1980年代後半、4輪操舵(4WS)というテクノロジーが注目された。それまで転舵はフロントタイヤだけが担っていたが、リアタイヤにもある程度の舵角を与えることで、小回りが効くようにしたり、コーナリングでの安定性を高めたりする工夫が盛り込まれていた。この技術は一時姿を消したが、近年また採用車が増えている。その機構について解説しよう。

後輪に舵角を与えることで、取り回しや操縦性をアップする機構

クルマは方向を変えるときには、当然ハンドルを回す。遠心力の働かない低速では単にフロントタイヤの進行方向に向かってクルマは進行して向きを変える。遠心力の発生するスピード以上になると、そう簡単にはいかずにタイヤにスリップアングルが付き、コーナリングフォースが発生することによってクルマは旋回するということになる。

画像: 1987年、プレリュードに初採用された4WS。ギア駆動で完全アナログ式だった。リアタイアはフロントが大舵角だと逆位相、小舵角だと同位相に切れる。

1987年、プレリュードに初採用された4WS。ギア駆動で完全アナログ式だった。リアタイアはフロントが大舵角だと逆位相、小舵角だと同位相に切れる。

このときリアタイヤは通常転舵しない。そのため、先にフロントタイヤにコーナリングフォースが発生し、その影響で遅れてリアタイヤにもスリップアングルが付き、コーナリングフォースが発生するという流れとなる。つまり前後で若干のずれが生じるとも言えるわけだ。

ここでリアタイヤも同時に転舵できれば、より機敏でくるくるとコーナリングできるはずだ。これを実現するシステムを4輪操舵とか4WS(wheel steering)と呼ぶ。

画像: プレリュードは1987年に4WSを装備した。当初は低速で逆位相、高速で同位相も考えていたというが、機構的に難しく大舵角、小舵角での切換えシステムとなった。

プレリュードは1987年に4WSを装備した。当初は低速で逆位相、高速で同位相も考えていたというが、機構的に難しく大舵角、小舵角での切換えシステムとなった。

4WSを装備することによって、リアにも適切な舵角を与えることにより、狭い道や車庫入れでの小回りの良さを実現した。またフロントタイヤの転舵初期の応答性を良くしたり、コーナリングでのアンダーステアを抑えるようなことも可能になった。サスペンションの補助的な役割とも言えるだろう。

メカニカルから電子制御式へ、そして現代はさらに洗練されたものに

画像1: 「きちんと知りたい!自動車サスペンションの基礎知識(日刊工業新聞社)」より転載。

「きちんと知りたい!自動車サスペンションの基礎知識(日刊工業新聞社)」より転載。

4WSでは、リアタイヤを同位相もしくは逆位相に切る。同位相の時は、上図1のように、リアタイヤがフロントと同方向に転舵する。例えば高速道路でレーンチェンジするような場合、安定した走行が可能となる。対して上図2の逆位相では、リアタイヤが、フロントタイヤと逆方向に転舵する。この場合、狭い路地を曲がらなければいけない場合や駐車をするときに小回りがきくので取り回し性が向上する。

画像2: 「きちんと知りたい!自動車サスペンションの基礎知識(日刊工業新聞社)」より転載。

「きちんと知りたい!自動車サスペンションの基礎知識(日刊工業新聞社)」より転載。

ただし逆位相にはデメリットもある。あまり壁や他車に近いところに駐車して、ハンドルを切りながら進もうとすると、リアが外側に降り出すように動くので、接触する場合があるのだ。

また位相には逆位相と同位相のどちらかだけに制御する場合と、その両方を適切なタイミングで切り替えるシステムがある。構造的には、単に参考に挙げたプレリュードのように機械式でアナログ制御するものから、コンピューターによって最適制御するものもある。ちなみにプレリュードも、4代目では電子式に改められている。日産のスーパーHICASもまた、電子制御で油圧を使ってコントロールする4WSだ。

この機構は、実は1980年代以降流行ってから姿を消していた。当時はまだ制御が十分でなく、違和感が出るなど不完全な要素が大きかったためだ。ただし近年になってルノー、メルセデス・ベンツ、ランボルギーニなどが採用して、再び脚光を浴びている。それは現代の技術によって洗練され、より利便性が高く、操縦安定性に寄与するようになったからだ。(飯嶋洋治:FAN BOOK編集部)

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