2002年に登場した初代ボルボXC90は、3列シートSUVの後発もモデルだったが、予想を超えるヒット作となった。そして2006年には新開発の直6ユニットを搭載、またプレチャージ式の電子制御AWDシステムを採用するなど、さらに魅力を高めている。今回はスウェーデンで行われたこのXC90の国際試乗会の模様を、新開発直6ユニット搭載車を中心に振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年10月号より)

ボルボの人気ナンバーワンモデル

ボルボ車の内で、もっとも生産台数が多いのは何でしょう? 「多分1位はV50かS40、次にV70じゃない?」という答えが返ってきそうだ。しかしそれは誤り。今やボルボのナンバーワンモデルはSUVのXC90なのだ。

昨年2005年のXC90の生産台数は約9万台に急上昇。次いでV50(8.2万台)、S40(7.4万台)、V70(7.1万台)、S60(6.2万台)と続く。2005年のボルボカーズの総生産台数は約44万台だから、XC90の占める割合は20%。そのうちの約半数が北米エリアで販売される。SUVが年間300万台も売れる北米市場ではまだXC90のシェアは大きくはないが、あっという間に人気モデルとなってしまった。

その理由は案外シンプル。アメリカ人は乗りやすく、実用的でリーズナブル、スタイリングが好みならそのクルマをあれこれ迷わず買う国民性。それに加え、ボルボ=「安全のブランドイメージ」があれば鬼に金棒なのである。

XC90は北米市場で先行したポルシェ・カイエンやレンジローバーが目指す「ハイエンドSUV」のユーザー獲得を目的とはせず、日常性を重んじた堅実なモデルでユーザーを取り込む作戦に出た。

大排気量エンジンでブイブイ突っ走るのも気分がいいが、それよりもリラックスして安全・確実に目的地に向かうSUVというキャラクターを前面に打ち出した。これがボルボ流であり、アメリカ、ドイツ、日本の競合SUVとニュアンスの異なるところだ。

さてXC90だが、エンジンベイを直5、直6横置き用に設計したため、北米マーケットで当然要求の出るV8エンジンを搭載するにはスペース上の制約があった。ということは、PAGグループからの供給(例えばジャガーのV8)を受ける算段は開発時にはなかったのだろう。そこで日本のヤマハと共同開発したコンパクトサイズのV8エンジンを搭載しているのが興味深い。

画像: あくまで乗用車感覚の乗り味。着座位置が高く、とても見切りがいい。6速ATの恩恵で思いのほか機敏に走る。

あくまで乗用車感覚の乗り味。着座位置が高く、とても見切りがいい。6速ATの恩恵で思いのほか機敏に走る。

新しい直6自然吸気エンジンが今後のスタンダードに

話を2007年モデルのXC90に移そう。国際試乗会が行われたのはボルボの本拠地、スウェーデンのイエテボリ近郊。試乗車は直6の3.2LとなったXC90 3.2。このパワーユニットはボルボのフラッグシップサルーンであるS80に先行して搭載されたものだ。

こちらはヤマハとのコラボはなく、完全な自社製。非常にコンパクトなサイズに収まっているのが特徴で、俊敏なレスポンスと低燃費を謳う。これが従来の2.5L直5ターボ、2.9L直6ターボにとって代わる主力エンジンとなる。

つまりXC90にはガソリンターボ車は消滅(欧州市場用には直5ディーゼルターボが存在)する。トランスミッションは6速ギアトロニック機構付きAT、AWDシステムは適正に全輪にトルクを配分する電子制御ハルデックスカップリングを使ったオンデマンド方式だ。

2007年型XC90のエクステリアはクロームを多用した新しいフロントグリル、テールランプのデザイン変更で従来型より一段とアグレッシブな印象となり、インテリアもまた素材が吟味され質感が高まった。シートに腰を下ろすと思いのほか見切りがよく、全長4.8m、全幅1.9mのサイズを感じさせない。これはコクピットフォワード(車室の前方配置)デザインと高い着座位置の恩恵だ。

新しい直6エンジンを始動し走り出す。スウェーデンは高速道路が110km/h、一般道が70または90km/h、市内は50km/hに制限されている。車の流れる速度は日本と同じくらいだが、マナーは格段に上。高速道路や幹線道路で無茶なスピードですっ飛んで行くクルマはほとんどいない。せいぜいプラス10km/hくらいで淡々と走っている。そんな流れの中でXC90は流れをリードする走りを見せる。そして、なんといっても「直6の鼓動」がいい。

現在ではボルボ、BMW以外に乗用車用の直6をリリースしているメーカーはないが、直6のどこがいいのかといえば、その回り方のスムーズさ=気持ちがいいことにつきる。この新3.2Lエンジンはロングストロークながら意外と官能的で、6000rpm以上までしゃっきりと回る。6速ATをマニュアル操作するとあたかもスポーツセダン的な走りも可能だ。

山岳路の上り勾配ではさすがに2トンの車重がこたえて辛いシーンもあるが、山は登り坂だけではないから、強力なブレーキ性能を利して下り坂でV8の大パワー車に追いつけるという按配。このところポルシェ・カイエンやレンジローバー、ジープコマンダーなどに乗って身体が「大パワー&トルク依存症」になっていた私だが、3.2LのXC90に乗って、ああ、これくらいで丁度いいのかも、と納得したのであった。

2007年型XC90の日本導入は9月下旬の予定。3.2L搭載モデルはXC90(ベーシックモデル)とXC90 3.2(本革シート、バイキセノンランプなどを装備した豪華仕様)の2車種が用意され、2列シート(5人乗り)も従来通り選択が可能。価格はベーシックモデルの5人乗りで600万円を僅かに切るようだ。(文:御田昌輝/Motor Magazine 2006年10月号より)

画像: 従来の直5エンジンとほとんど同寸法(3mm長いだけ)の自然吸気3.2L直6エンジンは今後のボルボの主力パワーユニットとなる。乗用車用の直6はBMWとボルボのみとなった。

従来の直5エンジンとほとんど同寸法(3mm長いだけ)の自然吸気3.2L直6エンジンは今後のボルボの主力パワーユニットとなる。乗用車用の直6はBMWとボルボのみとなった。

ヒットの法則

ボルボ XC90 3.2 主要諸元

●全長×全幅×全高:4800×1900×1740mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:2046(5人乗りは1982)kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:3192cc
●最高出力:238ps/6200rpm
●最大トルク:320Nm/3200rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●0-100km/h加速:9.5秒
●最高速度:210km/h
※欧州仕様

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