2006年6月に日本導入が発表されたアウディS8、S6/S6アバントは、秋になりデリバリーが開始された。待ちに待ったV型10気筒エンジン搭載モデル、アウディの先進技術が惜しみなく注ぎ込まれた最新のSモデルはいったいどんな走りを見せたのか。Motor Magazine誌では2台のテストを行っているので、その模様をを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年12月号より)

タイヤの温度や空気圧をモニタリングできるS8

通常のカタログモデルでは満足できないユーザーに向けて、よりゴージャスでスポーティなモデルが存在する。これらのクルマをメルセデスベンツではAMG、BMWではM、アウディではSモデルと呼んでいる。最高のものを目指して特別に造られ、それぞれのメーカーが持てる先進技術の粋を集めたこれらのスペシャルモデルは、高いプライスタグに目を奪われがちだが、他では得られない価格以上の価値を見出すこともできる。

今回試乗したのはアウディSモデルのフラッグシップであるS8と、同じV型10気筒エンジンを搭載するS6アバント。この2台は以前、サーキットで走るチャンスがあったが、今回は一般道をじっくり乗ってそのインプレッションをお伝えすることにしよう。

ご存知のようにS8はA8をベースに造られているから、オールアルミ製のASF(アウディスペースフレーム)ボディも継承している。これはS6よりひと回り大きなボディを持つにもかかわらずS6アバントよりも車両重量(S8:2060kg、S6アバント:2080kg)が抑えられていることでも、その軽量化の効果が驚くべきものであることがわかる。

S8のエンジンは、ル・マンで優勝したアウディR8のFSI(直噴)技術を採用した5.2L V型10気筒である。450ps/7000rpm、540Nm/3000〜4000rpmというパワーとトルクを誇る。S6も基本的には同じエンジンだが、カタログ数値ではパワーが435ps/6800rpmと若干低くなっている。

エンジン縦置きなので、トランスミッションはその後方にレイアウトされ、センターデフを介してプロペラシャフトがまっすぐ後ろへ伸びて後輪を駆動する。前輪へはトランスミッションの前側にあるデファレンシャルギアで左右に分かれてドライブシャフトに伝達している。イニシャルでは40対60という前後非対称トルク配分で、フルタイム4WDによる安定性とコーナリング時の回頭性の両立を図る。さらにダイナミックトルク配分によりセンターデフを電子制御でコントロールして、どこかのタイヤが滑り始めたときには安定性とトラクションの確保に努めてくれる。これだけのパワーをもてあますことなく使えるのはこのクワトロシステムのおかげなのだ。

今回、S8が履いていたのはピレリPゼロ。サイズは265/35ZR20 99Yという超ファットタイヤだ。指定空気圧は前2.8/後2.6(高荷重では前3.0/後3.0)という高い設定だが、当りの硬さやポンポン跳ねることもなく乗り心地は快適だ。もちろんしっかりとしたグリップにより、正確なライントレースができる。

この快適性とハンドリング性能の両立には、スポーツ・アダプティブエアサスペンションも威力を発揮している。その名の通り通常のA8よりスポーティな味付けになっている。MMIでリフト、コンフォート、オートマチック、ダイナミックの4段階に切り替えができる。一般道をちょっと飛ばして走るにはオートマチックがちょうど良く、しっかりと締まった足で正確なハンドリング性能を確保しているのに硬いショックは伝えず揺れが少なく、どのスピード域でも安定していた。

MMIの中に4輪のタイヤの空気圧を同時に表示できる項目があるのはとても便利な機能だ。もちろんパンクして空気圧が低下した場合にも警告を出してくれるが、日常のチェックがこれで済む。このシステムが優れているのは各タイヤの温度も出ることだ。走行中に温度が高くなっていて空気圧が低くなっていたら、警告が出ていなくても空気漏れを起こしている可能性があるといったチェックもできるのだ。

フラッグシップらしくブレーキも最高級なセラミックブレーキを採用している。大きく分厚いディスクだが、たった5kgという軽量品なのだ。さらにスチールディスクの約4倍という耐久性がある。高速からのハードな制動でもローターやパッドが熱くなって制動感が変わるということはない。

