2005年、BMW6シリーズに4.8L V8エンジン搭載モデル「650i」が追加されている。トップレベルの快適性と動力性能、そして豪華さを誇るモデルだが、中でもカブリオレはひときわ贅沢でスタイリッシュなモデルと言えるだろう。車両価格は1160万円(当時)。このクラスになると個性的で伝統的なライバルは数多いが、その中でこの650iカブリオレの魅力はなんだったのだろうか、当時の試乗記を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年7月号より)

BMWの中にあっても飛び切りプレミアムな一台

現在、手に入れることのできるプレミアムカーを、自動車メーカーごとにふたつのグループに分けてみるとする。

ひとつは、少ない車種を限られた台数だけ生産するメーカー。これまでに取り上げたクルマを例に挙げれば、アストンマーティン、フェラーリ、ベントレーなどだ。いずれのメーカーも、スポーツカーやスポーティなGTやサルーンだけを限定的な数だけ作っている。当然、会社のブランドイメージは高く、ファンは憧れを抱く。

もうひとつのグループは、それ以外の自動車メーカーが作るプレミアムカー。つまり、トップモデルのプレミアムカーだけを作っているのではなく、小型車やSUVなども作っている。アストンマーティンやフェラーリやベントレーなどよりも、もっと規模の大きな自動車メーカーということになる。総合的なラインアップを持つメーカーが、自らの威信を賭け、腕によりを掛けて作り上げるプレミアムカーが、少なくなく存在している。

2005年には112万6768台の販売台数(BMWブランドのみ/MINIとロールスロイスは含まず)を記録したBMWは、プレミアムカーメーカーと呼ぶにふさわしいが、アストンマーティンやフェラーリなどと一緒に考えるわけにはいかないだろう。二輪車も作り、MINIやロールスロイスなども抱え、1から7シリーズ、さらにはXやZシリーズまで展開している総合自動車メーカーだ。

650iカブリオレは、そんなBMWの中にあって、飛び切りプレミアムな一台だろう。1960年代の2000CS以来の伝統を持つ、2ドア4シータークーペの現代版が6シリーズである。日本での6シリーズには、650iカブリオレの他に、トップが開閉しない650i/630iのクーペと507psを発生する超強力なV10エンジンを搭載するM6がある。

6シリーズの4車種は、いずれも豪華で高性能なクルマであることは間違いないが、その中にあっても、650iカブリオレは特別に贅沢な感じがする一台だ。

画像: 2005年に登場したBMW 650iカブリオレ。BMWの中でも特別に贅沢な1台。

2005年に登場したBMW 650iカブリオレ。BMWの中でも特別に贅沢な1台。

古典的な美に対する敬意、エレガンスと先進性の両立

まず、4シーターカブリオレというボディ形式が醸し出す佇まいが、とてもエレガントだ。トップが開くといっても、スポーツカーのように、走りっぷりだけを追求したクルマではない。かといって、豪華で速い(だけの)GTというわけではない。

さらに言えば、同じルーフが開くカブリオレと言っても、昨今流行りの金属製のルーフを装備した電動開閉式ハードトップではなく、クラシックな趣を持った布製のソフトトップを備える点が、より典雅な雰囲気を形作っている。

ゴージャスなオープンモデルで何を訴求しようとしているのかが各々に窺えて、面白い。オープンモデルに、どちらのトップを採用するのか、同じドイツのプレミアムカーメーカーといえども、まったく対照的だ。

メルセデス・ベンツSLクラスも、かつてはソフトトップを備えたカブリオレだったが、現行モデルから電動ハードトップに変わってしまった。「電動ハードトップならば、クーペの耐候性や快適性などとカブリオレの開放性や爽快感などを両立できる」というのが、SLシリーズの狙いとするところだ。

一方、ポルシェ911カレラカブリオレは、650iカブリオレと同様に、伝統的にソフトトップを採用して「ソフトトップには、重量が軽いというアドバンテージがある。911カレラのようなパフォーマンスを追求するスポーツカーにとって、車両重量の抑制は何よりも優先される」。スペインのセビリア郊外で行われた911カレラカブリオレの試乗会で、開発責任者であるポルシェのウォルフガング・デュラハイマー博士は、軽く済むことがソフトトップを採用する最大の理由だと語っていた。

また、博士は、ソフトトップは単純に重量を増やさないだけでなく、これもスポーツカーにとっては重要となる重心を下げることにも有利に働くと付け加えていた。そして「ソフトトップにはハードトップには絶対に真似できないものがある。それは、エレガンスだ」と、博士は三つ目の理由を明らかにしてコンファレンスを締めくくった。ポルシェのようなピュアスポーツカーが重量の軽減や低重心化を重視するのはすぐに理解できるが、三つ目の理由はちょっと意外だった。

コンファレンス後に博士をつかまえて話の続きを聞いてみた。「スチールのボディにソフトトップという組み合わせは、馬車の時代から続く、自動車が持つ古典的な美なのです。たとえ技術が発達し、新たな金属素材が開発されたとしても、ブリオレにはこの組み合わせに勝るものはありません」。軽量というと、ペラペラの布を想像してしまうが、911カレラカブリオレのソフトトップは、そんなにヤワなものではない。布は幾重にも重ねられ、その間には音や振動を吸収する素材が充填されている。外見からはわかりづらい複雑な構造だ。

