159、ブレラが次々と日本上陸を果たした2006年春。アルファロメオからもう1台、注目のモデル「アルファ スパイダー」がデビューしている。ブレラをベースとしたオープンモデルという成り立ちだが、そのポジショニングは「アルファ伝統のスパイダーの系譜」を継ぐもの。果たして3代目アルファ スパイダーはどんなモデルだったのか。イタリア・シシリー島で開催された国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年8月号より)

デザインはピニンファリーナとの共同開発

走りこそまずまずながら、眺めて最高、乗って心より幸せ。シシリー島で最新のスパイダーに試乗し、一夜明けての正直な感想である。

本題に入る前に基本的な情報をお伝えしておく。今年のジュネーブショーにデビューし「カブリオ・オブ・ザ・イヤー」を受賞した新型アルファ スパイダー。ご覧の通り、先行デビューの最新クーペ、ブレラを2シーターオープン化したモデルだ。見た目とは裏腹に、ホイールベースなど基本ディメンジョンはブレラと同じ。

ブレラをスタイリングしたのはジョルジオ・ジウジアーロ率いるイタルデザインだが、オープン化の任にあたったのはピニンファリーナである。

アルファロメオはこの流れを「アルファのチェントロ・スティーレとピニンファリーナの共同デザイン」のひと言で片付けているが、ブレラが先にデビューしているからこその方便で、結果的にはマセラティクーペ&スパイダーと同様、ジウジアーロとピニンファリーナのコラボレーションモデルと言ってかまわない。ブレラもスパイダーもピニンファリーナの工場で生産され、ブレラの前フェンダーにはジウジアーロバッジが、スパイダーの後フェンダーにはピニンファリーナバッジが付く。

何やら複雑で政治的な臭いもするが、イタ車好きには願ってもない小話になろう。私がもしスパイダーを買ったなら、ジウジアーロバッジも前フェンダーに貼るかもしれない。

5層からなるソフトトップはガラスウインドウを備え、全自動ワンタッチで開閉する。開閉時間はおよそ26秒。油圧システムそのものはヴェバスト社製だ。ピニンファリーナとヴェバストとくれば流行りのCC(クーペ・カブリオレ)をすぐに連想してしまうが、アルファロメオはスパイダーの伝統に則ってエレガントなソフトトップにこだわった。

世界的な需要を考えれば間違いなくCCだが、皆がみなハードルーフカブリオレになる必要もあるまい。特にアルファロメオのようなニッチメーカーにとって、快適性重視や悪戯・盗難防止よりもスタイリングのエレガントさの方が大事であろう。実際、クローズドの佇まいも十分に美しい。CCではこうはいかなかった。ちなみに、取り外し式のハードトップについてはオプションとして検討しているらしい。

スタイリングについては後で「褒める」ことにして、インテリアを先に紹介する。基本的にはブレラと同じと考えていい。ダッシュボードやシートのデザイン、バイカラーのコーディネートなど、雰囲気的には既に159&ブレラでお馴染みのものだ。トップの開閉ボタンがシフトベース後方に配されていることと、プラス2のリアシートの代わりに小物入れが2つ用意されたことが大きな違い。BOSEサウンドシステム搭載車には小物入れの間にサブウーファーが置かれている。

メカニズム的にもブレラを踏襲した。2.2L直4DOHC(FF)と3.2L V6DOHC(4WD)の両ガソリンJTSユニットを搭載し、組み合わされるミッションは6速MTのみとなるのも同じ。4WDはトルセンCデフを備えるQ4システムで、通常時には前43:後57に駆動力分配されるスポーティな4WDだ。

待たれる2ペダルミッションだが、先だって159のディーゼルモデルにアイシンAW製6速ATを積んだグレードが発表となった。ブレラ&スパイダーのV6にはこの6速ATが搭載されることになろうが、デビューは来年春以降。また、セレスピードに関しても159への搭載は決まっているが、ブレラに関しては未だに検討中という答しか返ってこない。アメリカ市場投入を考えての「悩み」ということも考えられる。それはアメリカ市場がロボタイズドミッションに拒否反応を示しているからだ。

