2009年、BMWとしては初となる、いわゆるSUVセグメントのMモデルが登場した。「X6 M」「X5 M」は、BMWでもっともパワフルな量産型エンジンの4.4L V8ツインターボを搭載、怒濤のパフォーマンスを誇ったが、従来のMモデルの方程式からすると異例な部分も多かった。ここでは当時、アメリカ・アトランタで開催されたX6 Mの国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年9月号より)

2.3トンにもなる重量級ボディのSUVで『M』モデル開発にトライ

独自チューンによる高回転・高出力型の自然吸気エンジンに、MTもしくはそれをベースとした2ペダル式トランスミッションの組み合わせ。これこそが『M』モデルに欠かせないアイテムと考えているとしたら、このモデルの出現に大いなる戸惑いを覚えるかも知れない・・・。まずはこうしたフレーズから始めるべきなのがX5 M/X6 Mだ。 

そもそも、(BMWではSAV/SACというカテゴライズをアピールしつつも)世間一般にはSUVと認識されるこうしたモデルで『M』にトライをするのも初めてならば、BMWブランド車では標準化を推進しつつもこれまでM車には頑なに用いることのなかったランフラットタイヤを採用したり、トルコン式ATを用いたりと、異例づくめなのがこれらのモデル。 

そんなニューモデルの国際試乗会は、アメリカ南東部アトランタをベースに開催された。イベントにこの地が選ばれたのは「ベースとなるX5/X6の生産がアメリカ工場で行われているから」。ただし用意されたモデルは同時に発表されたX5 Mはなく、X6 Mに限定されていた。

X6に対して前後バンパーを中心にモディファイが行われたX6 Mのルックスは、まずはフロントマスクが「大開口デザイン」に改められたことでハイパフォーマンスモデルらしさが強調されているのが印象的。実質的にツートーンを装っていたボディロワセクションのブラック色が減じられたのは、「オンロード志向が強まったことをアピールするため」だという。テールエンドに姿を見せる「クワッド・テールパイプ」は、昨今のM車に共通するアイテムだ。

「一番高いの持ってこい!」という注文主をも納得させられるに違いない上質なキャビンへと乗り込み、早速エンジンに火を入れる。瞬時に完爆に至る心臓が吐き出す迫力ある排気サウンドが響く。しかし想像していたよりも幾分ボリュームが小さいのは、2基のターボチャージャーによって排気のエネルギーが回収されているゆえか。

ちなみに、このモデルの心臓のターボチャージャーは、90度バンク間に一体型マニホールドや触媒コンバーターなどとともに極めてコンパクトに収まるという設計。「左右バンクからの排出ガスを一体型のマニホールドに流す」という技術は、BMWが特許を有するものであるという。

画像: 豪快なフロントマスクに比べるとリアデザインの変更はおとなしめで、エレガントな雰囲気も醸し出している。Mのエンブレム、クワッド・テールパイプが印象的。

豪快なフロントマスクに比べるとリアデザインの変更はおとなしめで、エレガントな雰囲気も醸し出している。Mのエンブレム、クワッド・テールパイプが印象的。

自然かつ強烈な加速感、Mの新たな概念の開拓

そんなスペックは事前に知りつつも、いざ走り始めるとそれがターボ付きであることを忘れてしまうというのが、実はこのモデルの走りでの最大の特徴だ。555psという怒涛のパワーもさることながら、680Nm という強大な最大トルク値を1500(!)〜5650rpmという幅広いゾーンで生み出すのがこの心臓。実際、そんなキャラクターは現実のテイストとも符号するもので、走り出しの瞬間からのアクセルワークに対する反応も、「本当はメカニカルスーパーチャージャーの持ち主ではないのか!?」と、そんな錯覚すら呼び起こすものだ。

ツインターボ付きとはいえ、「ある領域から急激にパワーが盛り上がる」という特性とはまったく異なるのがこのモデルの加速感。しかし、だからと言ってそれが決して退屈というわけではないのは、0→100km/h加速タイムがわずかに4.7秒というデータからも明らかだろう。

さらに、強力な加速の印象をより好ましいものとしているのがATの出来栄え。とくに、マニュアルモードを選ぶとまるでMTのようなタイトな繋がり感で素早いシフトを行う様は、そこで発生する多少のシフトショックすらも「スポーツ走行には相応しいメリハリの表現」と好意的に受け取らせてしまうほどだ。

そんな強心臓を迎え入れるべく、当然フットワークも強化されている。

10mmのローダウンを含む専用チューンのサスペンションやアクティブスタビライザー、リアのヨーコントロールシステム、電子制御式可変減衰力ダンパーなどはいずれも標準のアイテム。

そして実際に、それらが決してカタログを飾るためだけのギミックなどではないことは、常用シーンではとても2.3トン級のモデルとは連想させない自在なハンドリングの感覚を実現させていることからも容易に納得できる。

一方、そうは言ってもこれがM3やM5、M6といった既存のMシリーズモデルとは異なる世界に棲むモデルであることは、サーキットコースを真剣に攻め込むとそこでは容易に補正のならない強いアンダーステアを示し、さしもの巨大なブレーキシステムをフェード現象に至らすことなどから認めざるを得ない。

しかし、そんなサーキット走行を到底SUVとは思えないテンポでこなし、かつ一方では3トンに達する牽引力を許容するというこのモデルのポテンシャルはやはり只者ではない。「M車の新しい概念を開拓するモデル」、X5 M/X6 Mとは、そんな最新モデルでありそうだ。(文:河村康彦)

画像: Mモデルとしては初めて6速トルコン式ATを採用。シフト操作はパドルでも可能。

Mモデルとしては初めて6速トルコン式ATを採用。シフト操作はパドルでも可能。

BMW X6 M 主要諸元

●全長×全幅×全高:4876×1983×1684mm
●ホイールベース:2933mm
●車両重量:2305kg
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●排気量:4395cc
●最高出力:408kW(555ps)/6000rpm
●最大トルク:680Nm/1500-5650rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●EU総合燃費:7.2km/L
●タイヤサイズ:前275/40R20、後315/35R20
※EU準拠

This article is a sponsored article by
''.