車種を増やしつつあるBEVを見て「次はBEVに乗ろう」と思う人もいるだろう。しかしBEVにはエンジン車と異なる点も多い。本パートではBEVに乗るなら知っておきたい知識を紹介する。(Motor Magazine2022年1月号より)

バッテリー容量70~80kWhでの満充電航続距離は400~500km

昨今、自動車業界のトレンドは「電動化」だ。日本にはさまざまな選択肢が存在するが、今回は知っているようで知らないことの多いBEVについて解説したい。

BEVはバッテリーの電力を使いモーターで駆動を行う。その特徴は内燃機関と違って「応答遅れ」はゼロ、アクセルペダルを踏んだと同時に加速が始まるという点だ。なぜ、それが可能かと言うと、モーターの特性によるもので、流した電気の量に比例して駆動力を発生するからだ。

加えて、BEVは変速機が基本的には不要のため、変速のタイムラグやショックとも無縁。つまり、内燃機関が長きにわたって進化させてきた「滑らかでスムーズな走り」を、簡単に実現する。

一般的に「BEVは内燃機関のように走りの個性が出しにくい」と言われがちだが、それは大きな間違い。内燃機関は圧縮比やボア×ストロークなどの基本設計の段階で特性が決まるが、モーターは制御技術を活かすことで自由自在な味付けが可能。つまり、ハードを変えずに「エコ」にも「スポーツ」にも化けることができる。

これを活かせば、各メーカーが長きにわたり積み上げてきた「走りの味」や「独自の個性」を内燃機関よりも緻密かつ忠実に反映可能。筆者は各社の「らしさ」は、これまで以上に際立つと考えている。

さらにBEVはクルマ自体の概念を変える要素も持つ。たとえば、モーターは内燃機関よりも搭載位置の自由度が高く、極論を言うと「どこにでも搭載可能」だ。それを活かして、クルマの用途やキャラクターに合わせた理想のパッケージングの構築が可能だ。4WD化する際も前後の車輪を機械的につなぐプロペラシャフトが不要で前後のモーターを独立制御すればOK。その結果、フロアは完全なフラット形状にできる。

BEVのキモとなるバッテリーはキャビンの床下にレイアウトされるが、居住性を犠牲にすることなく多くのバッテリーを搭載するには全高が高いモデルが有利だ。現在発売中のBEVがクロスオーバーSUVをベースにしたモデルが多いのは、そのためである。

モーターを駆動させる電力はバッテリーから供給されるが、当然使えば減るので、スマホと同じように充電を行う必要がある。参考までにバッテリー容量が70~80kWhで航続距離が400~500kmというのがひとつのスタンダード。バッテリーをたくさん搭載すれば航続距離は上がるが、同時に車両重量も重くなるので、そのあたりのバランスも大事だ。

画像: 現在のBEVの多くは、多数のバッテリーセルをケースに収め、それをさらに車体床下などに集積して大容量化を図っている。

現在のBEVの多くは、多数のバッテリーセルをケースに収め、それをさらに車体床下などに集積して大容量化を図っている。

BEVを使うにあたり知っておきたい充電の知識

充電方法は大きく分けると「普通充電」と「急速充電」がある。 普通充電は一般家庭などに引かれている交流電流を用いた充電で、単相の100Vもしくは200Vのコンセントを使用する。家電と違って多くの電力が必要となるので専用の工事は必要となるが、自宅にも安価(10万円前後が相場)に設置が可能だ。

ちなみに「充電量=出力×時間」なので、バッテリー容量が大きいモデルになればなるほど満充電まで時間がかかる。そのため、一晩充電してもフルチャージにならないケースもあるので注意が必要。速く充電するには出力を上げる必要があるが、現在は3~6kWが一般的である(ポルシェは8kWも用意)。

急速充電は直流電源を用いた充電で、電源には3相交流200Vを使用する。高速道路のSA/PA、カーディーラー、商業施設、コンビニなどに設置されている。自宅に普通充電施設がないユーザーにとっては重要なライフラインになる。

出力は各充電器の性能によって異なり20~50kWが多く、最近は大容量タイプの設置も進められているが、クルマ側がそれに対応していないケースもあるので注意。急速充電は30分/回が基本。空いていれば追い充電は構わないが混雑時は避けるべし。当然、充電終了後の駐車場占拠はNGだ。

ちなみに初代リーフが登場した時は「30分で8割まで充電」が謳い文句だったが、最新の大容量バッテリーモデルはそうはいかず・・・。さらに充電器の出力は施設によってまちまちなうえにその判別もパッと見では難しい。このあたりはスマホの充電施設検索アプリに細かく掲載されているので、それを上手に活用するのが得策だ。ポルシェのように独自の充電施設(ターボチャージャー)を用意するブランドも存在する。

画像: 滞在時間が短いSAなどには急速充電器(写真)が、長時間滞在する施設には普通充電器が設置されることが多い。

滞在時間が短いSAなどには急速充電器(写真)が、長時間滞在する施設には普通充電器が設置されることが多い。

購入時は補助金を活用。維持費はICEと大差なし

気になる経済性はどうか? 一番大きいのは購入時の補助金である。BEVは同等クラスの内燃機関モデルに対して高価だが、国や自治体の補助金制度を活用するとかなり現実的な価格に。ただし、定められた期間の保有義務が条件となるので注意が必要だ。

充電料金はユーザーの使用環境や条件によって差が大きいため詳細は割愛するが、多くのケースで燃料代よりも抑えられる。さらに日常のメンテナンスコストはオイル交換の必要性がないなどBEVに若干の優位性はあるが、それほど大きな差ではない。

「BEVは自分とは関係ない」と思っている人は、BEVへの理解が高まると現実的な選択肢のひとつになってくるだろう。個人的には、まずは「食わず嫌い」をやめて試してみることが一番だと思っている。(文:山本シンヤ)

画像: 集合住宅の方がBEV購入時に気をつけておきたいのが充電場所の確保。パレット式駐車場では車重が重くなりがちなBEVに対応しているかの確認も必要だ。

集合住宅の方がBEV購入時に気をつけておきたいのが充電場所の確保。パレット式駐車場では車重が重くなりがちなBEVに対応しているかの確認も必要だ。

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