2009年、かつてない規模の大がかりなマイナーチェンジが実施されたポルシェ ボクスターS/ボクスター、ケイマンS/ケイマンが日本に上陸した。エンジンが一新され、7速PDKトランスミッションが搭載されたその内容は、「次期モデルの先取り」とも言われた。ミッドシップレイアウトを採用する2つのモデルの味わいはどのようなものだったのか。Motor Magazine誌では上陸したばかりの4台の試乗テストを行っている。今回はその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年6月号より)

新エンジンの豊かな伸びと巧みなPDKのマナー

昨年(編集部註:2008年)末に開催されたロサンゼルスモーターショー。その舞台で発表されたマイナーチェンジ版ボクスターとケイマンの「フルラインアップ」が、この度、日本へと上陸した。

国際試乗会での記憶を蘇らせるべく、まずはすでに触れた経験のあるスペックの持ち主であるボクスターSから改めてのチェック走行をスタートする。即座に痛感させられるのは、排気量をキープしつつも基本構造の新開発とシリンダーヘッドの直噴化によってパフォーマンスをアップさせた、新エンジンが生み出すパワーの強力さだ。

スターターモーターが回り、エンジンに火が入った瞬間の「完爆音」がその迫力を増したことで、従来型に対するパワーアップの程を予感させる。そしていざ走り出せば、そうした予感はむしろ想像以上のレベルで当たっていることを教えられる。

端的に言って、従来型ユニットに対するカタログ上での出力/トルク差=15ps/20Nmよりも、さらに大きな違いを実感させられる。中でも、高回転域に掛けてのパワーの伸び感の豊かさは新型エンジンの独壇場。これで燃費も上回るのだから、(自分のような)従来型ユーザーにとっては悔しさ百倍なのが、この心臓でもある。

PDKのコントロールの巧みさと滑らかさは、国際試乗会で得られた好印象がそのまま反復された。静止状態からブレーキをリリースし、アクセルペダルを踏み加えて加速態勢に移る際のスムーズさは、数あるDCT(デュアルクラッチトランスミッション)搭載車の中にあってもトップクラスだし、シフトプログラムも日本の交通環境下で用いて何の違和感も覚えないものであることを、今回改めて確認した。

ただし、そんなPDKにも弱点が皆無というわけではない。ひとつは、ブレーキペダルをリリースしてから、実際に後輪へエンジントルクが伝達されるまでに、わずかなタイムラグが存在することだ。

クリープ力によってわずかにクルマが前進するのを感じてから、アクセルペダルを踏み込み「本格的な加速態勢」に移るという日常シーンでのコントロール下では、それはほとんど気にならない。しかし、そんなほんの数分の1秒を待てずクリープ力発生前にアクセルペダルを踏み込むと、逆にそんなわずかな空白時間が増幅されて感じられる。

実はこの現象は、一瞬の間隙を縫って流れの中に身を投じるという走りのモードとなる、ヨーロッパではよく見られるラウンドアバウト(ロータリー)への進入の際に最も顕著に感じられるものだった。そしてそれは、実はPDKに限らずDCTを採用した多くのモデルで同様の現象でもあるだけに、すでにこの種のトランスミッションを用いる多くのメーカー内では検討課題となっている部分かも知れない。

画像: 新設計の3.4L水平対向6気筒エンジンを搭載するボクスターS。試乗車はPDK仕様。爽やかな高原のワインディングロードを走り抜ける。

新設計の3.4L水平対向6気筒エンジンを搭載するボクスターS。試乗車はPDK仕様。爽やかな高原のワインディングロードを走り抜ける。

もう一点のウイークポイントは、ポルシェPDKならではのデザインに関する課題。そう、すでに世界で多くの人から指摘を受けているというステアリングシフトスイッチの「押してシフトアップ、引いてシフトダウン」という操作方向に関してだ。

確かにこれは、慣れが解決する問題かも知れない。だがそれゆえ、すでに「逆方向」の操作に慣れてしまっている当方にとっては、このシフトスイッチが使い辛いことこの上ない。実際、今回のテストドライブ中も敢えてこのスイッチは一度も使わず、マニュアル操作はすべてフロア上のセレクターレバーでやり通した。

毎度のコメントをここでも繰り返すことになるが、もはや世の中に複数のパドル/スイッチ操作法が定着してしまった現在、「ドライバーの好みに応じてその入力設定を変えられる」というユーザーフレンドリーな設定を各メーカーに何とか構築してもらいたいものだと思う。

フットワークのテイストが、従来にも増してしなやかさを身につけたのは、すでに国際試乗会での印象として報告されている事柄。それは、やはり今回のテストモデルに乗っても同様の印象である。その一方で、「オープンボディのボクスターに19インチのオプションシューズは、ちょっとやり過ぎ」という印象を抱いたのもまた真実。

高速クルージング中は、足の動きの軽やかさでもボディのコントロール性でも十分な満足レベル。が、速度が落ちるに従って突き上げ感を強く覚えるようになってくるのは、大径シューズゆえの見栄えの良さとトレードオフの関係というところだろう。

ちなみに、ハンドルを切り込んだ一瞬のノーズの刹那的な動きが同行のケイマンS以上にシャープと感じられたのも、標準装備の18インチを履くケイマンSとのシューズの違いに起因すると考えられる。かくして、意外にも様々な方面で影響大なのが18インチから19インチへのドレスアップである事柄は知っておいてもらいたい。

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