ただし市街地走行中の制動感はときどき変化することがある。もちろん踏めば効くのだが立ち上がりの鈍さみたいなものだ。

これは試乗したクルマがまったくの新車だったせいもあるかもしれないが、2度踏みすることでこれが防げた。一度パッドが擦れるくらい軽く踏んでから、もう一度踏むと本格的制動に入りつつつもスムーズでいい効きを味わえる。

画像: 「アウディ S8」。Sモデルはアウディ伝統のハイパフォーマンスモデルであり、S8はその中でトップエンドとして存在する。

「アウディ S8」。Sモデルはアウディ伝統のハイパフォーマンスモデルであり、S8はその中でトップエンドとして存在する。

走る距離が短く感じる走行フィールと室内装備

S8とS6を交互に乗り換えて試乗していくと両者の違いがよくわかった。S8がラグジュアリーなのにスポーティであるのに対して、S6はスーティなのにラグジュアリーという印象だ。S8の方が豪華さと快適性が最高レベルに引き上げられている印象だ。S6はS8よりダイレクトなハンドリング性能を味わうことができる。それを補うために、S8にはサスペンションのダイナミックモードがあるのかもしれない。

ラグジュアリーと感じるのは本革とカーボンを贅沢に使った豪華なインテリアだけではなく、走っているフィーリングとして贅沢さを感じるのだ。

ちょっと遠くで聞こえるエンジン音はパドルシフトで回転を上げることによってより刺激的にできるし、6速でクルージングすれば静かな室内環境で最上のオーディオエンターテイメントを楽しむことができる。S6にはBOSEが、S8にはバング&オルフセンが標準装備されている。

S8もS6も長距離ドライブには最適なクルマだ。ドライブする距離が短くなるクルマなのだ。最初はS6に乗り、東京を出て中央高速で西に向かうと、途中で「名古屋まで324km」という案内標識が出たが、このまま気軽に行けそうだなと思ったほどだ。

S8、S6に乗っていると日本の高速道路の法定速度が100km/hなのが残念に思う。早く第二東名ができてアウトバーンの推奨スピードくらいで走りたいものだ。そうなればこのクルマなら名古屋はもっと近くなる。

S6のスピードメーターは、300km/hまで刻まれている。しかし100km/hがメーターの頂点になっているから、日常の確認はしやすい。左半分は100km/h分の表示で右半分は目盛りが細かくなって200km/h分を表示しているのだ。針が少し右に傾いている程度でも、予想より多くのスピードが出ているから気をつけなくてはいけない。

S6とS8はともに操舵力は軽めである。しかし軽いことと手応えがないことは別で、しっかりとダイレクトな感覚でドライビングできるのがアウディなのだ。Sモデルになってもハンドルを重くしないところも先進のアウディらしい。オフィシャルの場でも恥ずかしくない控えめなデザインに知性を感じるクルマ、それがSモデルだ。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2006年12月号より)

画像: 「アウディ S6アバント」。LEDポジショニングランプはS6専用装備。クワトロシステムは新世代の40:60トルクスプリットタイプを採用した。

「アウディ S6アバント」。LEDポジショニングランプはS6専用装備。クワトロシステムは新世代の40:60トルクスプリットタイプを採用した。

ヒットの法則

アウディ S8 主要諸元

●全長×全幅×全高:5055×1895×1430mm
●ホイールベース:2945mm
●車両重量:2060kg
●エンジン:V10DOHC
●排気量:5204cc
●最高出力:450ps/7000rpm
●最大トルク:540Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT(ティプトロ)
●駆動方式:4WD
●車両価格:1460万円(2006年)

アウディ S6アバント 主要諸元

●全長×全幅×全高:4935×1865×1455mm
●ホイールベース:2845mm
●車両重量:2080kg
●エンジン:V10DOHC
●排気量:5204cc
●最高出力:435ps/6800rpm
●最大トルク:540Nm/3500-4000rpm
●トランスミッション:6速AT(ティプトロ)
●駆動方式:4WD
●車両価格:1271万円(2006年)

This article is a sponsored article by
''.