2008年2月、アウディS5クーぺがA5クーぺとともに日本で発表された。ただし、Motor Magazine誌はその上陸を待ってさっそく試乗。通常モデルとは一線を画したスポーツモデルでありながら、時に上品な佇まいを見せるSモデル。S8、S6セダンとともに、存在意義や狙いをあらためて探った試乗レポートを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年8月号より)

Sモデルの存在位置はシリーズのトップ

先日試乗したA5 3.2クワトロは、極めて優れたGTカーだった。あくまでもフラットなライドフィール、心地よく控えめなメカニカルアピール、整然としたインテリア、そして何とも惚れ惚れするアピアランス(キレイなクルマに乗っているという気分の良さ=自負、も大切である)。GTを語る上で必要な要素をいずれもハイレベルで満たしていた。

高速道路をのんびりと走りつつ、「何人たりともこのたおやかな世界を邪魔することなどできないよな」と感じる。独自の空気感をもって走っている。たとえ、ライバルがすぐ脇をこれみよがしに抜き去ったとしても、まるで動じることがない。

もちろん、そんな挑発についつい乗ってしまい、おのれのモードが切り替わったとしても、挑発者をとことん追いつめることだってできるだろう。高速域の安定性は今やピカイチ。マスクの押し出しも効く。何より、出足の鋭さはプレミアムブランド随一だ。

そんな極端な二面性がモダンアウディの本質であり、見過ごしてはならない魅力だというのが、私の持論である。

アウディのラインアップの中で、スポーツ&ラグジュアリーのトップラインと言えばSシリーズだ。これは90年代以降のお約束だった。久方ぶりの復活となった本格クーペA5にも、S5なるトップモデルが最初からラインアップされていた。今月は、A5から遅れること3カ月、ようやく待望のS5に触ることができることになった。

S5の成り立ちを簡単に言えば、基本的なメカニズム構成(シャシ、駆動方式、パワートレーン)はA5 3.2クワトロそのままに、エンジンを上級クラスA6のトップグレード用4.2L直噴V8ユニットとしたというもの。A5用3.2L V6FSIエンジンとストロークは同じだが、ボアは若干小さい。高性能エンジンに対応すべく、スポーツサスペンションや大型ブレーキシステムなど走りに関係するセクションの強化にも抜かりはない。

大人のクーペたるA5のアイコン的存在であるだけに、アピアランスの変化は必要最小限だ。ド派手なものではなく、上品にSシリーズらしさを醸し出している。それでもグリルや前後バンパー、ホイールデザイン、シルバー塗装のドアミラーなど、他のSシリーズとも共通するポイントで、特別なグレードであることを主張する。

インテリアもSシリーズ用のハイバックタイプスポーツシートと骨太なステアリングホイール&シフトノブが目立つ程度。もともとラグジュアリーなインテリアを持つA5シリーズだから、そこに高品質マテリアルを使ったスポーツパーツを奢ることで、プレミアム感は十二分にアップしている。

と、ここまで説明してきて、ふと、ある疑問が頭をよぎる。S5のライバルは、いったいなんだろう? BMW M3クーペやメルセデス・ベンツCLK63AMGだろうか。しかし、彼らとは成り立ちが微妙に異なっている。S5のエンジンは、言ってしまえば上級モデル用の転用で、小さいクルマに大きな量産エンジンという昔ながらの高性能車コンセプトによるものだ(そういえば欧州Dセグメントに本格的にV8エンジンを持ち込んだのはアウディだった)。

対してライバルのMとAMGは、いずれも高性能車担当の別会社(BMW M社とメルセデスAMG社)が車両開発を担うのみならず、エンジン開発とアッセンブリーを担当し、コンポーネンツを本社工場へと供給している。

アウディにもクワトロ社という高性能車担当の別組織があるが、公式にはSシリーズに関与していない。クワトロ社の営業品目でライバル2社と共通するものといえば、Sラインと呼ばれる外装スペシャルグレード、特注仕様のエクスクルーシブモデル、ライフスタイル(マウンテンバイクなど)商品への関与だ。他の2社にもそれぞれに相当する項目があるだろう。

もうひとつ、クワトロ社に関しては、他との大きな違いがある。それはRSシリーズの存在だ。Sシリーズの上をいくラインアップモデルとしての超高性能RSシリーズは、SシリーズをMやAMGに対応させてしまうと、ライバル2社には事実上存在しないものになってしまう。

なぜならRSシリーズ(とR8)の開発生産は一貫してクワトロ社で行われているからで、そんなラインアップモデルはライバルに存在しない。

あえて言えば、先代M3 CSLや、メルセデスAMGのブラックシリーズなどをRSシリーズの対抗と考えることもできるが、ラインアップ車と限定モデルの違いは残る。

というわけで、ライバルたちに比べると、クワトロ社とSシリーズの位置付けは極めて微妙であることがわかっていただけたであろう。果たして、アウディにおけるSシリーズとは、一体どんな存在なのだろうか。

そのポジショニングを明確にするためにも、最新SシリーズのS5を、入念に味わってみる必要がありそうだ。

画像: S5。シリーズの最スポーツモデルレンジと位置づけられるSモデルだが、アウディらしく、そのアピアランスは意外と上品でエレガント。

S5。シリーズの最スポーツモデルレンジと位置づけられるSモデルだが、アウディらしく、そのアピアランスは意外と上品でエレガント。

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