2006年6月28日、アウディジャパンはアウディスポーツのハイパフォーマンスモデルであるRS4/RS4アバント、S6/S6アバント、S8を発表、その直後の7月1日から3日間にわたり、それらを一気に乗り比べる試乗会をツインリンクもてぎで開催している。そのパフォーマンスを存分に確かめられるように、試乗場所にサーキットを選んだのだった。ここではその試乗の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年9月号より)

アウディの最新スポーツモデルが集結

ツインリンクもてぎのロードコースに、アウディの最新スポーツモデルが集結した。RS4、S6、S8、それにS4も加わり、それらを一度に乗り比べることができたのだ。

アウディジャパンは、2006年7月1日、2日にツインリンクもてぎで、「アウディアルティメットドライビング@ルマンチャレンジ」というカスタマーと公募によって選ばれた希望者のためのハイパフォーマンスモデル体験試乗イベントを行った。

これは、6月28日に発表され、今年中に日本へ導入される予定の最新スポーツモデル、RS4/S6/S8をいち早く味わってもらおうと開催されたもので、S4もその中に用意されていた。そしてそのイベント終了の翌日に、我々プレス向けの試乗会が実施されたのだ。

用意されていた車両は、RS4は右ハンドル仕様のセダンで、ETCユニットまで装着されていた完全な日本仕様のモデルだ。S6とS8はまだ日本仕様の生産が始まっていないため、ドイツから空輸されてきた完全な本国仕様のモデル。S4はもちろん日本仕様そのものである。

日本で市販されるラインナップとしては、RS4/S6/S8にはセダンとアバントの両タイプが設定されている。しかし今回、試乗車としてツインリンクもてぎのロードコースにあったのは2台のRS4(ともにセダン)、2台のS6(こちらもともにセダン)、2台のS8、1台ずつのS4セダンとS4アバントという8台であった。

試乗は、5チーム×2組に分けて行われた。車両は4台で1組だから、常に1チームは休憩というタイムスケジュールだ。各車とも3〜4周ずつという限られた条件下での試乗だった。そのため、存分に走り込めたとはいえないのだが、現在のラインナップ中では最もスポーツ性が高いモデルであるRS4を中心に、そのクルマの解説をしながら、もてぎフルコースを走った「アウディハイパフォーマンスモデル」のインプレッションをお伝えしよう。

控えめに見えるが随所に手が入ったRS4

RS4はアウディAGの100%子会社であるクワトロGmbHでプロデュースされる。製造工場はかつて「NSU」の本拠地だったネッカーズルムである。ノーマルのA4と異なる様々なパーツはこの地で組み付けられ、最終の仕上げまで行われる。なお、ここでの工程は、すべてベテランのテクニシャンによる丁寧な手作業である。

ところで、RS4のエクステリアは、中に秘めた「超高性能」をストレートに表しているほどエキサイティングなものだとはいえないかもしれない。255/35ZR19 98Y(試乗車の装着タイヤはピレリ製のPゼロロッソ)というファットなタイヤを、フロントは40mm、リアは55mmもトレッドを広げて履いているから、それをカバーするための幅広い大きなフェンダーが必要になっている。

しかしこれは見た目のためにオーバーフェンダーを付けることが目的なのではなく、あくまでもタイヤを収めるためなので、さりげなく(といっても、相当に目立つが)膨らんでいる。この「控えめさ」が、アウディなのだ。

これによってもちろん車体寸法も変わっている。ノーマルのA4セダンは全長×全幅×全高が4585×1770×1430mmなのに対して、RS4では4585×1830×1420mmとなっている。フェンダーの違いによって、標準ボディと比較して片側30mmずつ、合計で60mmワイドになったのがわかる。

そのフェンダーからのラインに合わせて幅広くされたサイドシルカバー、そしてそのラインにつながるようフロントのスカートも改めてデザインされているから外観的な迫力はそれなりにある。しかしそれはあくまでもエレガントさを保ったものであり、けっして獰猛さを演出したものではない。

