初代モデルが誕生した1953年からアメリカンマッスルスポーツカーとしての王道を歩み続け、伝統を受け継いできたシボレー コルベット。その新型は、これまでの65年にわたるブランドの歴史の中で初めてミッドシップエンジンとなり右ハンドル仕様が設定された。(Motor Magazine2021年9月号より)

0→100km/h加速2.9秒。抜群の運動性能の持ち主

ミッドシップに生まれ変わり、初めて右ハンドル仕様が設定された8世代目のシボレーコルベット(C8)が日本上陸を果たした。

往年のファンの中には、ミッドシップ化により、カリッカリのハンドリングに生まれ変わったと心配する向きもあるだろうが、新型は伝統的なコルベットの良さをベースとしながら、走りのレベルをさらに引き上げた新世代のアメリカンスポーツに仕上がっていたことをまず報告しておこう。

もっとも、エクステリアを見る限り、「アメ車」的なおおらかさは皆無と言える。スリーサイズをランボルギーニウラカンと比較すると、コルベットの方が全長とホイールベースが少し長く、全高が少し高いものの、そのサイズ感はほとんど変わらない。ぎゅっと凝縮された、シャープな印象だ。

インテリアは運転席まわりをぐるりと取り囲むコクピット風デザインが印象的。使われているレザーや樹脂類の質感も、ウインカーレバーとワイパーレバーを除けば良好で、安っぽさは感じない。同クラスのヨーロッパ製スーパースポーツカーが2000万円台ないし3000万円以上で販売されていることを考えれば、このクォリティ感で1180万円(2LT)の値付けはバーゲンといっていい。

だからといってパフォーマンスを妥協しているわけでもない。エンジンはスモールブロックの名を引き継ぐ6.2L V8自然吸気で502psと637Nmを発生。ミッドシップレイアウトの良好なトラクションとシボレー初の8速DCTを生かし、0→100km/h加速は2.9秒で駆け抜ける。3秒を切る加速タイムは欧州製スーパースポーツの中でもまだ少数派なので、コルベットの運動性能は世界最高峰といって間違いない。

ただし、実際に路上を走らせてみると、そんな過激さを一切感じさせないところがC8コルベットの最大の特徴といえる。まず、タイヤのあたりがマイルドで乗り心地は良好。フロントミッドシップで究極のコーナリングを追求した先代C7コルベットZの初期型が、タイヤから常にコツコツとしたショックを伝えていたのと比較すると、むしろこちらの方が快適に感じられるほどだ。

画像: ドライバー側に傾けられたセンタークラスターはコクピット感満載。Dシェイプハンドルも特徴。

ドライバー側に傾けられたセンタークラスターはコクピット感満載。Dシェイプハンドルも特徴。

NAエンジンらしいレスポンス。大排気量なのに扱いやすい

アメ車らしいといえば、ステアリング中立付近のゲインを過度に高めていないのも欧州製スーパースポーツカーとは異なる点で、高速クルージングではリラックスしてドライブできる。もっとも、直進付近が不感帯になっているわけではないので、クルージング時の微妙な走行ラインの修正は容易である。この点は、常に右か左にハンドルを切っていないと直進できなかった、大昔のアメ車とは大きく異なる点である。

今回は本格的なコーナリングを試すチャンスはなかったものの、足まわりの設定がもっともハードなレーストラックモードではほどよくロールが抑えられていたので、ワインディングロードでの走りも期待できそう。これは別の機会にぜひ、確認したいところだ。

最高出力が軽々と600psを超す最新のスーパースポーツカーに比べれば、502psのV8エンジンがもたらす加速感はややおとなしく感じられる。正直にいうと、0→100km/h加速が2.9秒と聞いて「え、そんなに速いの?」と驚いたくらいだ。

ただし、シェビーのスモールブロックは相変わらず吹き上がりがシャープで嫌なバイブレーションも皆無。そしていかにもNAエンジンらしい自然なレスポンスと扱いやすいトルク特性が印象的だった。

快適性と運動性能の両面でC8が旧型を凌駕しているのは間違いなさそう。そうした進化はミッドシップを採用し、シャシ全体のレベルアップを図ることで実現したと推測される。つまり、車両レイアウトはガラッと変わっても、コルベットとしては紛うことなき正常進化だったといえるだろう(文:大谷達也/写真:小平 寛)

画像: 気筒休止、ドライサンプオイルシステムを採用する6.2L V8自然吸気エンジン。これに8速DCTを組み合わせている。

気筒休止、ドライサンプオイルシステムを採用する6.2L V8自然吸気エンジン。これに8速DCTを組み合わせている。

シボレー コルベット クーペ2LT主要諸元

●全長×全幅×全高:4630×1940×1220mm
●ホイールベース:2725mm
●車両重量:1670kg
●エンジン:0→100km/h加速は2.9秒8 OHV
●総排気量:6153cc
●最高出力:369kW(502ps)/6450rpm
●最大トルク:637Nm/5150rpm
●トランスミッション:8速DCT
●駆動方式:MR
●燃料・タンク容量:プレミアム・70L
●EPA総合モード燃費:8.0km/L
●タイヤサイズ:前245/35R19、後305/30R20
●車両価格(税込):1180万円

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