パワートレーンこそブレラと同じだが、オープン化にあたって他の部分には手が加えられた。最も問題となるオープンボディの剛性に関して言えば、フロアやAピラー、前後のバルクヘッドを積極的に強化した。屋根のないスパイダーでも高張力鋼板の使用割合がブレラと同じ(約50%)ということからもそのことは伺える。

フロアのねじれ剛性ではポルシェのボクスターに迫っていると、エンジニアは胸を張った。これらの結果、オープン化にあたっての重量増は60kgとなっている。また、オープン時の乗り味そのものをブレラに近づけるため、ダンパーやスプリングの設定も変えられた。

画像: 2006年に登場した3代目アルファ スパイダー。2代目はGTVをベースとしていたが、3代目はブレラがベースとなった。

2006年に登場した3代目アルファ スパイダー。2代目はGTVをベースとしていたが、3代目はブレラがベースとなった。

アルファらしい緩さとご機嫌なエンジンサウンド

走りに関わる話になったところで、そろそろ本題に入るとしよう。冒頭で、走りはまずまず、と書いた。これにはいろんな想いを込めている。

純粋に最新オープンモデルたちと剛性感やNVHなどを比べれば可もなく不可もなく、否どちらかといえば頼りない部類に入るだろう。オープンにすれば多少気もまぎれるが、クローズドで乗ったときにバタつきを強く感じてしまうこと自体、今風の剛性感を持たない証拠と言える。V6よりも直4の方が明らかにその傾向が強かった。

ただ、それだけで評価できないのがアルファロメオだ。159シリーズ以降、そのカチッとした乗り味に驚かされたものだが、スパイダーのそれには以前のアルファらしい「ゆるさ」も備わっていて、それがなんとも心地いい。

とはいえ、旧型のように身を捩ってわが身もサスペンションの一部とするような極端なものではなく、整った路面では最新アルファの乗り味を垣間見せる。言ってしまえば、新旧アルファロメオの性能を、アルファらしさという点で良いとこ取りした走り、ということもできよう。

ブレラではショートホイールベースシャシとQ4の組み合わせがエキセントリックすぎた(まあ、それもアルファらしいのだが)ものだったが、オープン時のスパイダーでは攻め込んでもそれほど気にならなかった。ゆるさが幸いしているのかも知れない。

嬉しかったのはサウンドだ。159やブレラではNVHにこだわったため心躍るサウンドからも遠ざかったが、オープンなら関係ない。直4には空気が心地よく抜けてそれがシャープに回る感覚に繋がるといった風の直列エンジンらしい音と振動があったし、V6には回せば回すほどに猛々しく挑発的に奏でられる響きがあった。そんな、ゾクゾクと心躍らせる雰囲気作りこそ、アルファロメオの真骨頂だ。

最後になったが、加えてこのスタイルである。ロールバーに呼応した2つの膨らみがフロントフェンダーから続くエッジで敢然と纏められ、華々しく色気に満ちたリアセクションを形成している。斜め後ろ低い位置から見た造詣の妙味は、さすがピニンファリーナの仕事というしかない。眺めて最高な気分のまま、コクピットに腰を降ろせば、そんなクルマをドライブする自分がこの上なく幸せに思えるのだった。(文:西川 淳/Motor Magazine 2006年8月号より)

画像: トップを上げていてもエレガントさを失わないのがソフトの良さ。ブレラをベースに、ここまで美しく仕立てたピニンファリーナの職人技に感服。

トップを上げていてもエレガントさを失わないのがソフトの良さ。ブレラをベースに、ここまで美しく仕立てたピニンファリーナの職人技に感服。

ヒットの法則

アルファロメオ アルファ スパイダー2.2JTS 主要諸元

●全長×全幅×全高:4393×1830×1318mm
●ホイールベース:2528mm
●車両重量:1530kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:2198cc
●最高出力:185ps/6500rpm
●最大トルク:230Nm/4500rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
※欧州仕様

アルファロメオ アルファ スパイダー3.2 V6 Q4 主要諸元

●全長×全幅×全高:4393×1830×1318mm
●ホイールベース:2528mm
●車両重量:1690kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3195cc
●最高出力:260ps/6200rpm
●最大トルク:322Nm/4500rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:4WD
※欧州仕様

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