2008年秋にパサートヴァリアントR36が日本に上陸し、ゴルフR32とあわせて、あらためてフォルクスワーゲンの走りの象徴とも言うべき「Rモデル」に大きな注目が集まった。そこで早速、Motor Magazine誌でもフォルクスワーゲン特集の中で、この2台の試乗テストをとおしてフォルクスワーゲンの目指す走りについて考察している。ここではその興味深いレポートを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年3月号より)

ゴルフのベーシックモデルで伝えたかった走りの「愉しさ」

そもそも、高性能とはいったい何だろうか。目を見張るスペックであればそれでいいのか。ただ単にヨーイドンの数字を競えばいいのか。どこかのラップタイムで決まるものなのか。

これまでにもそんな議論は多々あったが、結局、パワフルであればあるだけ凄くて速くて楽しい、といったものに落ち着かざるを得なかった。

ところが、自動車産業そのものが転換の時期にさしかかった今、作り手にも乗り手にも、これまでとは異なる高性能の行方を模索、期待する動きが強まってきている。ビッグエンジン、ビッグパワーに代表される20世紀的価値観の存在理由や価値が次第に薄れつつあり、多くの人々の期待はすでに「次なる一手」へと向いていることなどは、その象徴的な現れと言えるだろう。

ファン・トゥ・ドライブの意義はまだ失われてはいないと思うが、ハード重視の傾向ははっきりとターニングポイントを迎え、ある者はよりプリミティブな成り立ちのクルマに、またある者はまったく異次元の感覚にドライビングプレジャーを求めるようになってきている。

そんな中、フォルクスワーゲンが一連のTSIテクノロジーを武器に提案してみせるのは、運転することの愉しさを諦めないベーシック&シンプルなダウンサイジングスタイルで、それは時代のエコスタイルと見事なまでにマッチングしていたのだった。

言い換えればそれは、時代が求める+αの性能というもの。パワーを重視したクルマであっても機能を損なうことなく、実用車として一流であり続けてきたフォルクスワーゲンとしては、「これまで以上にクルマを運転する愉しみを提供することが可能」だという自信の表れだとは言えないか。時代の要求は、新しい価値を呼び込むと同時に、必ずしもクルマそのものの古い価値を否定するものではないことを、フォルクスワーゲンは自らのテクノロジーでもって証明して見せたのだ。

その源となっていることは何か。TSIエンジンか、それともDSGや4MOTIONだろうか。

もちろん、そういった個々の、目立つテクノロジーをいくつも挙げて賞賛することは簡単だ。それぞれの、古いようで新しいキャラクターもフォルクスワーゲンのイメージアップに大いに役立っていると思う。しかし、それらはあくまでも「何か」を実現するための方法でしかなく、それがゴルフのベーシックモデルに他では味わえない愉しみをもたらしたかというと、そういうものでもなさそうだ。

では、何か。核心にあるのは、愚直なまでに真面目に、それでいて決して自動車本来の遊び心を忘れずに練り上げられた、シャシやボディといった基本構成要素の作り込みの良さではないだろうか。端的に言って、基本ポテンシャルの非常に高いクルマ作り、である。

現代のクルマに求められるすべての要素を、妥協することなく、過不足なく盛り込み、それを誰もが実感できるレベルの実用性、娯楽性をともなって商品化する。そのために、フォルクスワーゲンは要求される以上に高いポテンシャルをまずはどのモデルにも用意しようとしたのだと思う。TSIやDSGといった技術は、それをわかりやすく彩り飾って体感させるための道具ということだろう。

何はなくとも、乗れば骨組みの確かさを感じ、すべて身をゆだねてよいと思える。そんなグランドデザインの深さ、確かさ、真剣さが、数々のテクノロジーと結びつき、エコ×ファンという時代にあったカテゴリーを生み出したのだと思う。

画像: 初代ゴルフR32のワールドデビューは2002年夏。ゴルフというベーシックなモデルに3.2L V6ユニットをぶち込んだ怪物モデルは、ゴルフGTIとは異なる個性でフォルクスワーゲンファンのみならず多くの人々に衝撃を与えた。

初代ゴルフR32のワールドデビューは2002年夏。ゴルフというベーシックなモデルに3.2L V6ユニットをぶち込んだ怪物モデルは、ゴルフGTIとは異なる個性でフォルクスワーゲンファンのみならず多くの人々に衝撃を与えた。

「愉しさ」をわかりやすい形で表現したのがRモデル

そのことを逆説的に言ってみれば、あえて古いやり方で証明したのがRモデルであったのではないだろうか。ゴルフR32にしても、パサートヴァリアントR36にしても、そのコンセプト自体は古い価値観に基づくものだと言っていい。ゴルフR32には3.2Lの、パサートR36には3.6Lの、それぞれ「必要以上」にハイパワーな直噴V6エンジンが積みこまれ、自慢のDSG+4MOTIONでそのパワーを地に伝えている。

