高速道路のトンネル内照明といえば、オレンジ色を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、最近では白いトンネル照明もよく見かける。オレンジと白の照明でなにか違いがあるのだろうか。またどうしてオレンジ光から白色光に変わったのだろうか。

オレンジ光は日本のモータリゼーションの名残り

日本のトンネルに照明が本格的に設置され出したのは、1960年代からだという。当時はオレンジ色照明で路面を照らし、2000年代に入ると白色照明が採用されはじめてきた。トンネル照明の変遷の影には、世界の自動車業界の技術革新、日本のモータリゼーションの発達と弊害、環境問題、安全運転の質の向上などが見え隠れする。

画像: 高速道路だけでなく、道路のトンネルは白色の照明を採用するケースが増えている。

高速道路だけでなく、道路のトンネルは白色の照明を採用するケースが増えている。

1960年代の日本で排出ガスの有毒性はほとんど知られておらず、規制物質は一酸化炭素のみだった。当時はディーゼル車が黒煙をあげて走行するのが当たり前の時代。交通量の増加や、粒子状物質(PM)/窒素酸化物(NOx)など多くの有害物質をまき散らすなどにより、トンネル内の空気は排出ガスやチリで充満されていた。

このように霞み、淀んだ空間を照らすに適した光はオレンジ色だと言われている。オレンジ光には赤色をより黒っぽく見せてしまうデメリットもあるが、それよりも高い透過性が排出ガスやチリの影響を受けにくくしてくれるという。

光源は低圧ナトリウムランプで、従来の水銀灯と比較すると総合効率が高かった。常時点灯を求められるトンネル照明だからこそ、少しでも電気効率の高いランプが採用されたわけだ。ただしその寿命はおよそ9000時間(375日)と短く、毎年のランプ交換を必要としていた。手間がかかる設備ではあったが、より効率的な光源がないなどの理由で低圧ナトリウムランプは1990年代までおよそ30年間も使用された。

これに代わって新しく光源に採用されたのが、同じくオレンジ光の高圧ナトリウムランプだった。低圧ナトリウムランプと比較して、より明るく、総合効率は同等、それでいて寿命は2万4000時間(1000日)と約2.7倍に伸びた。交換サイクルの長さゆえか、後継の光源が設置されはじめてからも現役を続け、2010年頃まで使われていた。

一般にトンネル照明がオレンジだったのは、1960年代から2010年ころまでのおよそ50年間にも及んだ。そのためトンネル照明といえばオレンジ色と、ドライバーに強く印象付けられたのも無理はない。

オレンジ光が採用され続けた理由はトンネル内の空気の汚れ・霞みで、その主原因は排出ガス対策の施されていなかったディーゼル車だろうと推察できる。1990年代にはたび重なるディーゼル車の排出ガス規制強化によって、黒い排出ガスは消え、PMやNOxなどといった有害物質の排出も抑制、ようやくトンネル内の空気もクリアになっていったわけだ。

画像: トンネル内の空気がクリアになった理由のもうひとつが、長距離トンネルの天井に設置されているジェットファン。トンネル内の換気のため、1981年に三井三池製作所によって製品化されたもの。

トンネル内の空気がクリアになった理由のもうひとつが、長距離トンネルの天井に設置されているジェットファン。トンネル内の換気のため、1981年に三井三池製作所によって製品化されたもの。

トンネル内の視界が確保されれば、オレンジ色の照明の役割はひとつ減ることになる。長年採用され続けたナトリウムランプであったが、より高効率な白色光源が開発されたこともあり2010年頃を境に徐々に姿を少なくしていった。

1999年からナトリウムランプの代替として採用されはじめたのが、Hf蛍光灯だ。総合効率はナトリウムランプより10%アップし、比べ物にならないほどに明るく、まぶしいほど。ただし、寿命は1万2000時間(500日)で、高圧ナトリウムランプから半減してしまう。

交換サイクルの短さが災いしてか、はたまた技術革新のスピードアップゆえか、次なる白色光源セラミックメタルハライド灯が2009年に登場。明るさこそHf蛍光灯より落ち着いたものの、総合効率はナトリウムランプの25%増し。しかも、寿命は2万4000時間(1000日)に戻った。

Hf蛍光灯とセラミックメタルハライド灯はともに「白色」とされているが、実際に見るとやや黄色がかっている。実はこれ、明・暗の急激な変化で起こるブラックホール現象/ホワイトホール現象を抑えるためで、トンネル内外で視覚に違和感を感じさせず、安全運転を継続する目的のためだった。とくに昼間、トンネル内でも自然光に近い昼光色が求められた。

そして2011年に最新の照明LED灯が登場する。総合効率はナトリウムランプから75%もアップし、同じ明るさならおよそ3分の1の電力で稼働できるという。しかも、寿命は9万時間(3750日)と圧倒的な長さを誇る。クリアな視界で安全運転をサポートし、高い環境性能を両立しているのだ。(文:猪俣義久)

This article is a sponsored article by
''.