RS4の心臓は、コンパクトなV8の4.2L FSI、つまり自然吸気のガソリン直噴エンジンである。このFSIテクノロジーはそもそもアウディが先鞭をつけたものであり、さらにはル・マン24時間レースに参戦して5勝という見事な成績を挙げたレーシングカー「R8」に採用されたことで、優れた燃焼効率とパワーとレスポンスのアップというその効果を広く知らしめた。ある意味では、サーキットで鍛えられたということもできる、最先端の燃料噴射技術なのである。

最大トルクは430Nm/5500rpm、最高出力420ps/7800rpmを発揮する。まずこのデータを見ると、かなりの高回転型エンジンに見える。確かにアウディにしては珍しいほど高回転型なのだが、2250~7600rpmまでの広い範囲で最大トルクの90%を発生することができるというから、扱いにくいピーキーなエンジンではない。

これに組み合わされるのは、マニュアルトランスミッションのみで、2ペダル式のトランスミッションは設定されていない。リバースはプッシュして左上、1速が左上の6速MTである。

RS4という刻印を備えた本格的な「RSバケットシート」に身体を収める。ショルダーサポートまで備えている、これは、そのままサーキット走行用にもなる。それを見越して、フルハーネス型シートベルトにも対応できるよう、両肩の部分には穴が開けてある。軽量で薄手のシートだが剛性は高く、ユラユラと動くことはない。調整範囲は広く、スライド/リクライニングは当然ながら、ランバーサポート、横方向の腰のサポートも調整できる。

ハンドルもレーシングカー並みのフラットボトムタイプ(5時から7時のところが直線になっている)。アクセル、ブレーキ、クラッチのペダル類とフットレストは頑強な構造のアルミニウム製である。

クルマに乗り込むと、本物のアスリートだということを実感するし、走る前からそのパフォーマンスを予見できそうな気にさせる。インテリアで目に見えるところの素材は、レザー、アルミニウム、カーボンで統一され、アウディが得意とするその仕上げの良さは、さらに磨きが掛けられている。

画像: RS4の日本での2006年年内販売台数つまり輸入台数は、RS4アバントも合わせて100台を予定。

RS4の日本での2006年年内販売台数つまり輸入台数は、RS4アバントも合わせて100台を予定。

平然としていることがクワトロ流のマジック

エンジンを掛けるときには「儀式」が必要だ。右手でイグニッションキーを捻りONにするところまでは同じだが、センターコンソール上にあるスタータースイッチを押すことで始動する。

試乗したRS4は右ハンドルだったので、右手でイグニッションONにして、左手でスターターボタンという素早い操作が可能だった。左ハンドルの場合には、両方を右手でやらなければいけない。

エンジンが掛かってアイドリングすると、力強いがそれなりに大きな音が聞こえる。それでも下品な音ではない。

ギアを1速に入れて、クラッチをつなぎながらアクセルを踏み込んで行くと、スムーズに発進できる。4.2Lの太い低速トルクとドライブトレーンの剛性の高さによって、クラッチをスムーズにつなぎエンジンのトルクをスムーズに伝えることができるからだ。ドライバーの予想通りにクラッチがつながってくれるので、余計にアクセルを踏まなくてもいい。気を使わなくて済むぶん、発進がとても楽である。

まずはゆっくり走ってみる。ピットロードを加速して、本コースに合流。右ターンの第1コーナーへと向かう。2速、3速とシフトアップしていくときに、ボディ、サスペンション、ドライブトレーンがしっかりしているのがわかる。とてもダイレクトな感触なのに、スムーズに運転できるのが良かった。これなら日常の足として使うときにも不満がでないどころか、十分に満足できる。

S字があるフォレストコーナーあたりから、アクセルペダルを深く踏み込んでみる。8000rpmからレッドゾーンが始まるタコメーターの針は、8250rpmまで引っ張ることができる。ここで燃料カットだ。どこかにトルクのピークを感じることもないが、8000rpm付近でも急激に力が落ち込むこともない。

