2007年秋、ドイツメーカーから次々と話題のモデルが登場した。中でも最大の話題作は、アウディが発表した新型A4。新しい駆動レイアウトを採用した画期的なDセグメントモデルはどう評価されたのか。イタリア・サルディニア島で行われたアウディA4の国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年12月号より)

奇をてらうことなく美しいフォルムを実現

フランクフルトモーターショーでのデビューから1カ月、新型アウディA4の国際試乗会がイタリアのサルディニア島で開催された。欧州は秋が深まるのが早い。1カ月前のフランクフルトはまだまだ夏と言っていい天候だったのに、地中海に浮かぶ温暖なリゾート地として有名なサルディニア島でさえ、もうこの時期は朝晩の冷え込みが激しく、セーターがないとつらい。とは言え、日中は暑くもなく寒くもない最高の季節、晴天に恵まれたこともあり、アウディ渾身のニューモデルを試乗にするには最高の舞台となった。

ショーデビュー以来、デザインなどの静的評価はいろいろなメディアでなされてきたが、一番の注目点はやはり駆動系レイアウトの全面変更による重量配分の適正化ということだろう。こればかりは乗ってみないとわからないことであり、試乗会場へ向かいつつ、期待感は高まっていった。

試乗の起点となったのはサルディニア島オルビア空港に隣接したアウディ特設テント。近くの駐車場には数10台のA4が並んでいたが、その存在感は従来モデルより数段増していた。さすがに全長が117mm、全幅が54mm拡大しただけのことはあると実感させられる。フランクフルトのショー会場では、それほど大きいと思わなかったのだが、日常的な風景の中で見ると、いつもの感覚でそのサイズが理解できる。

スタイリングに奇をてらったところはなく、正常進化の典型だ。それでも、従来型と全体のイメージが違うのは、フロントオーバーハングが短くなり、ロングホイールベース化されたためだ。これによりスポーティでなおかつエレガントになった。そのスタイルをじっくり見ていると、デザイナーの意図がわかるような気がする。それは「従来モデルのイメージを守りながら、ロングホイールベース化することで、美しいフォルムに仕立てる」というシンプルなもの。「敢えて特別なことをしなくても、ロングホイールベース化さえすれば、素材がいいので十分に美しくなれる」と考えたように思う。

また、アウディのアイデンティティであるシングルフレームグリルは、従来モデルに比べて幅広くなり、また設置場所が低くなった。さらにヘッドライトにはLEDが数珠のように10数個並ぶ「デイタイム・ランニングライト」が埋め込まれた。この新シングルフレームグリルと昼間も点灯されるLEDによって、顔つきはかなり精悍になった。アウディ車全般にシングルフレームグリルが導入され始めたころは、A4もA6もA3も、そしてA8も含めて同じようなイメージで区別がつきにくかったが、新しいA4の顔はいい。シングルフレームグリルをうまく消化しながらA4らしい個性を出している。これからのアウディの顔はモデルごとにうまく個性化されるだろう。

画像: 160psを発揮する1.8L DOHCターボとFFレイアウト、そしてCVTの組み合わせとなるA4 1.8TFSI。

160psを発揮する1.8L DOHCターボとFFレイアウト、そしてCVTの組み合わせとなるA4 1.8TFSI。

駆動系レイアウト変更の効果は随所に感じられた

いよいよ新型A4のステアリングを握る。まずは2モデル用意されているガソリン車のひとつ、「1.8TFSI」を選んだ。これはFFでトランスミッションはCVT。160psを発揮する1.8L直噴DOHCターボエンジンは、つい最近、日本へ導入されたA3の1.8TFSIと基本的に同じものだ。ホイールは標準より1インチ大きい17インチ。タイヤサイズは225/50R17だった。

6速MT仕様のデータになるが、この1.8TFSIの前後重量配分は、56.1対43.9となっている。従来型A4のFFモデルは、搭載エンジンによる差はあるが、ことごとく前輪への荷重が60%を超えていたので、その差は大きい。仮に5ポイントの差があるとすると、車重は1410kgだから70kgの重りが前輪から後輪へ移動したことになるわけだ。

さて大いなる期待感を持って走り出す。まず感じたのは2808mmというロングホイールベースによる乗り心地とスタビリティの良さだ。また、CVTのフィーリングもいい。アクセルペダルの踏み込みに対して、期待どおりのトルクを出してくれる。アウディに限らず一般的に、これまでCVTの加速フィールには独特なものがあって、トルコンATを好むアメリカなどでは歓迎されなかったというのが現実だ。

