大胆なデザインでサルーン&ステーションワゴンの概念をすべて変える。そんなコンセプトで登場したプジョーのフラッグシップモデルとなる508&508 SW。果たしてその真価はどこにあるのか、両車に乗り比べて検証してみた。(Motor Magazine 2020年7月号より)

新コンセプトを採り入れオーソドックスなセダンから脱却

2010年代前半あたりまでは、フランスの各メーカーも大、中、小のセダンをキッチリ揃えていた。伝統や格式よりも実用性や使いやすさを重視するフランス人の気質もあってか、一部には4ドアセダンではなく大型の5ドアハッチバックなども見かけられたが、ともかくサルーンのラインナップは比較的充実していたのだ。しかし近年ミドルクラス以上のセダンは、どのフレンチブランドでも整理/統合が進んでいる。

たとえばルノーは、15年にDセグメント相当のラグナとEセグメント相当となるラティチュードの生産を中止。後継のタリスマンは右ハンドル仕様がないため、日本には入っていない。

シトロエンも以前はC5やc6といったミドルクラス以上のサルーンを展開していたが、今は存在しない。このブランドは軸足をSUVに移している。そんな中、シトロエンから独立したDSブランドから、初の大型セダンとなるDS9が登場したのが、フレンチサルーン市場では久々の明るいニュースと言える。

ではPSAの最大勢力であるプジョーはどうか。このブランドも10年代序盤まではDセグ相当の407、Eセグ担当の607と相応に魅力のあるセダンを揃えていた。しかし11年に登場した初代508によって両モデルを統合。

プジョーも販売の軸足はSUV系の2008、3008、5008に移っているよう。フレンチブランドのミドルサイズ以上のセダン、ワゴンは、モデル数を増やしてもそれに見合ったセールスの伸びが難しい状況のようだ。そんな硬直状態を打破すべく、先代にして初代の508から大変身して年3月に代目が本格上陸を開始した。

画像: サルーンの概念を変える4ドアファストバックフォルムを採用。

サルーンの概念を変える4ドアファストバックフォルムを採用。

このクルマの最大の特徴はスタイリングデザインにある。全長4750×全幅1860mmに対して全高は1420mmと、まずはプロポーション自体がセダンとしては相当にロー&ワイドだ。

ハイライトは、傾斜の強いフロントガラスから滑らかにつながるルーフラインがピラーを過ぎたあたりで頂点を極め、そこからテールエンドに向けてなだらかに引き下ろされるファストバックスタイルとなっていること。ちなみにドアはすべてサッシュレス。このことも含めて表現したかったのは、当世流行りの4ドアクーペというところにあると思う。

プジョーはこのボディ形態を「4ドアファストバック」と表現しているが、厳密にはテールエンドはトランクリッドではなくハッチゲートなので、分類上は5ドアハッチバックだが、とはいえ、その利便性の高さからアッパーミドル以上に5ドアの手法を持ち込むのはフランス車が昔から得意とするところ。

最近はアウディのスポーツバックや、BMWのグランクーペなど、ドイツ車にも5ドア化したモデルは多い。これまでノッチバックセダンという形態を頑なに守り通して来たプジョーだが、まさに心機一転というところなのだろう。

デザインではこの他に、ヘッドライト端からスポイラーに向かって牙のように垂直に引き下ろされるデイタイムドライビングライトや、ライオンの爪痕をモチーフにしたという3本のラインが浮かび上がるリアコンビランプなど、精悍さを強調したアグレッシブな演出が目立つ。この辺からもオーソドックスなセダンからの脱却を目指した開発陣の意気込みが伝わって来るようだ。

画像: Bピラーから滑らかに下りるルーフラインがこのクルマの美しさを象徴する。

Bピラーから滑らかに下りるルーフラインがこのクルマの美しさを象徴する。

ワゴンもデザイン性重視も実用性を損なっていない

この4ドアファストバックに遅れること3カ月、ワゴンの508SWが登場した。先代モデルでは販売数の65%を占めたという人気のボディ形態。ただ、ベースとなるセダンがファストバックへと大胆な路線変更を行ったので、機能性が重視されるSWが果たしてどう折り合いを付けているのかには興味があった。