ただ、こうして書いているだけだと、あまり凄い加速をしているようには伝わらないだろう。だが、2速で110km/h、3速では160km/hまで引っ張れる。さらに4速でも、衰えることなくグイグイ引っ張っていってくれる。だが「サーキット」というシチュエーションにおいては、ドライバーにとって肩に力が入るような加速感ではないのだ。しかし310km/hまで刻まれたスピードメーターの針を改めて見てみると、ものすごく速く走っていることを実感できる。

そう、これこそがクワトロのマジックなのだ。いくら急激にアクセルペダルを床まで踏み込んでも、タイヤがスキール音を立てて加速するわけでもなく、サスペンションが暴れるわけでもなく、車体が振られるわけでもない。RS4はアクセル全開でも、まったく「平穏に」加速をしていくのである。

キャビンの中ではいたって平和だから、ハラハラするようなスピード感もないし、ドキドキするような加速感もないのである。

しかしブレーキはしっかりしているから、安心していい。ディスクローターはクロスドリルド型ベンチレーテッドタイプで放熱性はいい。さらに、鋳鉄製のディスク部がアルミニウム製のブレーキディスクカバーにボルトで固定されるフローティングアレンジメントを採用している。

これは軽量化だけでなく、耐フェード性が向上し、ディスク温度が高くなった場合でも熱による変形の影響を受けにくいのがメリットだ。

フロント用キャリパーは対向式の8ピストン型で、片側に2枚ずつ(フロント両輪では合計8枚)パッドを配置している。フロントにはエアインテーク用のスクープもあるし、停まっているRS4の凝った造りの前後ブレーキを見ているだけでも、しばらくは時間をつぶすことができるほどだ。

ブレーキング、ターンイン、コーナリング、アクセルというカーブでの一連の流れの中で、車体の姿勢変化が小さいのもRS4の特徴だ。これはサーキットでもDRCの効果が出ている証拠である。DRCは、一般道では乗り心地を良くしてハンドリング性能も向上させることができるものだが、サーキットにおいてはグリップ力のアップが期待できる。スバッと速い操舵をしたときにも、リアのグリップが確保され安定性を保つことができるのである。

ESPは最新のバージョン8.0が組み込まれている。これは、基本となるASR(=トラクションコントロール)、ABSに加えて、EBD(エレクトロニック・ブレーキフォース・ディストリビューション)、雨天時にはパッドとディスクを軽く接触させておくことでブレーキシステムのコンディションを一定にさせておくブレーキディスクワイパー、EDS(エレクトロニック・デファレンシャルロック・システム)などのシステムを統合している。

サーキットをかなり攻めた走りをしても、無茶をしない限りESPが作動することはない。それだけグリップを失わないで走れるポテンシャルを持っている証拠でもある。

画像: 本国仕様のままのS6。この鮮やかなボディカラーも、とてもよく似合っていた。アバントが存在することも特徴だ。

本国仕様のままのS6。この鮮やかなボディカラーも、とてもよく似合っていた。アバントが存在することも特徴だ。

クルマの大きさを感じさせない走り味

クワトロシステムが新しくなった効用は、コーナーの出口で感じられる。S4などこれまでの50:50という前後トルク配分を基本とするモデルではアクセルペダルを踏み込んでいくとアンダーステアが強くなってしまうケースでも、40:60という前後トルク配分を基本とするシステムに変わったRS4は、クリッピングポイントの手前からアクセルペダルを深く踏み込むことができる。

フロントタイヤに対してトラクションを少なくすることで、コーナリングフォースをより大きく発揮できるようにしたわけだ。リアタイヤに対しては、トラクションを大きくしてコーナリングフォースをあまり大きくできないようにした。これらによってアクセルペダルを踏み込んだときの前後バランスは、アンダーステアが弱くなったのである。

センターデフは、プラネタリーギアによって前後のトルク配分をしている。さらに前後アクスルの回転差が大きくなると組み込まれているトルセンギア(RS4/S6/S8用はCタイプ)が働いて、差動を止めてくれる。このトルセンセンターデフによってリアには最大85%、フロントには最大65%のトルクを配分することができる構造になっている。

