2007年、プジョー207の日本上陸により、Bセグメントのコンパクトカーに大きな注目が集まっていた。そこでMotor Magazine誌ではとくに小型車作りに長けたフランスとイタリアメーカーのコンパクトカーに着目して特別企画を組んでいる。プジョー207、ルノー ルーテシア、フィアット グランデプントの3台による比較試乗の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年5月号より)

格段に各所のクオリティが向上したプジョー207

フランス車とイタリア車を総称して「ラテン系」とか「イタフラ」なんて呼ぶのは個人的には好きじゃない。それはたとえば日韓で「東アジア系」なんて括らないでしょ、みたいな話。ともに明らかに異なる背景を持ち、違った哲学のもとでクルマ作りが行われているのだから、そう括るのは失礼と思うからである。

けれど、そうしたくなる気持ちがわからないわけではない。日本の輸入車市場でフランス車とイタリア車は率直なところ傍流である。しかし、そこに主流のドイツ車とは違う、両者共通の楽しさの匂いが漂っているのも、また確かなことだからだ。

傍流と書いたが、その情勢だって変化してきている。日本でのフランス車やイタリア車の存在感はこの10年余で飛躍的に高まった。プジョーの躍進が、その原動力となったことは疑う余地がないだろう。とりわけ206の大ヒットは、プジョーをメジャープレイヤーへと押し上げ、さらにはフランス車、イタリア車の勢力拡大の契機ともなった。

そして今、その流れは次のステージへと入ろうとしている。プジョー206が、いよいよ後継の207へとバトンタッチを果たしたのである。かつて206が席巻したこのセグメントは、今ではMINIとフォルクスワーゲン・ポロによって7割近くが占められている。その一方で、昨年ルノーは新型ルーテシアを登場させ、フィアットもグランデプントを導入。いずれも好評を博し、両ブランドは低迷する輸入車市場で、ともに販売を伸ばすこととなった。207の登場は、そんなマーケットをさらに刺激することになるはずだ。

そこで今回は最注目のプジョー207に、そのルーテシア、グランデプントを連れ出して、最新基準のフレンチ&イタリアンコンパクトの真価を探ることにした。果たしてそこには、彼の地のクルマに期待する歓びが息づいているだろうか?

すでにフランスで対面を済ませていたプジョー207だが、改めて日本の街中で見ると、その存在感は想像していた以上だ。スリーサイズは全長4030mm×全幅1720mm×全高1472mmで、206に対してそれぞれ195mm、80mm、30mm拡大しているのだから無理もない。

しかし、それ以上に207が人目を惹くのはスタイリングの強い個性のおかげだろう。206から始まった昨今のプジョー・モードはさらに進化。目つきは鋭くなりフロントの口もますます大きくなった。フォルムは肉感的で、特にリア側から見ると絞り込まれたキャビンとボリュームある腰まわりの対比が強烈だ。206の愛らしさに惹かれた人に、このグラマラスな姿がどう映るのか心配になってしまうほどである。

格段のクオリティアップも注目のポイントだ。外板の塗装の質も高いし、内装もチープだった206から一転、良いモノ感すら漂わせている。ダッシュ全面を覆うのはこれまで見たことのない質感のソフトパッド。試乗したGTではホワイトダイヤルの計器にクロームリングまで備わり、スポーツシートもハーフレザータイプとされる。

運転環境の良さも目を見張る。ノーズの先端は依然見にくいが、サイドウインドウの下端は低く、ドアミラー前のサブウインドウも斜め前方の視界確保にしっかり貢献。側面衝突対策か人間が比較的内側に座らされるため横幅が寸法以上に大きく感じられる部分はあるが、その分、ステアリングやペダルのオフセットが小さくなり、総じて見た目以上に取り回しはしやすい印象だ。

