2008年、4代目E92型BMW M3クーぺにM-DCT(デュアルクラッチトランスミッション)が搭載されて大きな話題を呼んだ。CO2排出量の問題が叫ばれる中、高回転まで瞬時に、切れ目なく効率よくパワーを伝達する独自の革新的なメカニズムは、ひとつの「切り札」になると言われた。Motor Magazine誌はそのテクノロジーに注目、上陸間もないM3クーぺ M-DCTのフルテストを敢行している。今回はその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年10月号より)

燃費を向上させながらダイナミクスを追求

自らのルーツであり、これまでも得意分野としてきた内燃機関はまだまだ大きな可能性を持ち、この先、当分の間、それをリファインしながら自身の軸足として行くという姿勢を明確に打ち出すのが、このところのBMWのスタンスでもある。

同社の取締役会会長であるノルベルト・ライトホーファー博士は、2008年春に行われた決算報告に際して、BMW全ラインアップ内の22モデルとMINIの5モデルが、1kmあたりのCO2排出量が140g未満と、極めて優秀なデータをすでに達成していることを明らかにした。

こうした事例を筆頭に、昨今のBMWのCO2削減策は、その積極性と具体性の両面において、同社最大のライバルであるメルセデス・ベンツを、大きく凌いでいるようにも感じられる。

●2008年中に米国50州のすべてで低排出ガスのディーゼルモデルを導入。
●2009年には、現行モデル比で20%の燃費削減を行い6.5L/100km(15.4km/L)を達成する同社初のハイブリッドモデルを導入。
●大都市のためのニューモデルとモビリティコンセプトづくりに取り組む新組織「プロジェクトi」を立ち上げ、今後5年以内に特定のソリューションを提示。

これらは、BMWが短期的なロードマップとして打ち出している事柄の一部である。同時に、プリウスとまったく同じ、104g/kmのCO2排出量を達成しつつ、「5500ユーロも安いMINIクーパーディーゼルとではどちらがより楽しいドライブを実現してくれるのか?」と、自らとは異なるアプローチで世界のムーブメントを支配しようと仕掛けるライバルに牽制球を投じることを忘れていないのも、またこのメーカーらしい。

そして、BMWにとってのコア技術「エンジン」のポテンシャルを最大限に引き出すために欠かせないのが、トランスミッションである。

個人的にはこれまで、「BMW車はMTとの組み合わせで乗ってこそ、その真価が味わえる」と常々そのように思ってきた。エンジンからの入力と駆動輪への出力の回転数差が生じて初めてトルク増幅という仕事が可能となり、だからこそ操縦のダイレクト感をスポイルする「滑り」の感覚から逃れることができなかったトルクコンバーター方式のATは、アクセルレスポンスのシャープさこそが重要と思われたBMWエンジンには、いまひとつマッチングに優れないと、そう感じてきたからだ。

ところがいま、その常識が大きく覆されようとしている。理由は、ついにBMWにもDCT=デュアルクラッチトランスミッション搭載モデルが設定されたことに他ならない。

トルコン式やCVTなど従来のATの伝達効率を大きく凌ぎ、しかしそれらの2ペダル式トランスミッションに遜色ない使い勝手を実現させるDCTは、機能上では「夢のトランスミッション」そのものだ。

1980年代の競技用モデルに採用例がありつつも、長きにわたって一般市販車への展開が成し得られなかったのは、限定的な用途で使われる競技車両に対して一般市販車は、不特定多数の人が様々なシチュエーションで使用するためだ。しかし、電子技術の飛躍的発展がそうした問題を克服。それがここに来て、まるである種ブームのように、この類のトランスミッションが陽の目を見始めた大きな理由のひとつなのである。

フォルクスワーゲン/アウディに三菱、日産。さらにはポルシェにダッジと、急速に各社のモデルに採用され始めたDCT。しかし、その「先駆者」が、主たる目的を燃費の向上(=CO2の削減)に置いたのに対して、BMWがまずM3に採用したそれは、ひと味違っている。

もちろん、こちらも燃費の向上は謳っているし、実際にヨーロッパでの最新計測法によるモード値も確実な向上を示す。だが、前出モデルの多くが「第7速目にクルージングギア比を採用することで、見掛け上の大幅な燃費向上を実現させる」という手法を採るのに比べると、M3用のDCTは明らかに異なるスタンスを備える。

画像: 革新のトランスミッション7速M DCTを手に入れたBMW M3クーぺ。

革新のトランスミッション7速M DCTを手に入れたBMW M3クーぺ。

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