アウディのピュアEVで初となるRSモデル
かつて用いられたクワトロ社の名称が、新たに『アウディスポーツ』に変わると発表されたのは2016年末。モータースポーツ活動やその参戦車両を含む高性能モデルの開発と生産、さらにライフスタイル製品のプロデュースなども手がけるアウディの子会社という立ち位置に変わりはないものの、そうしたネーミングの変更は当初、より即物的でわかりやすくなったと受け取れたものだ。
一方で「クワトロ」というネーミングはアウディの4WDシステムを指すものでもあったことから、「この名称変更はこの先2WDのモデルも手掛けることを予兆しているのではないのか?」と思っていたらそのとおりとなった。
アウディスポーツが手掛けるモデルの中で唯一のミッドシップレイアウトを持ち、またこのブランドのイメージリーダー的存在でもある『R8』には「RWS」と名付けられた後輪駆動モデルが設定され、最新の『RS3』に至ってはエンジン横置きで搭載するFFレイアウトベースであるモデルにもかかわらずいわゆる「ドリフトモード」を加えたり、逆にクルージング時には後輪へのエンジントルクをカットし、前輪駆動化を図ったりと、4WDを得意とするブランドでありながらも最近ではクルマのキャラクターとシチュエーションによって、あえて2輪FF駆動のモードも積極的に活用するようになっている点が興味深い。
かくして、車名変更という英断はこのところの時代の要請に応えるひとつの出来事とも受け取れるが、同じように、こちらもひとつの時代の要請では? と思えたのが、ついにピュアEVにもRSモ
デルが設定されたことだ。
ここに紹介する『RS eトロンGT』が、まさにそうした記念すべき1台である。
「ハイパフォーマンスなピュアEV」としての差別化は悩ましい
2026年以降に投入する新型車はすべてピュアEVとし、2033年を最終期限にエンジン車を段階的に終了して行くと、フォルクスワーゲングループの中にあっても電動化に向けて急先鋒のアウディだが、そこで注目されていたのがハイパフォーマンスな走りを担い、これまでは搭載エンジンにも特別にチューニングが施されたRSの記号が与えられたモデルたち。
ピュアEVとして初めて「RS」の名称が与えられたこのモデルは、そうした疑問に対する初めての解となる存在である。
これまでのRSモデルがいずれもそうであったように、RS eトロンGTにもeトロン GT クワトロというベースモデルが存在する。もっとも、既存モデルの場合と異なるのはその心臓部にベースモデルとの明確な構造上の違いが見出せないことで、出力値にこそ差が設けられてはいるものの前後のアクスルを駆動するのはいずれも「永久磁石同期式」と分類される回転子に永久磁石を用いたモーター。
そこではエンジンのようにシリンダーやターボチャージャー数が異なるといった違いもなく、クランクシャフトのベアリング数やピストンの素材が異なるといったいかにもマニアが喜びそうな仕様の違いも見られない。
部品点数が少なく構造的にも単純である分、それに纏わるヒストリー性にも欠けることになってしまうのは、とくにハイパフォーマンスを売りとするピュアEVモデルの場合、辛いところでもある。そうしたハードルを乗り越えて生を受けたのが、RS eトロンGTというモデルでもあるわけだ。