タイヤが空転するようなケースではEDSが作動して、空転しているタイヤにだけブレーキを掛けてくれる。またアンダーステアやオーバーステアが大きくなり過ぎた場合には4輪のブレーキ制御によってハンドルの向いている方向にクルマを向けてくれるから、サーキットでも安心して走れる。

ハンドル左側のスポークに付いたSボタン、これがまた面白い。走行中でも押すことが可能で、走りのプログラムを変えることができるものだ。まずアクセルペダルが敏感になり、ちょっとの踏み込みでも大きく吹け上がるようになる(これはレスポンスがシャープ過ぎてギクシャクしてしまうことがあった)。またテールパイプのエンド部にあるバルブも全開になり、エキゾーストノートがより迫力ある音になる。さらにバケットシートのサイドサポートがタイトに締まってくる。というようにRS4は、すべてを書けないほど細かいところまで手が入っている。

さて、S6とS8にも試乗することができたので、こちらも簡単にお伝えしよう。S6はV10エンジンを搭載しており、このことはS8と同じである。5.2Lから540Nm/3000〜4000rpm、435ps/6800rpmというトルクとパワーを発揮する。0→100km/hが5.2秒という数字は、サーキットの中でも感じることができる。つまり見た目のボディの大きさを感じることなく、加速することができるからだ。タイヤは前後とも265/35ZR1998Yのコンチネンタル製コンチ・スポーツコンタクト2を履いていた。

ESPは2段階のカットができる。ESPスイッチを1回押すと、トラクションコントロールだけをカットできるモードになる。3秒以上の長押しによってブレーキによる姿勢制御も行わなくなるESPのカットも可能だ。このときにもEDC、ABSの制御は残っている。この大きさのクルマでもドライバーが操る範囲を広くして、ドライビングを楽しんでもらおうという意図が見える。それがS6なのだ。

S8も同じようにクルマの大きさと重さを感じないで走れた。軽量なオールアルミボディを採用したA8がベースとなっているだけに、その効果はサーキットでも感じられた。基本的にS6と同じエンジンだが、こちらは540Nm/3500rpm、450ps)/7000rpmと少しパワーアップされいる。このパワーと軽いボディにより、4.3kg/psというパワーウエイトレシオを実現し、0→100km/hを5.1秒で走り切る実力を持つ。短いサーキット試乗とホットになり過ぎていたタイヤの空気圧によって、S6とS8はその真の実力を測ることはできなかったが、ぜひ一般道でも試してみたいと感じさせる、エレガントで速いクルマだということはよくわかった。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2006年9月号より)

画像: S8のサスペンションは、本国ではA8にオプション設定される「アダプティブエアサスペンションスポーツ」をベースとしたもの。切り返しの続く最終シケインを軽やかに抜けていく。

S8のサスペンションは、本国ではA8にオプション設定される「アダプティブエアサスペンションスポーツ」をベースとしたもの。切り返しの続く最終シケインを軽やかに抜けていく。

ヒットの法則

アウディRS4 主要諸元

●全長×全幅×全高:4585×1830×1420mm
●ホイールベース:2645mm
●車両重量:1730kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4163cc
●最高出力:420ps/7800rpm
●最大トルク:430Nm/5500rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:4WD
●車両価格:990万円(2006年)

アウディS6 主要諸元

●全長×全幅×全高:4916×1864×1449mm
●ホイールベース:2847mm
●車両重量:1910kg
●エンジン:V10DOHC
●排気量:5204cc
●最高出力:435ps/6800rpm
●最大トルク:540Nm/3000〜4000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:1245万円(2006年)

アウディS8 主要諸元

●全長×全幅×全高:5062×1894×1444mm
●ホイールベース:2944mm
●エンジン:V10DOHC
●排気量:5204cc
●最高出力:450ps/7000rpm
●最大トルク:540Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:1460万円(2006年)

This article is a sponsored article by
''.