2007年1月、8年ぶりにフルモデルチェンジされたボルボのフラッグシップサルーン「S80」が日本上陸を果たしている。独プレミアム勢が幅をきかせる激戦区にあって、このボルボS80はどんな個性を発揮していたのか。長崎で開催された試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年3月号より)

リラックスした気分と走ることの楽しさが共存

そのボディは、全長4850mm/全幅1860mmという諸元値から想像されるよりも、ひとまわりコンパクトに思えた。前後がギュッと絞り込まれていること、そしてオーバーハングの短いことが効いている。運転席に座ってみても、四隅の感覚がつかみやすいので、ボディの取り回しが苦になりそうには感じられない。

室内は、ゆったりとした印象に満ちている。北欧の崖や屋根の上に積もった雪の庇の形をモチーフにしたという、ダッシュボード上面のフローティングパッドが描くゆるやかな曲面。長方形のコーナー部分のカドを取って丸く仕上げられたインストルメントパネル。大ぶりだが身体との馴染み具合もいいシート。優しい感触に包まれる。

ダッシュボードのセンター部分から後方へと続く、センターコンソール上面に設けられた「フリーフローティングセンタースタック」も、ふわりとした開放感を室内にもたらしている。

各部の操作方法もわかりやすく、ボルボらしい整然さでまとめられている。とはいえ、ドイツ車の「整然さ」とは少し異なる、もう少しリラックスした感じだ。車内空間の余裕も、「心地よい広さ」という表現がふさわしい。

まずはS80 3.2に乗る。用意されていたのはFFモデル。風光明媚な大村湾沿いにあるホテルをスタートして、佐世保方面へと進路を北に取る。片側一車線の国道だが、見切りがいいのでボディの大きさは気にならない。

ちょっと、張りのある乗り心地だ。路面はやや荒れ気味ではあるものの、その荒れ具合をうまく吸収しきれていない感じで伝わってくる感触だ。装着されているタイヤサイズは225/50R17、もう少ししなやかであってもいいのに、という印象だ。

エンジンはやはり直列6気筒だけあって、これまでの直列5気筒エンジンとは異なる滑らかさとともに、スルスルと回転を上げていく。アイシンAW製の6速ATの変速もスムーズだ。ちょっとしたエンジンブレーキが欲しいときなどには、ステアリングから手を離さないで操作できるパドルシフトがあればもっといいのに、とも感じる。

ステアリングフィールも含めて、その走り味は実にしっかりとしている。そして、期待を越えるスポーティさも備えていた。試乗の途中でミスコースしてしまい、結果としてタイトなワインディングロードを延々と走る場面があった。しかし、そのような場面での運転もまったく苦にならなかった。

さらに、そのセクションを走行中に、ある段階から、足まわりの動きが滑らかになった。最初の乗り出し時に感じられた足まわりの「張り」が消えたのだ。おそらく、まだ残っていた新車直後の初期フリクションがワインディングでの走行によって馴染み、S80 3.2本来の乗り味に近づいたのだろう。軽快な印象と滑らかさが両立された、独自の魅力的な乗り味だと感じた。

いったんホテルに戻ってから、今度はV8モデルへ乗り換える。こちらは4WDで、車重も1880kgと3.2より180kg重いせいもあるのか、最初からしっとりとした味わいがある。タイヤサイズは245/40R18だ。

排気音はもちろんV8ならではのサウンドだが、アメリカ市場を重視したモデルに多い「迫力ある低域が効いた音」とはやや異なった、どちらかといえば中高音よりのノートである。プレスカンファレンスの際に「ヨーロピアンV8サウンド」と言っていたのはこのことだったのかと理解できた。

4.4Lなら当然の力強さで、3.2モデルよりも明確に分厚い加速が味わえる。今度は北ではなく長崎市内へと向かうことにしたので、一般道と高速道路を利用して南西へと向かう。

高速巡航が楽なだけでなく、渋滞路でのゴー・ストップの繰り返しも、アクセルペダルをほんの少し踏むだけで素直にスーッと動いてくれるので、運転が楽だ。4WDであるということは特に意識させられなかったが、フロントにV8エンジンを横置きするFFベースの4WDモデルというイメージら想像するよりも、ずっと素直な走り味だ。新開発プラットフォームだけあって、そのパフォーマンスの懐は深い。

V8モデルは、ショックアブソーバーの設定値などをコンフォート/スポーツ/アドバンスドの3種類に設定できる「FOUR-C」機構を備えるが、これはスポーツに設定しているときが滑らかでもっとも気持ちよかった。S80 3.2は落ち着きの中にある軽快さが魅力だと感じたし、V8は大いなる安心感が何よりのアピールポイントだ。

Eクラス、5シリーズ、A6という強力な布陣に対して、このニューS80にはボルボでしか味わえないリラックス感がある。内外ともに、自我を主張しすぎないデザインも心地よい。さまざまな経験を積んだ人こそ、この価値をよりよく理解できるのだろう。(文:香高和仁/Motor Magazine 2007年3月号より)

画像: S80 3.2。リアスタイルは控え目だが、しっかりと「ボルボ」だとわかるデザインだ。

S80 3.2。リアスタイルは控え目だが、しっかりと「ボルボ」だとわかるデザインだ。

ヒットの法則

ボルボ S80 3.2 主要諸元

●全長×全幅×全高:4850×1860×1495mm
●ホイールベース:2835mm
●車両重量:1700kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:3192cc
●最高出力:238ps/6200rpm
●最大トルク:320Nm/3200rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:640万円(2007年)

ボルボ S80 V8 AWD 主要諸元

●全長×全幅×全高:4850×1860×1495mm
●ホイールベース:2835mm
●車両重量:1880kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4413cc
●最高出力:315ps/5950rpm
●最大トルク:440Nm/3950rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:840万円(2007年)

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