スタイリング全体への加工は控えめながら、大型グリルや大径ホイール、抑制の利いたエアロデバイスなどで、一般人には理解しづらいけれどもオーナーやファンであれば一目瞭然の、異質なオーラを発する。

インテリアも同様だ。デザインとして目立っているのはスポーツタイプのシートとハンドル、そしてペダル類くらいのもの。その他はマテリアルや色調の違いこそあれ、ノーマルモデルと大げさに変わることはない。それにもかかわらず、硬質なスポーティさを発散してやまない。わかる人にはそれが心地よく、心に突き刺さってくる。

走らせてみれば、その思いはさらに強くなる一方だ。ゴルフR32もパサートR36も、あふれんばかりのトルクの波に乗って、ひと塊の物体が弾き飛ばされるような加速を見せる。そして、乗り手はあたかも機械に組み込まれたかのようであり、その一体感、塊り感が安心と信頼を作り出す。

旧来の価値観に基づいた演出、小技にも抜かりはない。野太いエグゾーストサウンドなどはその最たるもの。ゆっくりとあたりを流していても、路面を這う低音は、通りがかったクルマ好きを振り向かせるに十分だ。

両者は、見た目にも、スペック的にもずいぶんと異なるが、乗り比べてみれば同じベクトル上にあることがはっきりとわかる。DSGを駆使してがむしゃらに走るもよし、高速クルージングを愉しむもよし、というグランドツアラー的性格が同じなのだ。

もちろん、あらゆるフィールにおいてパサートの手応えはずしりと重厚なものだが、誤解を恐れずに言ってしまえば、R36はR32がそのまま大きくなった、もしくはワゴンスペースが付属した、という印象である。

要するに、V6ユニットの豊かなトルクのおかげで物理的なサイズを感じさせない。かえって、その相似形な性能に私はフォルクスワーゲンの底力を見る思いがした。ごく標準的な実用モデルをベースに、必要以上にハイパワーで大きなエンジンをぶち込み、シャシや駆動系を強化して、一部の、熱狂的なフォルクスワーゲンファンや高性能車フリークに提供する。もちろん、フォルクスワーゲンらしさが失われることなどまったくないし、実用面でもランニングコストを除き、ベーシックモデルに劣ることなどないだろう。

フォルクスワーゲンは、ゴルフやパサートといった代表モデルに秘められた高い基礎力やポテンシャルを歴史や最新を理解するフォルクスワーゲンファンのみならず、ドイツ車ファン、ひいてはクルマ好きにも知ってもらおうと、あえて古い価値観に基づく高性能ゴルフ、高性能パサートで世に問おうとしたのではないだろうか。

だとすれば、Rモデルの完成度の高さを見れば、その目的は十分に達成されているといっていい。実用に徹することと、ファンであることは決してクルマの存在理由を二分するものではなく、その両立にこそクルマ作りの基本スタンスがあるべきだと、フォルクスワーゲンは語っているのだ。

フォルクスワーゲンとエコ、そしてファン・トゥ・ドライブ。まだまだ期待できそうだ。(文:西川 淳/写真:永元秀和)

画像: ゴルフR32に続くRモデル第2弾として登場したのがパサートR36。外観からはR32とはひと味違う大人の重厚さを感じさせるが、乗り比べれば、その目指す走りが同じベクトルにあるのがわかる。

ゴルフR32に続くRモデル第2弾として登場したのがパサートR36。外観からはR32とはひと味違う大人の重厚さを感じさせるが、乗り比べれば、その目指す走りが同じベクトルにあるのがわかる。

フォルクスワーゲン ゴルフR32 (2008年) 主要諸元

●全長×全幅×全高:4250×1760×1505mm
●ホイールベース: 2575mm
●車両重量:1590kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3188cc
●最高出力:250ps/6300rpm
●最大トルク:320Nm/2500-3000rpm
●トランスミッション:6速DCT(DSG)
●駆動方式:4WD
●車両価格:461万円(2009年当時)

フォルクスワーゲン パサートヴァリアント R36 主要諸元

●全長×全幅×全高:4820×1820×1490mm
●ホイールベース:2710mm
●車両重量:1770kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3598cc
●最高出力:220kW(299ps)/6600rpm
●最大トルク:350Nm/2400-5300rpm
●トランスミッション:6速DCT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・68L
●10・15モード燃費:8.8km/L
●タイヤサイズ:235/40R18
●車両価格:602万円(2009年当時)

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