ルーテシアの躍動的なスタイリングは間違いなく206の影響だろう。情感に訴えかけてくる要素は確かに増しているが、それでいてルノーらしい端正なところが失われていないのは好ましい。インテリアのクオリティはこちらも飛躍的に向上しているが、細部の意匠はやや煩雑。ドアミラーの辺りには死角も出来てしまっているし鏡面も小さく見にくい。この辺りのまとめ方は、やはりプジョーに一日の長がある。

しかし、スタイリングを語るなら真打ちはグランデプントだ。その名の通り大きくなったとは言え全長はわずか4020mm。それでこの色気漂うフォルムを生み出すのだから、さすがジウジアーロだ。インテリアも然り。特別なことはしていないし素材が良いわけでもない。けれど、どこか気分を昂揚させるのだ。

ただしそのカタチの割を食って視界はあまり良くない。Aピラーは大きく寝かされスカットルもはるか前に。そのため207と同じくドアミラーの前にはサブウインドウが備わるが、右側のそれは運転席からは何の役にも立っていない。太いCピラーも斜め後方の視界を遮っている。

後席も犠牲になっている。実は、それは207も似たようなもの。ルーテシアだけは前席背もたれの背後を抉るなど細かな工夫で広さを確保しているが、それにしたって広々というほどではない。

要するに今、このセグメントで後席はそれほど重要視されていないのだ。サイズアップ分は、ほとんどデザインと衝突安全性の確保に費やされている。きっとヨーロッパでのこのセグメントのあり方自体が変わってきており、それが反映されているのだろう。

画像: 2007年3月に日本に登場したプジョー207。ワールドプレミアは2006年のジュネーブオートサロン。

2007年3月に日本に登場したプジョー207。ワールドプレミアは2006年のジュネーブオートサロン。

重厚な乗り味のルーテシア、走らせると俄然いきいきするグランデプント

では走りはどうか。207GTのステアリングを握っての第一印象は、見た目に負けない骨太さを感じるということだ。その最大要因はエンジン。最高出力150psの新開発1.6L直噴ターボユニットのトルクフルな特性である。走り出しの一瞬だけ過ぎてしまえば、あとは4速1500rpmから踏み込んでも即座に加速を開始するほどのフレキシビリティは驚異的で、一般道では4速、高速道路では5速に入れっぱなしで十分軽快に走れてしまう。スペックを見ると6速MTは? ATはないの? なんて思うが、適切なギア比と行き届いた遮音のおかげもあって、実際に走らせていて不満を感じることはなかったと言っていい。

むしろ最後まで気になったのは乗り心地だ。端的に言って207GTのアシは硬い。サスペンションの動き始めが突っ張った感じで、常に突き上げられ揺さぶられるのだ。

それでも衝撃が脳天を直撃するようなことがないのは高いボディ剛性の賜物だろう。それは軽快なフットワークにも効いていて、ステアリングの反応は実にソリッド。適度にリアを流しながらのコーナリングの楽しさは206譲りだ。ざっと200kg増の1270kgの車重で、この俊敏さを演出しようという意図が、硬めの設定に繋がったのだろうか?

それでも、さすがと感じたのは長距離を走っても大した疲れには繋がらなかったということである。おそらくアタリはかたく感じるけれども、目線や身体はそれほど上下動していないのだろう。ワインディングロードでの軽快さの一方でツアラーとしても飛び切り優れているのは、やはりフランス車、やはりプジョーである。

しかし、乗り心地の点ではやはりルーテシアには敵わない。207以上とも思えるボディの剛性感とサスペンションのしなやかさが相まって、乗り味はサイズからは想像できないほどの重厚さだ。中立付近に違和感のある電動パワーステアリングも、いざ切り込めば手応えは抜群でリニアリティも絶品。リアの高い接地感を背景に手足の連携でアンダーステアの度合いを調節しながら、楽しんで走らせることができる。

そうは言いつつ、実は最初の印象は芳しくなかった。それは1.6Lエンジンが最高出力112psという数値の割に低速域でパンチを欠くせい。元気が出てくるのは4速100km/hにあたる2800rpm辺りで、そこを過ぎると吹け上がりは小気味良くパワー感も出て、さらにシャシも安定感を増してくる。そう、こちらもやはりツアラー気質。クッションの分厚いシートも長距離移動に最適で、これぞルノーという味を存分に楽しめる。

