2021年10月19日、北米ホンダは新型シビックにSiモデルを投入することを発表した。日本では高性能なシビックと言えばタイプRばかりが注目されているが、実は1984年に3代目に設定された「Si」もまた、「RS」に始まったホンダスポーツスピリッツの正統を受け継いでいる重要なモデルだ。国内外でのその人気ぶりを振り返りながら、新しいSiの日本上陸への期待値を占ってみたい。後編は、日本とはだいぶ違う北米の事情を紹介しよう。

北米では「特別なシビック」として愛され続けてきた

画像: 2005年11月にシカゴオートショーで公開された8代目シビックベースのSi プロトタイプ。2ドアクーペでDOHC16バルブ i-VTECユニットは200psを発生。クロスレシオの6速MTが組み合わされていた。

2005年11月にシカゴオートショーで公開された8代目シビックベースのSi プロトタイプ。2ドアクーペでDOHC16バルブ i-VTECユニットは200psを発生。クロスレシオの6速MTが組み合わされていた。

かつて日本でも一時、「Si」が復刻したことがある。1991~1992年にかけて発売された、シビック20周年のアニバーサリーモデル(EG5)だ。もちろん搭載されていたのは、ZC型エンジンだった。

一方、1986年に3ドアハッチモデルでの設定がスタートした北米でも、1988年に一時、ラインナップからSiが消滅。だが翌1989年には復活、以来すべての世代で設定が続けられている。トップofシビックとしての地位こそ途中でタイプRに譲ってはいるものの、パフォーマンスリーダーとしての矜持はいまだに色あせていない。

歴代Siを通して一貫して採用されているメカニズムが、独自にチューニングされたサスペンションとヘリカルLSDだ。大径かつ軽量なアルミホイール、スポーツチューンエキゾーストなどがとともに生み出すダイナミックな走り味は、スタンダードなシビックとは一線を画す。代を重ねるごとにフィーリングが熟成されていく6速MTも、Siの価値を高めるデバイスのひとつだ。

画像: 8代目に設定されたMUGEN仕様のSi。専用チューンのサスペンションは、ツインリンクもてぎでセッティングが施された。車高は15mm下げられ、ダンパーは従来比8~24%ほど減衰力が引き上げられている。18インチアルミホイールは、標準の17インチより約27%軽量化。

8代目に設定されたMUGEN仕様のSi。専用チューンのサスペンションは、ツインリンクもてぎでセッティングが施された。車高は15mm下げられ、ダンパーは従来比8~24%ほど減衰力が引き上げられている。18インチアルミホイールは、標準の17インチより約27%軽量化。

2005年11月には、シカゴオートショーに、Siのプロトタイプ(2ドアクーペ)モデルを出展。これは北米市場にSiが登場してから20周年を祝うものだった。同年12月に8代目の市販モデルが公開されている。

また2006年秋にはセダン Siを発売するが、2008年10月にはこれをベースにMUGENが手を入れた限定モデル(2008年は1000台限定)も登場している。米国ホンダはこうしたカスタマイズモデルの導入に積極的だ。そうした大らかさが逆に、タイプRとはまた違う「Siファン」を生み出す土壌を育んできたのかもしれない。

Siだってサスティナブル? 2.4Lから一気に1.5Lターボにダウンサイジング

画像: 2015年の改良で、一気に上質感が増した9代目シビックのSi(クーペ)。サスペンションのセッティングにも手が入れられている。

2015年の改良で、一気に上質感が増した9代目シビックのSi(クーペ)。サスペンションのセッティングにも手が入れられている。

興味深いのは、搭載されてきたエンジンの変遷かもしれない。いわゆる欧州仕様と異なる北米仕様が販売され始めた8代目では、2L 直4 DOHC16バルブ i-VTECユニット(K20Z型)を搭載。最高出力197ps/8000rpmを発生していた。

しかし、2012年の9代目シビックでは、2.4Lに排気量を拡大。アキュラのプレミアムスポーツセダンILXにも搭載されるK24Z7型は、最高出力を205ps/7000rpmまで高められ、最大トルクも236Nm/4400rpmを発生した(2015年モデル)。

画像: 10代目シビックのSi。タイヤは235/40R18。2モードのアダプティブダンパーシステムを備えたスポーツチューンサスペンションとヘリカルLSD、大径のフロントブレーキローターなどが装備される。

10代目シビックのSi。タイヤは235/40R18。2モードのアダプティブダンパーシステムを備えたスポーツチューンサスペンションとヘリカルLSD、大径のフロントブレーキローターなどが装備される。

このまま大排気量化路線を突っ走るのかと思いきや、2017年のフルモデルチェンジではエンジン排気量が一気に1.5Lまでダウンサイジングを果たす。日本仕様のスタンダードモデルも、搭載していたのは1.5L直4 DOHC16バルブ 直噴VTECターボだったが、それとはだいぶ趣が異なっている。

日本仕様のハッチバックは6速MT仕様のL15C型ユニットで、最高出力は182ps/5500rpm、最大トルクは240Nm/1900-5000rpmを発生、それなりの高効率と高性能ぶりをアピールしていた。だが北米仕様のSiはこれをさらに上回り、205ps/5700rpm、260Nm/2100-5000rpmに達していたのだ。

