世界的な脱内燃機関のトレンドにけん引される形で、英国車の大排気量・大出力V8ユニットたちもまた時代に見合った「変化」と「覚悟」が求められている。剛と柔が絶妙にバランスした奥深き味わいを楽しめる時間は、それほど長くはない。(Motor Magazine2021年11月号より)

ブランドを巡る環境の変化がV8への取り組みを加速

「V8」でイメージされるのは断然、アメリカ車だ。自動車の黎明期、車体の大型化に伴うエンジンの高性能化を目指すプロセスにおいて、4気筒に続くのは6気筒ではなく、直4をVの字に組み合わせたV8エンジンだった。それを、いち早くモノにしたのがアメリカンブランドだったのだ。

ヨーロッパは、戦前のレーシーな直8エンジンを除くと8気筒に目覚めるまでに随分と時間を要したように思われる。アメリカ車ほど「大きく重たく」する志向がなかったから、とも言えるだろう。

けれどもたとえば英国でロールス・ロイス&ベントレーが独自のV8エンジンを1950年代末になって開発し、高級車&高性能車はアメリカと同様に8気筒というイメージが定着し始めると、そのほかのブランドも8気筒の導入を真剣に考え始めた。それはアメリカ市場を無視した高級車ビジネスは、今も昔も成り立たないからだ。

元はGM設計のアルミニウムブロックを持つV8 OHVエンジンなどは、ローバーがその製造権を獲得し、基本設計を変えることなく改良を加えて世紀の初頭までランドローバーやレンジローバー、TVRに搭載されていた。

面白いことにアストンマーティンが比較的早く、1970年代に独自の贅沢設計なV8 DOHCエンジンをモノにしていたにもかかわらず、ジャガーは頑なにV8エンジンを拒んでいたように思う。なにしろ当時の彼らには二種類の名機があった。直6のAJ6と、V12である。要するに、彼ら的には「こと足りていた」のだ。アメリカ人のV8好みに対して、「なにするものぞ」と胸を張ってみせるだけの気概があったのだろう。

事情が変わってしまったのは1990年代後半のこと。そんなジャガーがV8エンジン=AJ-V8を積むことになった。元はといえば1980年にジャガーはフォードによって買収され、ランドローバーやアストンマーティンとともにPAGを形成することになったことが、きっかけだったと言っていい。

後に同じグループとなったジャガー&ランドローバーの最新にして最後のV8が、AJ133と呼ばれる新設計ブロックを持つ直噴ユニットだ。自然吸気とスーパーチャージャー付きが用意される。中でも最高出力575に達する最強仕様のAJ133を積んだFタイプ Rクーペは、内燃機関ジャガー「最後の晩餐」というべき究極の仕様だ。

画像: ジャガー Fタイプ Rクーペ。落ち着きの中にスパルタンさを秘めた走りが魅力的だ。

ジャガー Fタイプ Rクーペ。落ち着きの中にスパルタンさを秘めた走りが魅力的だ。

Fタイプは2012年にデビューした。その名も示すとおり、Eタイプ後継という非常に高い志を掲げて登場する。当初はV6とV8をラインナップ、その差別化の曖昧さからかえって本格的な2シータースポーツカーというキャラクターの持ち味が薄れてしまったけれど、後に6気筒を廃して直4ターボへとダウンサイジングし、さらに大胆なフェイスリフトを行うなど、モデルライフ9年にして完熟の域に達した本格派FRスポーツだ。

中でもこのRクーペは、完熟の域に達している。SVO(スペシャル ヴィークル オペレーションズ)が産んだジャガー史上最強のロードパフォーマンスを誇るXE SVプロジェクト8の心臓部に由来する575psユニットを積んだ、レギュラーシリーズとしてはおそらく最終決定版である。

8速ATと4WDを組み合わせたパワートレーンは、落ち着いた走りの中、ところどころに狂気を感じさせるスパルタンさを表現する。その走りは、モダンジャガーの真髄と言っていい。乗り心地は決して硬きに徹することなく、けれども十分にフラット、サーキットでも存分に楽しめた。タイトコーナーの連続では、意のままに動くノーズとギリギリまで耐え忍ぶ可変ショックの足、そして加減速の官能的サウンドに「コーナーよ、もっと続け」と思った。安定したコーナリング姿勢も、ドライバーを大いに喜ばせてくれる。

エンジンフィールは古典とモダンが入り混じった、とても味わい深いものだった。ジャガーはもうすぐフルエレクトリックブランドに転身するわけだが、「もうちょっと先延ばししてみない?」と言いたくなるほど、趣味性の高いエンジンにまで熟している。否、次がないからこそ、そうなったのか。今のうちに味わっておきたい名機のひとつであろう。

This article is a sponsored article by
''.