最近ではSUVの勢いがあるポルシェだが、それでも718や911など伝統のスポーツモデルも進化を続けている。ここでは最新「ポルシェ ミッドシップ2シーターモデル」の世界観にどっぷりと浸っていただこう。(Motor Magazine 2020年9月号より)

エモーショナルな718モデルの頂点

ポルシェと言えば911・・・・・・と、まるで「条件反射」のごとくそう連想してしまう人は、今でも世界に少なくないだろう。もちろん、そんなイメージが確立された背景には、それなりの理由がある。

比類なく長いその歴史や、その間一貫して変わることのなかった水平対向エンジンをボディ後端の低い位置に搭載するという基本的レイアウト。さらには初代以来不変のフロントフードよりも高い位置に配されたヘッドライトや、「フライライン」と称される極端な後ろ下がりのルーフラインといった個性的なデザイン要素など、今から半世紀以上も前の初代デビュー当初から最新の作品へと至るまで、連綿と受け継がれて来たさまざまな特徴が、このブランドにおける911というモデルの立ち位置を、強固に決定付けることになっているのだ。

一方、業績絶好調というニュースが毎年のように聞かれる今となっては想像すら難しいものの、実はこのブランドには倒産の危機までが現実視された過去も存在する。1990年代初頭に顕著になったそんな逆境から抜け出すべく、すべてを911に賭けた当時の「1本足打法」から脱却するために「フロントセクションを共有化」という合理的な手法で開発されたのが、現在の718シリーズへと続くミッドシップの2シーターモデルだ。

ボクスター、そしてケイマンというペットネームが与えられたこれらミッドシップモデルは「911の弟分」というポジションで展開されたゆえに、たとえ同様の排気量のエンジンを搭載したモデル同士でも、出力スペックや加速性能、最高速といった性能面で明確なる差異が設けられていた。けれども時が流れ、販売も軌道に乗って市場からもより多彩なバリエーションが求められるようになると、そこではさらなるハイパフォーマンスバージョンの展開が避けられなくなってくる。

当初は911とのバランス感覚が重視されたバリエーション展開に終始をしていたものの、それも徐々に「解禁」されることに。そしてついに「911に対する下剋上もやむなし!」の決断が下されたと実感できるようになったのは、ボクスターより遥かに高剛性なボディを持つケイマンをベースに、このブランドのモータースポーツ部門が手を加えたコンペティティブな内容の持ち主である初代のケイマンGT4が加えられた、2015年のことだった。

画像: 優れたエアロダイナミック性能で抜群の高速安定性を実現。(718ケイマンGT4)

優れたエアロダイナミック性能で抜群の高速安定性を実現。(718ケイマンGT4)

ケイマンGT4はポルシェGTモデルのエントリー的存在

今回ここに取り上げる2台は、そんな初代ケイマンGT4が開拓したキャラクターを受け継いだモデル。ちなみに、同様のエンジンを搭載した先代のボクスター スパイダーが目指した、非電動式のルーフトップを採用するなどの軽量化にこだわる姿勢は受け継ぎながら、シャシやエアロダイナミクスのチューニングが初めてモータースポーツ部門に委ねられるなど、より「サーキット・オリエンテッド」な方向へと進化すると同時に、ボクスターの名称が外れて独立したモデルに昇格されたのが、『718スパイダー』でもある。

「GTモデルのエントリーレベルに位置する存在」というフレーズで紹介される718ケイマンGT4は、いわばGT3やGT2といった「役付き911」と同様の血統の持ち主。そんな素性を印象付ける派手な造形のリアウイングや低く前方に伸びたフロントリップ、大径の左右2本出しテールパイプをインテグレートしたディフューザーなどで構成される専用デザインのエアロパーツ類は、「従来型GT4よりも20%増しで、最高速時には122kgものダウンフォースを発生させる」と説明される、いかにもサーキット走行にフォーカスしたモデルらしいアイテムでもある。

一方、電子制御式の可変減衰力ダンパーを標準採用する専用チューニングが施されたサスペンションややはり専用に設定されたスタビリティコントロール、機械式LSDと連携の取られたトルクベクタリングメカや電子制御式のドライブトレーンマウントなどは、両モデルに共通する特徴的な「走りの装備品」だ。