この10代目シビックSiの場合は、パフォーマンスの高さもさることながら、なんと言ってもスタイリングのアレンジ具合がちょうどいいように思える。標準ボディにほどよくスパイスを効かせたアレンジは、上質感も兼ね備えている。スポーティなルックスは好きだけれど、タイプRはややオーバーデコレートではないか、と感じる向きには、ぴったりだろう。

スマート×ワイルドのバランスがさらに絶妙な11代目

画像: LEDヘッドライトは標準装備。標準装備の18インチ×10スポークアロイホイールは、専用のマットブラックで仕上げられている。

LEDヘッドライトは標準装備。標準装備の18インチ×10スポークアロイホイールは、専用のマットブラックで仕上げられている。

そして2021年10月19日、新たなシビックSiが北米向けに誕生した。「The best-handling and most fun-to-drive Civic Si ever」を謳うその進化には、どうしたって興味をそそられる。

11代目シビックをベースとするSiは、セダンのみに設定される。さりげなく配されたフロントスポイラーやグロスブラックの小ぶりなリアスポイラーは、控えめながら適度にスパイシーな印象をうまく表現、ダウンフォースを高める機能も担う。ドアミラーカバーやアルミホイールも、グロスブラックで統一された。華美ではないけれどとても精悍なルックスだ。

ボディは、従来モデルに対してねじり剛性が8%、曲げ剛性が13%アップされた。よりシャープなハンドリングが期待できるだけでなく、クラス最長のホイールベースとよりワイドなトレッドとあいまって、安定性とスムーズな乗り味を味わわせてくれそうだ。

タイプRから受け継いだパーツも数多い。標準のセダンより79%剛性を高めたフロントコンプライアンスブッシュをはじめ、リアコンプライアンスブッシュ、アッパーアーム、ロアアームなどが安定性を向上させる。同時にステアフィールの向上にも、こだわっているという。もともと新型シビックは非常に上質なハンドリングを魅力とするが、Siはさらにドライバーの感性に忠実な、気持ちの良いドライバビリティを実現していることだろう。

そしてなにより気になるエンジンもまた、いろいろとこだわりまくって改良が施されているようだ。仕様そのものは従来型と同じ1.5L 直4DOHC 直噴VTECターボで、最大トルク260Nmをこれまでより300rpm低い1800rpmから発生させる。一方で最高出力は200psで、ややピークはダウンしている。ただし発生回転数は6000rpmまで引き上げられ、さらに6500rpmのレッドゾーンまでその力強さをキープしているという。

画像: シフトフィールが改善された6速マニュアルトランスミッション。タイプRと同じ応答速度で反応する、レブマッチングシステムを備えている。

シフトフィールが改善された6速マニュアルトランスミッション。タイプRと同じ応答速度で反応する、レブマッチングシステムを備えている。

さらにフライホイールは従来のデュアルマスからシングルマスに変更され、26%も軽量化。慣性が30%減少しているという。6速MTはシフトフィールが改善されるとともに、新しいレブマッチングシステムを採用。わずかな応答時間で最適なブリッピングをサポートしてくれるという。

これはもう、高回転まで目いっぱい回しながら素早いシフトチェンジが満喫できる、とんでもなくエキサイティングな走りに仕上げられているに違いない。

MTの比率が3割越え。「待っているファン」はきっといる!

画像: ドア、ステアリングホイール、センターアームレスト、シフトブーツ、シフトノブやスポーツペダルなどに、赤いコントラストステッチを配している。

ドア、ステアリングホイール、センターアームレスト、シフトブーツ、シフトノブやスポーツペダルなどに、赤いコントラストステッチを配している。

早く乗ってみたい!と、Siの導入を熱望している日本のシビックファンは、きっと少なくない。実際、日本に導入された新型シビックは、初期のセールスでおよそ35%のオーナーが6速MT仕様を選んでいるという。

もっとも、普通に考えるなら、5ドアハッチバックのみしかラインナップされていない日本市場にセダンボディのSiが導入される可能性は、やや厳しいかもしれない。だがそもそも「マニュアル車を導入してみよう」というセールス戦略の方向性そのものに、期待感が募る。

正直、筆者自身もタイプRでは手に余ると考えている。でもどうせなら、もっとスポーティ&パワフルなシビックを楽しんでみたい・・・実を言えば若かりし頃、初めて手に入れた新車「CR-X Si」でクルマを操ることの面白さと醍醐味を教えてもらった「元オーナー」からの、切なる願いである。(文:Webモーターマガジン編集部 神原 久/写真:本田技研工業)

■シビック 新型Si <ハッチバックSport>主要諸元比較(ともに北米仕様車)

●エンジン種類:1498cc/直列4気筒DOHC 16バルブ/VTEC直噴ターボ
●最高出力:200hp/6000rpm<180hp/6000rpm>
●最大トルク:260Nm/1800-5000rpm<240Nm/1700-4500rpm>
●トランスミッション:6速MT(レブマッチングシステム付)
●サスペンション前/後:ストラット/マルチリンク
●全長×全幅×全高:4674×1801×1415mm<4547×1801×1415mm>
●ホイールベース:2736mm
●トレッド 前/後:1537/1565mm<1547/1565mm>
●空車重量:1339kg<1330kg>
●タイヤ:235/40R18

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