4輪、2輪メーカーであるホンダは創業当初から日々の生活を支えるライフクリエーション事業に力を入れてきた。その展開は耕うん機や芝刈機など大きな広がりを見せているが、中でもいま注目を集めるのが「船外機」を扱うマリン事業。「意外と知らないホンダ」を追う第2回はマリン事業部長 佐藤公亮 氏に話をうかがった。(インタビュアーはMotor Magazine誌 千葉知充編集長)

ホンダ マリン事業部とは

ホンダが船外機事業に参入したのは1964年。このジャンルでは後発だったが、安易にライバルを真似ることなく、環境性能に優れる4ストロークとどんな船体にも対応する汎用性にこだわってきた。船体を開発しないことが特徴のひとつだったが、近年はプレジャーボート市場の拡大に対応し、ボートビルダーとのコラボレーション、共同開発にも力を入れており、市場を変えるメーカーになるのではないかと世界から大きな注目を集めている。ホンダのライフクリエーション事業の中でも独特な事業になっている。

画像: 佐藤公亮(本田技研工業株式会社ライフクリエーション事業本部マリン事業部長):1986年に本田技研工業株式会社へ入社。1年の実習を経てパワープロダクツ部門(現在のライフクリエーション事業本部)に配属。その後、国内4輪販売を経験した後、東アジアのパワープロダクツ、カナダの2輪とパワープロダクツの営業を担当する。2001年、カナダから帰国して以来、主にマリン事業に携わる。2018年から現職となる。

佐藤公亮(本田技研工業株式会社ライフクリエーション事業本部マリン事業部長):1986年に本田技研工業株式会社へ入社。1年の実習を経てパワープロダクツ部門(現在のライフクリエーション事業本部)に配属。その後、国内4輪販売を経験した後、東アジアのパワープロダクツ、カナダの2輪とパワープロダクツの営業を担当する。2001年、カナダから帰国して以来、主にマリン事業に携わる。2018年から現職となる。

創業者の理念「水上を走るもの、水を汚すべからず」を実践

──これまで、マリン事業にどのように携わってきましたか。

佐藤氏 「海外を担当するようになって、東アジアでは商業ユース、カナダではプレジャーユースと、まったく違う用途のマリン領域を現場で見てきました。ライフクリエーション事業の中で唯一、水上で活躍する商品を扱う事業であり、面白くて可能性のある分野だと感じています」

──ホンダが船外機の市場に参入したのは1964年のことですが、ホンダならではの特徴とは、どういうものでしょうか。

佐藤氏 「1964年当時、国内ではすでにトーハツとヤマハが船外機事業をスタートしていました。当時は商業ユース(主に漁業)に向けた軽量で低コストな2ストロークエンジンが中心でしたが、創業者の本田宗一郎氏は『水上を走るもの、水を汚すべからず』という考え方でした。
そして早くから4ストロークの優位性に着目していたホンダは、排出ガスにオイルが混じることで水を汚してしまう2ストロークではなく、環境への負荷の少ない4ストロークエンジンを製品化しました。重量や価格面で不利な点も多いものの、その後も一貫して4ストロークの船外機を開発・販売してきました。現在、4ストローク船外機のみを揃えるのはホンダだけです」

──これまでホンダのマリン事業は、どう展開してきたのでしょう。

佐藤氏 「ホンダは日々の生活を支えることを重視した企業であり、マリン事業でも小型エンジンの船外機を中心にラインナップし、どんな船体にもマッチングすることを重視してきました。1990年代頃から世界的なプレジャーユースの盛り上がりがあり、ホンダもV6エンジンを搭載した船外機の投入などで、この分野に参入しました。
しかし、その後の米国での日本メーカーに対するダンピング訴訟やリーマンショックなどの影響もあり、マリンビジネスにもブレーキがかかってしまいました。それでも現在は、2psから250psまで24機種という豊富なラインナップを展開するようになっています」

──船体は開発しないのですか。計画はないのでしょうか。

佐藤氏 「ホンダの場合は、もともとエンジンメーカーということもあって船外機のみを開発してきました。それにはボートはローカル色が強いという背景もあります。たとえば、日本で開発したボートがそのまま世界中のどの市場でも通用するかというと、そういうわけにはいきません。それよりも世界それぞれの市場にあるボートビルダーとの関係を強化してきたのです。
ただ、オリジナルの船体を持たなかったからこそ、現在、多岐にわたるボードビルダーの要求に対して、最大限の能力を発揮する技術を熟成できたとも言えるのです」

──その好例がアメリカのコーストガード、沿岸警備隊の警備艇に搭載する船外機としてホンダが選ばれ、船体メーカーとともに高性能な高速艇を開発したということですね。

佐藤氏 「船体の優秀性とホンダ船外機の性能がマッチした結果でした。また1999年には、オーストラリアの冒険家ハンス・ソルストラップ氏が全長約5.4mの小型ボートにホンダのBF90船外機を装備、オーストラリアから日本へ約6000kmの単独航行に成功して話題になりました。このサイズのボートによる単独航行は世界初の快挙でした」

画像: 米沿岸警備隊の警備艇仕様に近い高速艇。BF250を3基がけしている。

米沿岸警備隊の警備艇仕様に近い高速艇。BF250を3基がけしている。

複数の船外機を統合制御して正確な航行を実現する方向へ

──ホンダの船外機の特徴、優秀性はどこにあるのでしょうか。

佐藤氏 「ホンダの船外機の代名詞のように言われているのが、信頼性、耐久性ですね。4輪エンジンをマリナイズ(船外機搭載用に変更)して開発してきましたが、競合他社のエンジンと比べると、4輪の設計思想や技術が生かされている分、アドバンテージがあります。燃費も他社のものより10〜15%いいと言われます」

──マリンの分野はこれからどう進化していくのでしょうか。

佐藤氏 「いくつか観点がありますが、船外機マーケットは、世界的に見てもプレジャーユースが拡大してきています。そのプレジャーユースで言えば、これまでの所有する歓びというものとは少し変わってきており、ユーザーの価値は今後変化していくと感じています」

──ホンダのマリン事業ですが、技術的にはどのように進化していくのですか。やはりハイパワー化でしょうか。

佐藤氏 「技術的には、まだまだ進化する部分は残されています。たとえば、いかにストレスなく接岸するか、水上をいかに安全に航行するかなどです。クルマの自動運転のように、より便利に、より快適に、より安全になっていくと思われます。
そして複数の船外機を巧みにコントロールする方向に行くのではないでしょうか。ただこれは船外機だけの技術では実現不可能で、ボートビルダーと一緒にやっていかないとうまくいきません。船外機も含めた一艇のボートのシステムとして、センサーやデバイスも含めて、開発していかなければならないでしょう。
世界的には、マーキュリー社がV12の600psエンジンを開発して市場が盛り上がっていますが、大きなパワーのエンジンを一基搭載することに加え、複数のエンジンを搭載するニーズも高まっています。そのほうがコントロールしやすいし、万が一、故障の際にも安心ですから。そこはホンダの得意とするところです」

──ありがとうございました。

佐藤氏 「今後もホンダマリンに期待してください」

(聞き手:Motor Magazine編集部 千葉知充/まとめ:松本雅弘/写真:井上雅行)

This article is a sponsored article by
''.