成のインパネにシルバーの加飾が施されたモダンなもの。一方ポロは精度は高いが直線基調の理詰めの空間である。もっとも、この質実剛健さがポロの魅力となっているのも確かなのだが。

面白いのは、室内空間は外寸から想像されるほどの差が見出せなかったことだ。子細に較べるとホイールベースが約100mm短いポロが不利で、後席の足下前後長などは余裕に欠けるが、そこを深さでカバーしている。

一方のルーテシアも圧倒的に有利ではなく、座面の前後長を小振りにするなどしてスペースを稼いでいる。幅や高さ方向に関しても、印象は同じ。いずれもルーテシアの方がわずかに余裕があるといった程度。今後Bセグメントの標準となりそうな1700mmオーバーの全幅はデザインと側突対応などにあらかた費やされてしまうようで、直接的には広さに結びついていない。となれば、このサイズでよくぞ……の感のあるポロの合理的なパッケージは、大したものだ。

さて走りだが、現状ルーテシアのエンジンは112psの1.6Lのみ。3ドアと5ドア、4速ATと5速MT、それに装備が少し豪華な「ele」グレードが選べる程度のバリエーションしか持たない。その中から今回は5ドアの4速AT標準モデルに乗った。ポロは1.4L 75ps4速ATの5ドア(フォルクスワーゲン流には4ドア)で、今回の試乗車はシートやステアリングが本革となるレザーパッケージ装着車だ。

動力性能はやはりルーテシアが有利。ポロはパワーに対し車重が重いのがネックで、初速の乗りが緩慢だ。一度動き出せば伸びはいいが、ストップ&ゴーの多い日本では初期加速にややもっさりとした印象があるのは否めない。ゴルフ系に採用される6速ATがあれば事態は多少変わるだろうが、現状ポロに組み合わされるのはマニュアルモードを持たないシンプルな4速ATである。

ルーテシアも4速ATは比較的ハイギアードな設定で、特にスタートダッシュの瞬発力が強力なわけではないが、排気量の余裕から来るトルクで走り出しは軽やか。それにこのATにはサブゲートに引き込んでマニュアル操作可能なプロアクティブ機構も備わっており、3000rpmからパンチの出てくるエンジン特性を積極的に活用できる。

フットワークもかなり違う。スタビリティに重きを置いている点は共通だが、ポロはやや締まった足まわりでそれを実現している。したがって乗り心地はやや当たりが強いし、ロードノイズなども大きめ。荒さを感じるまでにはなっていないし、この質実剛健さがフォルクスワーゲンらしいと思うファンもいるだろうが、快適性を高めたゴルフVを体感した後では、少々時間の流れを感じてしまう。また、マイナーチェンジ後のモデルはステアリングのゲインが高く、キビキビとした動きをことさら印象づけようとしている点も気になった。

その点ルーテシアはかなり快適性を意識している。プラットフォームは日産と共用するもので、乗り心地、ロードノイズともマイルドでやはり世代的に新しいことを実感させた。電動パワステのタッチに均一性を欠き、イナーシャ感もあるが、どっしりとしたロールフィールや、粘っこく路面を捉える接地感はいかにもルノーらしい美点である。

ただし、このような細かい性能差でこのクラスを吟味するのは少数派だろう。価格的に最も手頃な輸入車となるBセグメントカーはもっと直感的に選ばれるはず。新型ルーテシアの翔びすぎず、しかし主張のあるスタイリングはその点でも十分な可能性を秘めているはずだが、すでに確固たる定評を得ているポロの牙城を突き崩すのは容易ではない。

欧州と同様に、日本でもコンパクトカーの新たなトレンドセッターになれるかは、今後の動向を見守るしかないようだ。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2006年5月号より)

画像: 2006年3月、日本で発表された3代目ルノー ルーテシア。

2006年3月、日本で発表された3代目ルノー ルーテシア。

画像: 2005年8月23日に大幅なフェイスリフトを発表したフォルクスワーゲン ポロ。これが最新仕様となる。試乗車は4ドア。

2005年8月23日に大幅なフェイスリフトを発表したフォルクスワーゲン ポロ。これが最新仕様となる。試乗車は4ドア。

ヒットの法則

ルノー ルーテシア 5ドア1.6(2006年) 主要諸元

●全長×全幅×全高:3990×1720×1485mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1190kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1598cc
●最高出力:112ps/6000rpm
●最大トルク:151Nm/4250rpm
●トランスミッション:4速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:209万8000円(2006年)

フォルクスワーゲン ポロ4ドア (2006年) 主要諸元

●全長×全幅×全高:3915×1665×1480mm
●ホイールベース:2470mm
●車両重量:1160kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1398cc
●最高出力:75ps/5000rpm
●最大トルク:126Nm/3800rpm
●トランスミッション:4速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:199万5000円(2006年当時)

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