2009年、W212 メルセデス・ベンツ Eクラス セダンのワールドプレミアから時間をおかず、そのハイパフォーマンスモデル「E63 AMG」が世界市場に向けて投入された。日本市場では7月に発表となるが、その前にMotor Magazine誌はドイツ本国で試乗テストを行っている。ここではその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年9月号より)

中身はベースのEクラスとは違った次元のパフォーマンス

主力モデルである「63 AMG」シリーズに、AMG完全自社開発のV型8気筒DOHCユニットを投入した2006年が、AMGにとってひとつの大きな転機だったのだろう。単なるメルセデスの最上位版ではなく、そして高い動力性能を持つというだけでなく、メルセデスとは別物の圧倒的な走りの世界を備えたモデルたること。AMGの目は今、そうした方向に向いているように思

6.2Lという排気量にしては異例の高回転型に躾けられたこのエンジンは、まさにその扉を開くものだったと言えるだろう。そしてC63 AMG、SL63 AMGといった最新モデルでは、その方向をさらに推し進めて、従来考えられなかった「過激な」と表現してもいいほどの新しい走りの世界を築いているのだ。

さて、では新型Eクラスのデビューから4カ月という異例に短いタイミングでリリースされた新型E63 AMGは、一体どんなモデルなのか。

画像: ブレーキは全輪に360mmのドリルドVディスクを装着。前輪にはコンポジットディスクが採用されている。

ブレーキは全輪に360mmのドリルドVディスクを装着。前輪にはコンポジットディスクが採用されている。

重要なのは、これがAMGにとってはまさにドル箱、販売の主力を占めるモデルだということである。つまりE63 AMGの進化は、そのままAMGの今後進む道を示していると言っても過言ではないのだ。

この新型E63 AMG。まず見た目に関しては、それほど大きな驚きはないと言っていいだろう。大型化されたフロントスポイラーやディフューザー形状のリアバンパー、4本出しのエグゾーストエンドなど、追加されているアイテムはほとんど定番と言っていい。

しかし、よく目を凝らしてみると、実はフロントフェンダーは微妙に広がっているし、4輪ともキャンバーがぐっとネガティブに寄せられているのがわかる。そう、E63 AMGの第一のハイライトがこのシャシである。

フロントサスペンションにはトレッドを56mm拡大した専用設計品が奢られ、ネガティブキャンバー化のみならずジオメトリーも一新。ステアリングギア比も14:1へと速められている。リアもサブフレームマウントを見直すなど、やはりベースモデルとは別物とされているのだ。

面白いのは従来の前後エアサスペンションに代えて、フロントに金属スプリング、リアにエアスプリングという組み合わせを採用していることである。これはひとえにフロントの操舵応答性を高めるため。一方でリアをエアスプリングのままとしているのは乗車人数や積載量にかかわらず常に最適な車高バランスを保つためという。なお、ダンパーは3モードに設定可能な電子制御式である。

怒涛のサウンドとともに、煽情的な力感を振り絞るV8。

エンジンはお馴染みのV型8気筒6.2Lユニットを搭載する。最高出力525ps、最大トルクは630Nmで、これはSL63AMGと共通だ。そしてもうひとつ、SL63 AMGと共用しているのが7Gトロニックのトルクコンバーターを湿式多板クラッチに置き換えたAMGスピードシフトMCT。

画像: お馴染みのV型8気筒6.2Lユニット。6208ccと同排気量ながら先代より11ps最高出力を向上させている。

お馴染みのV型8気筒6.2Lユニット。6208ccと同排気量ながら先代より11ps最高出力を向上させている。

4つのモードを切り替えて「ジェントルな走りにもスポーティな走りにも対応する」と謳うギアボックスである。それに伴ったフロアセレクターは小振りの専用品とされ、ステアリングにはマニュアル変速用のシフトパドルが装着された。

こうしてパフォーマンスアップを果たしながら、一方で燃費は欧州複合モードで12%の改善を見ているという。それを示すエンブレムなどはないが、ベース車にも使われているブルーエフィシェンシー技術がAMGにも採用されているのだ。

スペックを見ただけでも気合いのほどが伝わるE63 AMG。その走りは、やはり良くも悪くも従来のイメージを一新するものだった。

エンジンの素晴らしさについてはあえて繰り返すまでもないだろう。低速域での図太いトルク、6.2Lという排気量が信じられないほどの鋭い吹け上がり、そして怒濤のパワーは相変わらず最高に扇情的だ。

その旨味をさらに引き延ばしてくれるのがMCT。コンフォートモードでは通常のATのように滑らかなのに、SあるいはS+モードではショックも厭わず切れ味鋭い変速ぶりを見せる。とくに全開加速中には点火と燃料を一瞬カット。Mモードでパドルを使っての変速時間はなんと10分の1秒に過ぎないといい、タイムラグを一切感じさせない。

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