2007年秋、フランクフルトモーターショーでグランドボイジャーがフルモデルチェンジしてデビューした。両側スライドドアの3列シートというパッケージを持つ「元祖ミニバン」はどのような評価を受けたのか。今回はスペイン・バルセロナで行なわれたグランドボイジャーの国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年2月号より)

快適性を高めることに大きなエネルギーが注がれた

クライスラーが新型グランドボイジャーの発表の場としてフランクフルトショーを選んだのは、アメリカ本国でミニバンの需要が冷え込んできた一方で、ヨーロッパ市場が以前にも増して重要となりつつあるからだ。

これまでもグランドボイジャーは彼の地においてアメリカ車としては十分メジャーな存在だったが、最近ではマーケットの拡大を受けて、このカテゴリーにも地元のライバルが進出してきている。元祖ミニバンはここをデビューの舞台に選ぶことで、挑戦を受けて立つことを宣言した、というところだろうか。

そんな新型グランドボイジャー、スタイリングはこれまでの曲線基調からスッキリとした面と線で構成されたクリーンな印象のものへと変貌を遂げている。

スペイン・バルセロナで行なわれたプレス向け試乗会におけるプレゼンテーションでは、高めのウエストラインと天地に薄いサイドウインドウの比率などの点で、300Cとのモチーフの共通性が謳われていたが、それを言うにはディテールを含め、ちょっとアッサリし過ぎという気もしないではない。

しかし、そのスタイリングは単に見た目の方向性を変えるためのものではないようだ。強調されていたのはルーフの幅を実に150mmも拡大したということ。全長5143×全幅1954×全高1750mmというサイズは、実は全幅に関しては現行型よりも小さいのだが、こうしてルーフの幅を広げ、サイド面を立ち気味としたボディとすることで、室内空間の余裕を大幅に向上させているのである。

空力性能の改善も新しいフォルムのキーとなる要素だ。これは走行性能や燃費はもちろん、風切り音の低減にも繋がる。そのほかボディ剛性の向上によるNVH性能の改善、遮音の徹底なども実施。さらにリーフリジッドだったリアサスペンションも、ついにコイルスプリング仕様のツイストビーム式へと改められている。そんな具合でこの新型グランドボイジャー、快適性を高めることに大きなエネルギーが注がれているわけだ。

画像: 元祖ミニバンとして知られるボイジャー。5代目にあたる新型はロングボディのグランドボイジャーに一本化しての登場となった。

元祖ミニバンとして知られるボイジャー。5代目にあたる新型はロングボディのグランドボイジャーに一本化しての登場となった。

Stow'n GoとSwivel'n Go、2つのシートシステムを設定

実際、その効果はしっかり感じることができた。室内はいかにも広々。柔らかな座面のシートはサイズも更に大きくなっているようで、とても寛げる。

2列目はシート自体の剛性不足か、ややブルブルとした感触を伝えるものの、やはり快適そのものだ。さらに3列目も、2列目のスライドを最後方にさえしなければ、ゆったりという言葉を使えるほどの空間が確保される。横方向の余裕はここでも顕著で、3人掛けも苦にならなそう。サイドウインドウ上端あたりのトリムが張り出し気味なのは気になるが、カーテンエアバッグ付きと考えれば、まあ納得である。

ちなみにシートに関しては、先代途中から採用された2/3列目シートをすべて床下に収めフラットで広大な荷室を生み出す「Stow'n Go」に加え、2列目を回転させ3列目と対座できる「Swivel'n Go」も設定。日本には両方が入ってくるようだ。

乗り心地はアメリカのミニバンらしく至極穏やかなもの。しかし骨格はカッチリしていて、それが大きな安心感に繋がってもいる。ピシッとしているが大らか。そんな味付けだ。時おりの大入力の受け止め方にはまだ安っぽさもあるが、まあ敢えてあげつらうほどではないだろう。

直進時の手応えこそ甘めだが、ステアリングも十分に正確。速度域を問わずリラックスして走ることできる。

排気量を3.3Lから3.8Lに拡大し、6速ATと組み合わされたV型6気筒OHVユニットも、そうした走りによくマッチしている。さほどパワフルとは感じられないが、低回転域から程良く出ているトルクを6速ATがうまく引き出してくれるのだ。ATの多段化によって100km/h時のエンジン回転数はわずか1650rpm程と低く、それも静粛性の向上に一役買っている。

乗っても乗せられてもゆったり寛げるグランドボイジャー特有の個性はそのままに、ハードウエアの完成度をキッチリ高めてきた新型は、日本にも数多い歴代モデルの愛用者にとって買い替える理由が十分あるのはもちろん、国産ミニバンの頂点に行き着いてしまって、次の選択肢に悩んでいるユーザーのハートにも響く内容を備えていると断言できる。

外観同様、クリーンで明るい印象のトリムや間接照明まで用いた空間演出、電動折り畳み式の3列目シートにパワースライド式のスライドドアやリアゲート等々、装備の面でもヒケを取る部分は皆無だ。

2008年は王者トヨタ アルファードのフルモデルチェンジも控えているが、新しい世界を体験したいと思うなら、新型グランドボイジャーは一考の価値がある。日本導入は春から夏頃になる予定である。(文:島下泰久/Motor Magazine 2008年2月号より)

画像: 3ゾーンオートエアコンや2列目/3列目サンシェード、増設されたカップホルダーなど快適装備や収納アイテムも充実した。

3ゾーンオートエアコンや2列目/3列目サンシェード、増設されたカップホルダーなど快適装備や収納アイテムも充実した。

ヒットの法則

クライスラー グランドボイジャー リミテッド 主要諸元

●全長×全幅×全高:5143×1954×1750mm
●ホイールベース:3078mm
●車両重量:2025kg(EU)
●エンジン:V6OHV
●排気量:3778cc
●最高出力:193ps/5200rpm
●最大トルク:305Nm/4000rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:6速AT
※欧州仕様

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