ところで、従来のケイマンGT4、そしてボクスター スパイダーからの最大の進化点として紹介できるのが、両車のシート背後に6速MTとの組み合わせでミッドマウントされた心臓部。従来のケイマンGT4、そしてボクスター スパイダーが当時の911カレラSから譲り受けて搭載した3.8Lユニットに変わって採用されたのは、自然吸気の水平対向6気筒というデザインは同様ながら、「ターボ付きの911カレラ系と同じファミリーに属する」と紹介される、新作の4L自然吸気ユニット。420㎰の最高出力は、従来のケイマンGT4用との比較では35㎰の上乗せで、420Nmの最大トルク値は「変わらず」という関係を持つ。

ちなみに、いずれもピーク値を発生する回転数は上方へと移行されていて、すなわち排気量を増していながらも「高回転・高出力型」というキャラクターがより強くなっている。

画像: 718スパイダーは最高速を妨げないために軽量コンバーチブルトップを備える。

718スパイダーは最高速を妨げないために軽量コンバーチブルトップを備える。

4L対抗NAエンジンは高回転型で回すほどゴキゲン

果たせるかな、そんな心臓を搭載した718ケイマンGT4と718スパイダーは、端的に言って「エンジンを回すほどにゴキゲンな走りを堪能できる」モデルたちへと仕上げられていた。正直に言えば、そんな「高回転好み」のテイストは「レーシングユニットをディチューンした」と表現できる心臓を積んだ、911GT3系ほどに顕著なものでないのは事実。8250rpmという最高出力の発生ポイントを軽々と飛び超え、あまつさえそこで「2段目ロケット」に点火されたかのごとき驚異の伸びを示すGT3用ユニットに比べれば、そのパワフルさはむしろ「可愛いもの」と言ってもいいかもしれない。

それでも、回転数の高まりと共に澄み渡る自然吸気フラット6ならではのサウンドを耳に、背中には強いGを感じながら急速に速度が高まって行く過程は、「至福の刹那」というしかない瞬間だ。そもそもサーキットにフォーカスしたキャラクターの持ち主だけに、足まわりはそれなりに硬い。それが「針の穴に糸を通すこともたやすい」と思える正確無比なハンドリング感覚を実現させていることは大いに実感ができる。

一方で、とくにオープン構造の持ち主ゆえ振動の減衰にわずかながらも余計な時間がかかるスパイダーの場合には、個人的には「これは街乗りができる限界かな」と思えるハードな乗り味に繋がっていたことも事実ではある。

ベースモデルよりも30㎜のマイナスと紹介されるローダウンサスペンションの採用にオーバーハング部分の低さも相まって、前進時のみならず後退時にも縁石の高さに気を遣う必要がある点も、街乗りシーンでは気になるポイント。残念ながらこちらのミッドシップモデルでは、911系では用意されるフロントのリフターは、選択不可能なのだ。

もっとも、そんなことを言っている間に、「ハードウェアは同一で、出力スペックの違いはソフトウェア部分のみの違い」と銘打たれた心臓を備える、よりストリートユースにフォーカスをされた「718ボクスター/ケイマンGTS4.0」なるモデルが設定されているのだから、毎度ながらこのブランドのマーケティング戦略の巧みさには恐れ入る。

ちなみに、こちらGTSでは、20年年内の「PDK」仕様の追加設定の予定も公にされている。となると、「今度はそれが718ケイマンGT4/718スパイダーに展開されたとしたら、すでに従来型よりも12秒速い7分28秒を達成というニュルブルクリンクでのラップタイムは、一体どこまで短縮されるのだろう!」と、またも夢が膨らんでしまう。

今頃ポルシェの社内では、「速くなり過ぎたミッドシップモデル」を目の前に、喧々諤々の議論が繰り広げられているのかもしれない。(文:河村康彦)

画像: 718ケイマンGT4と718スパイダーは新設計された4L水平対向6気筒自然吸気エンジンを搭載。

718ケイマンGT4と718スパイダーは新設計された4L水平対向6気筒自然吸気エンジンを搭載。

■718ケイマンGT4主要諸元

●全長×全幅×全高=4456×1801×1269mm
●ホイールベース=2484mm
●車両重量=1420kg(EU準拠)
●エンジン= 対6DOHC
●総排気量=3995cc
●最高出力=420ps/7600rpm
●最大トルク=420Nm/5000-6800rpm
●駆動方式=MR
●トランスミッション=6速MT
●車両価格(税込)=1259万9074円

■718ボクスター スパイダー主要諸元

●全長×全幅×全高=4430×1801×1258mm
●ホイールベース=2484mm
●車両重量=1420kg(EU準拠)
●エンジン= 対6DOHC
●総排気量=3995cc
●最高出力=420ps/7600rpm
●最大トルク=420Nm/5000-6800rpm
●駆動方式=MR
●トランスミッション=6速MT
●車両価格(税込)=1237万5000円

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