グランデプントは、その対極と言えるかもしれない。全体の剛性感は今回の3台の中でもっともヤワでシャッキリしないし、最高出力95psの1.4Lエンジンも線が細く、レブリミットまで回しても次のギアでトルクバンドから外れてしまうなど、どうにも頼りない。

ところが、より積極的に走らせようと試みると、にわかに違った面が見え始める。コーナーに勢いよく飛び込めば、その反応はまさにこちらの意思通りのクイックさ。エンジンも俊敏に吹け上がるから力が足りないと思ったら即座にヒール&トゥを駆使してシフトダウンしてやればいい。そうやって走らせるとグランデプントは俄然イキイキとして、こちらの意思に忠実な最高の相棒となってくれる。これぞイタリアンコンパクト。サイズアップし洗練が進んでも、大事な部分は不変なのだ。

画像: 日本では2006年の3月に登場したルーテシア。欧州では「ClioⅢ」という名で販売されている。

日本では2006年の3月に登場したルーテシア。欧州では「ClioⅢ」という名で販売されている。

完成度の高さを備えて、大きな魅力と実力をつけた「道具」

いや、変わっていないのは207やルーテシアも同じことかもしれない。言ってみれば、それは人間を尊重する姿勢。乗り手に特定の流儀を強制したりせず、その意思を最大限に尊重してくれるのは、おそらくこれらが今も良い意味で「道具」だからだ。例えばキッチン用品などと一緒で、まず何より使いやすいことが大事。それでいてちょっとオシャレで、使うことがウキウキさせる要素を持ちながら、しかしヘンにカッコつけはしないというような……。その辺はこの3台、どれも変わらない。

その上でこの最新世代のフレンチ&イタリアンは、工業製品としての完成度の高さをも確実に身につけてきた。見て乗って心が浮き立ち、そして装備やクオリティが俄然ハイレベルとなったプジョー207は、まさにその典型と言える。

206がモデル末期を迎えていたこともあってか、ここ数年のフランス車、イタリア車の勢いには停滞感が漂っていた。しかし、これまで持っていた楽しさや歓びはそのまま、ドイツやイギリスのライバルにだって負けないクオリティの高さをも得たこれら新世代のモデルは、アピール次第で再びその輪を広げていけるだけの魅力と実力をしっかり身につけていたというのが今回の結論だ。

考えてみれば、2車種でセグメントのシェアの7割を握っている状況なんて面白くはないというもの。これら魅力的なモデルが躍進して選択肢を広げることに繋がれば、日本の輸入車市場はもっと面白いものに育っていくはずだ。そこには、大いに期待したいところである。(文:島下泰久/Motor Magazine 2007年5月号より)

画像: 2005年のフランクフルトショーでワールドプレミア、日本では2006年6月に登場したグランデプント。

2005年のフランクフルトショーでワールドプレミア、日本では2006年6月に登場したグランデプント。

ヒットの法則

プジョー 207 GT 主要諸元

●全長×全幅×全高:4030×1750×1470mm
●ホイールベース:2540mm
●車両重量:1270kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1598cc
●最高出力:150ps/5800rpm
●最大トルク:240Nm/1400-3500rpm
●トランスミッション:5速MT
●駆動方式:FF
●車両価格:264万円(2007年)

ルノー ルーテシア エル 5ドア 主要諸元

●全長×全幅×全高:3990×1720×1485mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1190kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1598cc
●最高出力:112ps/6000rpm
●最大トルク:141Nm/4250rpm
●トランスミッション:4速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:223万8000円(2007年)

フィアット グランデプント 1.4 16V スポーツ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4050×1685×1495mm
●ホイールベース:2510mm
●車両重量:1160kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1368cc
●最高出力:95ps/6000rpm
●最大トルク:125Nm/4500rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
●車両価格:209万円(2007年)

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