2006年秋に日産キャシュカイが欧州で公開されて話題となった。デザインと開発、生産をイギリスで行うCセグメント世界戦略車だが、その後、日本でも販売されることが決定。さっそくMotor Magazine誌はスペイン・バルセロナで試乗テストを行っている。今回はその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年4月号より)

穏やかな乗り心地と安定感のある身のこなしを見事に両立

キャシュカイは2004年のジュネーブショーにコンセプトモデルが展示され、昨年2006年秋のパリサロンで生産型が初お披露目されたブランニューのSUV。全長4315mm×全幅1783mm×全高1606mmのボディはすでに世界展開されているエクストレイルに近いが、キャシュカイの風貌はやや背の高い5ドアハッチバックといった感じで、エクストレイルのオフロード車然とした雰囲気とはかなり趣きが異なる。

ところでこのキャシュカイ、基本設計の開発は日本だが、デザインや車両開発、それに生産はヨーロッパで行う。これは日産にとって初の試みで、それほどに気合いの入った欧州戦略車と言える。現在の日産は欧州市場でこれといった強力な乗用車を持っていない。そんな中で存在感を出しているのがエクストレイルやパスファインダーといったSUVだ。彼の地での日産は4WDに強いメーカーというイメージなのだ.。

そこで、ゴルフやルーテシアといった強力なライバルがひしめくCセグメントにSUV風味を持ち込むことを考えた。それがキャシュカイ。このハッチバックとSUVのクロスオーバー車はラインアップの幅を拡げるモデルではなく、Cセグメントの主力車種という位置づけにある。

ポジショニングの話はこのくらいにして走り出そう。メインで試乗したのは2LガソリンのFFモデル。搭載されるのは日本で生産されるMR20DEだ。4WDももちろんあるが、これはエクストレイルと同じオールモード4×4。メカニズム的には特に新しいニュースは少ない。

だが走り出すと、その懐の深い乗り味に感心した。背が高いクルマでオンロードに重きを置いたセッティングにもかかわらず、当たりのマイルドな乗り心地が嬉しい。しかしもちろん単にソフトというわけではなく、フラットな姿勢を高い速度域まで維持する重厚でしなやかな乗り味だ。

ハンドリングはステアリングのロックtoロックが3.2回転とややスローなこともあって、さほどキビキビとした印象はないが、さりとてSUVチックな重々しさとも無縁で、狙ったラインをピタリとトレースできる。それでいて旋回中の姿勢も極めてフラット。穏やかな乗り心地と、この安定感のある身のこなしの両立は見事だ。

使われるCプラットフォームは、ルノーメガーヌの流れを汲み、国内ではラフェスタやセレナにも用いられている。キャシュカイはそれを欧州で煮詰めたわけだが、チューニング次第で、これほど乗り味に奥行きが出るのかとしばし感心してしまった。

一方、パワーフィールにはさほどパンチはなくフラットトルクなため、車速はスルスルと伸びていく。今回の試乗車はすべて6速MTで頻繁なシフトチェンジを強いられたことが、やや煩雑にも感じられたが、動力性能自体に不足はない。それにエンジンやロードノイズ、風切り音など走行中の様々な雑音が抑えられているのも好印象だ。

画像: ボディの下まわりを黒いパネルが一周しているあたりがSUV的といえる。ただし、後ろにいくにつれて下がるルーフとキックアップするショルダーラインでハッチバックの軽快さも合わせ持つエクステリア。

ボディの下まわりを黒いパネルが一周しているあたりがSUV的といえる。ただし、後ろにいくにつれて下がるルーフとキックアップするショルダーラインでハッチバックの軽快さも合わせ持つエクステリア。

居心地がよく実用性も高いキャビン

キャビンは、オプションの全面ガラス張りのパノラミックルーフ装着車であったこともあり、明るく開放的。コクピットは左右個別の温度調節が可能なエアコンパネル、2DINサイズのナビ/オーディオパネル、丸い空調アウトレット、最上段の固定式ナビモニターと機能を積み上げた縦基調のセンターコンソールにボリュームがあるため包まれ感が強いが、助手席はダッシュボードが滑らかな曲面を描いているせいで広々としている。

後席は全幅方向にゆったり。足元空間はまあまあのレベルだが、座面が高く深さがあるため居心地は良い。ちなみにリアシートはバックレストのみ左右7:3で分割可倒するシングルフォールドタイプを採用している。ラゲッジルーム容量は定員乗車で410L、シートを畳めばフロアに若干の段差は残るが最大1515Lとなり実用性もけっこう高い。

以上がスペインでチェックしたキャシュカイの実力だが、日産は北米向けには同じプラットフォームを使い、サイズもエンジンもやや大きくしたデトロイトショーデビューの「ローグ」をスタンバイさせている。仕向地別にクルマを作り分ける体制を固めつつあるわけだが、そこで出てくるのが「日本はどうなるの」という疑問だろう。

実はキャシュカイは5月に海を越えて日本にやって来る。足まわりの設定は欧州仕様のまま、エンジンは今回試したMR20DEで、トランスミッションは6速マニュアルモードを持たせたエクストロニックCVTとなる模様。このCVTは6速MTより燃費に優れ、セッティングも日本での使われ方を考え、よりキビキビした味付けになるというから大いに期待したい。

ただし、日本導入モデルはデュアリスという独自名となる。イランの遊牧民族を意味するキャシュカイは、耳に新しく日本でもインパクトがありそうだが、「現金」を想像させる響きから採用を見送ったとか。この点は少々残念な気がしないでもない。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2007年4月号より)

画像: ナビモニターを上部中心に据え、オーディオスイッチ、エアコンスイッチが縦に並ぶセンターコンソール。各スイッチの操作性も高い。

ナビモニターを上部中心に据え、オーディオスイッチ、エアコンスイッチが縦に並ぶセンターコンソール。各スイッチの操作性も高い。

ヒットの法則

日産 キャシュカイ2.0 主要諸元

●全長×全幅×全高:4315×1783×1606mm
●ホイールベース:2631mm
●車両重量:1378〜1459kg (EU)
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1997cc
●最高出力:140ps/6000rpm
●最大トルク:193Nm/4800rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
※欧州仕様

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