結論を言えば、SWもデザインの方向性はファストバックと同じだ。もちろんファストバックとはならないが、ルーフラインをピラー後方からなだらかに落とし込んで、傾斜を強めたリアウインドウにつなげることで軽快なスポーツワゴンに仕上げてある。ボディサイズは全幅/全高/ホイールベースはファストバックと同一で、全長のみ長い4790mm。ワゴンとしてはボディ後半の絞り込みが強いため、長さ方向に余裕を持たせてラゲッジルーム容積を確保したということだろう。

しかしそのような工夫をしても、定員乗車状態の荷室容量は先代の560Lに対して530Lと若干少なくなっている。ただ、リアシートを床下にフラットに収納するようになったため、後席をすべて倒した時の最大容積は先代の1598Lに対して1780Lと、182Lも大きくなった。このあたりはさすが実用性を重んじるフランス車だ。なおSWの荷室にはラゲッジフックレール、セパレーションネットやトノカバーが完備されていた。

ちなみにファストバックの荷室容量は487~1537L。こちらもやはり後席を折り畳んだ時の大容量ぶりが特徴だ。ベースモデルのアリュールを除き、どちらにも指先で操作可能な電動テールゲートが標準装備となっている。

画像: ファストバック同様に軽快さを感じる流麗なフォルムだ。

ファストバック同様に軽快さを感じる流麗なフォルムだ。

インテリアに目を移そう。ドライバーを中心としてセンターディスプレイやメーター類が整然と配置されるコクピットはなかなかにスタイリッシュで質感も高い。ただし使い勝手という点では気になる点もある。508も最近のプジョーの例に漏れず、高い位置に置いたメーターパネルを、小径/異形のハンドル外側で視認する「i-Cockpit」を採用しているのだが、これが僕にはなかなか馴染めない。

ハンドルが小さいため頻繁な操作では腕がこんがらがりそうな感覚を覚えることがあるし、僕個人のドライビングポジションでは、ハンドルを相当下にセットしたつもりでも、メーター下側にまだ見えない部分が発生して視認性が妨げられる。今後の熟成に期待したい。

後部の居住空間は、セダンはピラーが極端に低く前傾しているため、乗降時の頭入れに注意する必要がある。乗り込むと、ルーフはかなり低め。ライニングを大きく抉り込んでいるためヘッドクリアランスは足りているものの、ピラーが低く窓面積も小さいため後席では閉塞感がそれなりにある。

その点、ルーフラインを極端に落とし込んでいないSWは、乗降時に気を使うこともないし、乗り込んでも頭上周りに余裕があり、雰囲気も開放的だ。積載性という観点だけでなく、後席の使用頻度が高いユーザーにもSWはお勧めのボディ形態と言えそうである。

なお、今回の試乗車は共にフルパッケージオプション装着車だったので豪華なステッチのナッパレザーシートなどインテリアは非常に豪華。このオプションには他にナイトビジョン(暗視カメラ)やフルパークアシストなども含まれるという非常に充実した内容だ。

標準装備のアイテムも508は非常に豊富だ。とくにADASは充実しており、第二世代となったアクティブセーフティブレーキでは二輪車や夜間の検出精度を向上させているし、ACCには自動追従機能も実現している。また足まわりでは、減衰力を連続可変制御するアクティブサスペンションが全車に標準装備となるものニュースと言える。

画像: プジョー「i-Cockpit」をさらに発展させ洗練された新世代のものに進化。コンパクトなオーバル形状のステアリングホイール、8インチタッチスクリーン、12.3インチデジタルヘッドアップディスプレイを採用。

プジョー「i-Cockpit」をさらに発展させ洗練された新世代のものに進化。コンパクトなオーバル形状のステアリングホイール、8インチタッチスクリーン、12.3インチデジタルヘッドアップディスプレイを採用。