しかし、このレベルまでフィーリングが向上してくれば、いずれは受け入れられるだろう。何よりも効率のいいトランスミッションであることは折り紙付きだからだ。

エンジンはいかにも4気筒らしいフィーリングを持っており、少々荒削りな印象も受ける。しかし、これは2.0TFSIのダウンサイジング版ではなく、これまでの2.0FSIの代替という位置づけのエンジンなのだ。当然、価格も2.0FSI並みであり、それでいて、最高出力、最大トルクともに2.0FSIよりも大きく、燃費もいいとなれば、総合力は十分に満足のいくレベルと言っていいだろう。

注目のコーナリングは予想どおりだった。「クルリとよく曲がる」、そんな言い方がぴったりとくる。ステアリングを切ったまさにその瞬間、軽やかに向きが変わり、コーナリング中は前後輪同等のしっかりした接地感がある。そして、コーナー出口ではステアリングを戻すのに少々気をつかうほどだ。それだけ反応がいい。ただ、ステアフィールは、中立付近で手応えが少ないところがあるのは気になった。

前後重量配分の適正化とともに全体的な軽量化の効果で、このようなコーナリングが可能になったのだろう。4.7mの全長と1.8mを超えるボディを持ちながら、こうした走りを実現したのは立派としか言いようがない。新型A4では駆動系レイアウトの変更ばかりに目が行きがちだが、実はアウディお得意の「軽量ボディ」にも、同様に注目すべきなのだろう。さらに試乗を続けると、下り坂の低速コーナーでの自然なフィーリングに驚かされた。フロントが重いFF車だと、さらに前へ荷重がかかる下り坂、とくにタイトなコーナーではステアリングフィールが不快なものだ。その不快感がほとんどない。これは嬉しい発見だった。

画像: 第三世代クワトロシステムを搭載するA4 3.2FSI クワトロ。

第三世代クワトロシステムを搭載するA4 3.2FSI クワトロ。

クワトロのコーナリング性能の高さには驚愕した

さて、次に3.2FSIクワトロに試乗した。とにかく驚いたのは、そのコーナリング性能の高さ。「オン・ザ・レール」とはまさにこのことを言うのだろう。ステアリングを切ったとおりにスパッと曲がる。FFと同じ「クルリと曲がる」フィーリングを持ちながら、前40%、後60%の駆動力配分のクワトロで、4つのタイヤが地面にピタリと張り付いている感じだ。限界は相当に高そうで、とてもそれを公道で知ることはできない。前輪にかかる駆動力がFFより少ないためかステアフィールもいい。さらにV6エンジンはパワフルでしなやかによくまわる。あらゆる面で1.8TFSIよりレベルが1つ2つ上にある印象だ。

ステアリングフィールがとくに良かったのは、ドライブセレクトコントロールシステムにより「ダイナミック」に設定したときだ。全般に操作感が重くなるのだが、それとともにセンター付近での曖昧さも少なくなっていた。

このシステムは、アクセルレスポンス/ATのシフトポイント/ステアリングのギア比/パワーステアリングのアシスト力/ダンパーの特性を調整するもので、「ダイナミック、コンフォート、オート、インディビデュアル」の4モードがある。「ダイナミック」は、決してハードな設定ではなくいい印象だったが、「コンフォート」は、かなりステアリングが軽くなる。インディビデュアルは、MMIによって個人の好きなように設定できるモードだ。時間がなく、試すことができなかったが、より自分好みの走り味にできるこのシステムはなかなか魅力的だ。

ところでこの3.2FSIクワトロの前後重量配分だが、エンジンが1.8TFSIに比べて重いので、リアにも駆動系システムがあるにもかかわらず、FFモデルより若干前寄りになるそうだ。その数字は正確に確認できなかったのだが、エンジニアの話などから推察すると、FFに比べて2ポイントほど前寄りで、58対42くらいだろう。

トランスミッションは6速ティプトロニック(AT)で、これもCVTよりフィーリングがよいので、全体的な高評価に貢献している。ところで新型A4にSトロニックは搭載されないのだろうか。コンセプトモデルにより、すでに縦置きエンジン用の7速Sトロニック(DCT)の開発が進められていることは明らかなのだが……。