話を650iカブリオレに戻そう。650iカブリオレのソフトトップも、911カレラカブリオレのそれと同様に、重厚な作りがなされている。センターコンソールにある開閉ボタンを押すだけで、ロックが外れ、ソフトトップは約25秒で開く。911カレラカブリオレが20秒を要するから、それよりも広い面積を持つ650iカブリオレの25秒が、掛かり過ぎるというわけではない。必要に応じて、リアガラスウインドウも専用ボタンで上下できる。ソフトトップを閉めたまま、走行中に車内の換気を素早く行いたい時などに、効力を発揮する。

車内は、豪華そのものだ。豪華なインテリアを表にさらすためにトップを開くようにしてあるのではと邪推してしまいそうになるほど、眼を奪われる。淡く微妙な色調の、柔らかな手触りを持った革が、前後のシートだけでなく、ダッシュボードやドアトリム、メーターナセルやサンバイザーにまで張られている。

メーターや各操作部分、iDriveのダイヤルとモニター画面など最近のBMWに共通する造形が施されているのだが、印象が大きく異なる。機能主義的で、クールなBMWのインテリアが、饒舌な表情を見せているのだ。

そのiDriveだが、登場当初こそあまりに多くの機能をひとつのコントローラーに集約したものだから、取り扱いに違和感を拭うことが難しかった。だが、これも我々が日常的に接しているパソコンや携帯電話の階層構造と同じ論理で構成されていると納得することができれば難しいことはない。むしろ、使いやすく感じるくらいだ。

iDriveで操作できる内容も進化を続け、650iカブリオレには「パーキングエアコンモード」なるものが組み込まれている。エンジンを停止した駐車中でも一定時間はエアコンを作動させることができる。停車中のアイドリングが法に問われるドイツのプレミアムカーらしい設定だ。

佇まいこそ古典的だが、それとは対照的なiDriveのような装備を積極的に採用するBMWの開発姿勢は、先進的だ。

ユーザーの平均年齢が高かったり、保守的な用途に用いられるようなクルマだからといって、内容や装備までも古いままで留まらせておくことがないのは頼もしい。

画像: メタルルーフの電動開閉式ハードトップではなく、布製のソフトトップを備える点が典雅な雰囲気を形作っている。

メタルルーフの電動開閉式ハードトップではなく、布製のソフトトップを備える点が典雅な雰囲気を形作っている。

最新の価値観が通用する完璧なまでに高いバランス

最高出力367psを発生する4.8L V8エンジンを始動して、走り始める。1960kgと、ほぼ2トンに近い車両重量があるだけに、身のこなしは穏やかだ。最大トルクが490Nmと十分以上に確保されているから、スロットルペダルを少し踏み込むだけで、街中ではほとんどの用が足りる。

ランフラットタイヤを履いているためか、低速度域での乗り心地は、スタイルほどには甘美なものではない。ゴワゴワしたような、ホンの少しの渋みが後を引く。

ステアリングフィールからも、ビビッドなものは感じられない。繰り返すようだが、スポーツカーではないのだ。精彩を発揮し始めたのは、高速道路に乗り入れてからだった。ソフトトップを下げて走っていても、例外的な静けさとしなやかな乗り心地が、オープンボディであることを忘れさせる。サイドウインドウを上げてさえいれば、風切り音も小さい。時速100kmで走っているのに、車内空間は平穏に保たれたままなのは、ちょっと不思議な感じがする。

開口部の大きなカブリオレにありがちなボディのよじれも感じさせず、フラットな姿勢を維持し続ける。速度を上げれば上げるほどに、大きな4シーターボディが引き締まっていくように感じてくる。ボディのロールを抑える「ダイナミック・ドライブ」は、高速域でこそ真価を発揮してくる。

エンジンも3500rpmを超えた辺りから回転の鋭さが増す。勇ましい排気音を伴った、力強い加速を6500rpmまで続ける。

動力性能や快適性などを始めとして、あらゆる要素が非常に高いレベルでまとまりを見せている。いくつかの要素だけが突出して、目立つことがない。注意深く運転を続けても、ウイークポイントらしきものすら見付けることができなかった。完璧に近いほど、バランスが取れている。4シーターカブリオレという、持ち主を選ぶクルマでありながら、内容で人を選ばない。仕立ては特別でありながら、走りっぷりや使い勝手は恐ろしいまでに上質で常識的だ。

その上質さが象徴されているのが、ソフトトップを上げての高速走行だ。ソフトトップは繊維の折り目と空気が摩擦を起こして、ハードトップよりも風切り音が大きくなるのが避けられない。しかし、BMWは特殊なコーティングを施した細い繊維をトップに用いることで空気の流れを滑らかにして、この宿命的な問題を解決してしまった。総合自動車メーカーの底力を垣間見た気がした。

音のしないソフトトップや進化したiDriveなどによって、クルマの古典美を現代にあっても大いに意義のあるものとしている。650iカブリオレはBMWならではの「プレミアムカー」と言えるだろう。(文:金子浩久/Motor Magazine 2006年7月号より)

画像: クリーム・ベージュ色の内装はオプション設定のエクスクルーシブ・レザー・パール・インテリア。

クリーム・ベージュ色の内装はオプション設定のエクスクルーシブ・レザー・パール・インテリア。

ヒットの法則

BMW 650iカブリオレ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4830×1855×1360mm
●ホイールベース:2780mm
●車両重量:1960kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4798cc
●最高出力:367ps/6300rpm
●最大トルク:490Nm/3400rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●0→100km/h加速:5.8秒
●最高速: 250km/h(リミッター作動)
●車両価格:1160万円(2006年当時)

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