アクティブサスの完成度高く抜群のフットワークを披露

現状では508専用となるこのアイテムの恩恵もあるのだろう。そのフットワークは端的に言って素晴らしい。ハンドルを切り込むとロール方向にはそれなりに大きなアクションを許容するものの、旋回姿勢が決まったところでロールの進行はピタリと収束し、後はギャップなどからの入力を徹底的に吸収し、吸い付くような接地感を味わわせる。

基本的にソフトな味付けで、ドライブモードを「スポーツ」にセットしてもその乗り心地は十分に優しい。個人的にバランスがもっとも良いと感じたのは「ノーマル」モードで、速度が高まってもしなやかな乗り味をキープしつつ、姿勢はフラットでスタビリティも高い。通常はこのモードですべてが事足りる。

さて、508が搭載するエンジンはファストバック/ワゴン共通で、1.6Lのガソリン直噴ターボと、Blue HDiと呼ばれる2Lディーゼルターボが用意されている。ちなみにスペックはガソリンが180ps/250Nmで、ディーゼルは177ps/400Nm。今回はワゴンのSWがGTラインというグレードでガソリンターボ、セダンがGTグレードでディーゼルターボという組み合わせでの乗り比べとなった。

画像: 全車にプジョーでは初となる電子制御アクティブサスペンションを採用。走行状況、路面に応じてダンパーの減衰力をリアルタイムに制御し、乗り心地とハンドリングを高次元で両立している。

全車にプジョーでは初となる電子制御アクティブサスペンションを採用。走行状況、路面に応じてダンパーの減衰力をリアルタイムに制御し、乗り心地とハンドリングを高次元で両立している。

さすがに400Nmという大トルクを持つディーゼルの走りは豪快だ。アクセルペダルに軽く力を込めただけでグイグイと前に出て行く。レブリミットはディーゼルとしては高めの5000rpmで、その手前まで直線的に吹け上がる伸びの良さも併せ持っている。車外で聞くアイドリング時のディーゼルノックはそこそこ大きく感じられたが、実用域では静かで滑らかと評価できるエンジンである。

ただ、このディーゼルユニットは重量がかなりあるようで、同型のボディに1.6ガソリンを積んだモデルより120kg近く重い。しかもそれがフロントに集中しているため、ハンドリングはやや反応が鈍く、立ちの強い味わいとなっていた。

一方SWのGTラインで試したガソリンの1.6Lターボは、ディーゼルほどのトルクはないものの、発生回転数が1650rpmと低いこともあって、こちらもその走りは十分軽快に感じられた。比べれば高回転域を多用するシーンは多いものの、回転フィール自体が爽快だし、何よりも鼻先が軽くキビキビと曲がる様が楽しい。SWの場合、積載による荷重変化があるのでディーゼルの大トルクは頼もしいが、普通使いにはガソリンで十分だと感じられた。

残るはボディの選択だが、後席の乗降性や閉塞感を差し引いても、個人的には4ドアファストバックを推したい。新型508の最大の魅力は、従来のセダンフォルムに決別した、この斬新なスタイリングにこそあると思うからである。(文:石川芳雄)

画像: ファストバックとステーションワゴンには、それぞれ2L直4ディーゼルターボ(BlueHDi・写真左)と1.6L直4ガソリンターボ(右)を設定。

ファストバックとステーションワゴンには、それぞれ2L直4ディーゼルターボ(BlueHDi・写真左)と1.6L直4ガソリンターボ(右)を設定。

■プジョー508GT BlueHDi主要諸元

●全長×全幅×全高=4750×1860×1420mm
●ホイールベース=2800mm
●車両重量=1630kg
●エンジン= 直4DOHCディーゼルターボ
●総排気量=1997cc
●最高出力=177ps/3750rpm
●最大トルク=400Nm/2000rpm
●駆動方式=FF
●トランスミッション=8速AT
●車両価格(税込)=501万1000円

■プジョー508SW GTライン主要諸元

●全長×全幅×全高=4790×1860×1420mm
●ホイールベース=2800mm
●車両重量=1550kg
●エンジン= 直4DOHCターボ
●総排気量=1598cc
●最高出力=180ps/5500rpm
●最大トルク=250Nm/1650rpm
●駆動方式=FF
●トランスミッション=8速AT
●車両価格(税込)=493万円

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