その辺りについては、エンジニアがこう説明してくれた。「Sトロニックは通常のATより、現状では2~3%燃費がいいことはわかっています。ただ、だからと言ってA4クラスのクルマにまで搭載すべきなのかどうかは論議があるところです。ATでさらに効率を高めて、またスポーティにできればそれでいいだろうという意見もあるのです」とのこと。Dセグメントの上級モデルにはトルコン式ATの方が相応しい。2L以下はCVTが効率が高くてよい、という判断があるようだ。

画像: 3.2FSI クワトロ。基本的な駆動力配分は前40%:後60%で、従来の50%:50%よりもフロントへの配分が減った分、操舵にタイヤのグリップを使うことができるので曲がりやすくなったと言える。

3.2FSI クワトロ。基本的な駆動力配分は前40%:後60%で、従来の50%:50%よりもフロントへの配分が減った分、操舵にタイヤのグリップを使うことができるので曲がりやすくなったと言える。

Dセグメント市場は新型A4の登場でホットに

さて、インテリアデザインはA6に近いイメージで斬新さはない。ただ、例によって質感は高く、高級感も従来より増していることは確かだ。また、従来モデルに比べて室内長は20mm、室内幅は10mm拡大されている。全体的にはわずかなサイズアップだが、リアシートのレッグルームは29mm拡大されており、このことは実感できた。

MMIが用意されたこともニュースだ。3シリーズのiDrive、Cクラスのコマンドシステムと同様のこうしたシステムは、もはやDセグメントのクルマには不可欠ということだろう。MMIを含めたスイッチ類の操作性はよい。いい意味でデザインに斬新さがないから、初めて乗ったとしても何ら戸惑うことはない。

以上が新型A4に乗った印象だが、実は試乗する前にはこんな予想をしていた。「新しいA4は前後重量配分の適正化で、とくにFFの走りがよくなっているのだろう。クワトロはもともといいから、その進歩の度合いは少なく、結果としてFFとクワトロの差が縮まり、FFの商品価値が上がるだろう」というものだ。

しかし、その予想は外れた。FFはもちろんよくなっているのだが、クワトロもそれと同じようによくなっていた。全体に底上げされたことになり、結局、その差はまったく縮まっていない。このことをどう受け止めるかがポイントだ。BMW 3シリーズも、メルセデスCクラスも基本的に駆動方式が同じだから、A4ほどにはグレードによる走行フィールの差はない。

やはり「アウディはクワトロだ」と思う。この味を知らなければよいのだが、一度知ってしまうと、FFでは我慢ができなくなる。いっそのこと「日本で買えるA4はクワトロだけにしてくれば皆が楽になれるのでは……」などと思ってしまう。しかし、いざ購入いうことになれば、やはり廉価なFFモデルの存在はクローズアップされてくるもの。いやはや実に悩ましいが、決断は実際にお金を払う方にしていただくしかない。

さてアウディ全般の日本へのニューモデル導入スケジュールだが、まずフェイスリフトされたA8が年明け早々に入ってくる。そして、次がA5、さらにそのすぐ後、春先に新型A4が日本上陸となる。導入されるのは試乗記をお伝えした1.8TFSIと3.2クワトロの2モデルだ。2008年輸入車市場はホットになりそうだ。とくにこのDセグメントは注目だ。(文:荒川雅之/Motor Magazine 2007年12月号より)

画像: A6に近いものを感じさせるインテリア。デザインに斬新さはないが、そのぶん機能性には優れている。また、A6、A8と同様にパーキングブレーキを電気式にしたことで、シフトレバー周辺にMMIの操作系が配置可能になった。写真は1.8TFSI。

A6に近いものを感じさせるインテリア。デザインに斬新さはないが、そのぶん機能性には優れている。また、A6、A8と同様にパーキングブレーキを電気式にしたことで、シフトレバー周辺にMMIの操作系が配置可能になった。写真は1.8TFSI。

ヒットの法則

アウディA4 1.8 TFSI主要諸元

●全長×全幅×全高:4703×1826×1427mm
●ホイールベース:2808mm
●車両重量:1410kg(EU)
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1798cc
●最高出力:160ps/4500-6200rpm
●最大トルク:250Nm/1500-4500rpm
●駆動方式:FF●トランスミッション:6速MT
●最高速:225km/h
●0→100km/h加速:8.6秒
※欧州仕様

アウディA4 3.2 FSIクワトロ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4703×1826×1427mm
●ホイールベース:2808mm
●車両重量:1580kg(EU)
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3197cc
●最高出力:265ps/6500rpm
●最大トルク:330Nm/3000-5000rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速MT
●最高速:250km/h
●0→100km/h加速:6.2秒
※欧州仕様

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