昨今の報道を見ていると、いずれ近い将来すべてのクルマがEV(電気自動車)になるかのように錯覚しそうなものがある。EVと電動化が混同され、EVに関する実情が正しく伝えられていないように思える。ここでは話題の「EV」について考えてみる。

エンジン搭載車がなくなるということは、考えにくい

ピストンエンジン対電気モーターという、次世代パワートレーンの覇権争いが勃発している。報道内容を見ると、EVシフトが遅れた日本の自動車産業はガラパゴスになり、競争力を失いかねないという新聞やテレビなどのレポートが多いが、その見方に私は疑問も感じている。

次世代パワートレーンはEVだけではなく、ニーズに応えるためにはどのようなパワートレーンがいいのかを考えることが重要だろう。エンジン車を悪者にするようなEV推進論は看過できない。

画像: エレクトリックパフォーマンスブランドとして、最初のモデルを発表したポールスター。

エレクトリックパフォーマンスブランドとして、最初のモデルを発表したポールスター。

EVが誤解されている部分があるのは、一部のメディアによる報道によって曲解されて広がったという側面もある。最近の例で驚いたのは、ボルボの電動化に関する発表だった。2017年の7月に「2019年以降に発売するすべてのモデルに電気モーターを搭載し、従来の内燃機関のみで走る車の発売をやめる」と発表したのだが、この発表を「全車EV化し、エンジン搭載車の販売をやめる」と早とちりした誤報も少なくなかった。ボルボの説明も少し足りなかったのかもしれない。

ボルボ V40 D4(ディーゼル車)を買った友人からさっそく「ガソリンもディーゼルもなくなるのか」というメールがきた。ディーラーからそう説明されたそうだ。

ボルボの全電動化宣言は各方面で話題となったが、すべてのクルマをEVにシフトするわけではなく、EVとPHEV(プラグインハイブリッド)と48ボルトシステムを使ったマイルドハイブリッドにするというのが真相だった。メディアやユーザーの誤解に対して、ボルボカージャパンの木村社長も「当面の主流はエンジンを使うハイブリッド」と説明している。

さらにわかりにくいのは、48ボルトシステムを使ったマイルドハイブリッドだ。メルセデスベンツのようにISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)をモーターとして使う48ボルト化ならハイブリッドという言葉を使っても違和感はないが、メルセデスベンツでは「これをハイブリッドとは呼ばない」としているのに、オルタネーターをモーターと見立てるアウディやボルボはハイブリッドと呼んでいる。

いずれにしてもエンジンがなくなることは考えにくいので、クルマの効率を高めるのはエンジンの性能がカギを握っている。

テスラ モデルSはEVだから成功したというわけではない

すべてのクルマがEVになるわけではないという論調に対して、テスラの人気を例にとって「やっぱり、次の時代はEVだ」という人もいる。 たしかに新しいEVの世界を切り拓いたのはテスラだった。テスラはまずロータスのシャシを使ったEVロードスターとして登場してクルマ好きにアピールした。

こうしてEVの地盤を築いてから、2作目のモデルSを投入。静かでトルクフル、しかも速くて気持ちがよい高級車として注目を集めた。

好運だったのは、GMの破綻によって、GMとトヨタがカリフォルニアに合弁で作ったNUMMIの工場を安価で購入することができたことだ。しかも、パナソニックのバッテリーやメルセデスベンツの一部の部品を使うことができた。

トヨタが地盤を作った工場でパナソニックとメルセデスの部品を使って生産されるモデルSは高級セダンとなった。セクシーなスタイルと重心が低いファンキーな走りは、シリコンバレーの富裕層のハートを掴んでしまった。つまり、テスラモデルSはEVだから成功したのではなく、クルマとして魅力的だったからだ。これを見て、EV時代の到来とまではとても言い切れない。

自動車メーカー各社の発言が「EV」ではなく「電動化」に変わってきた

IAA(フランクフルト国際モーターショー)が閉幕し、そして東京モーターショーが開幕した。

2年前はフォルクスワーゲンのディーゼル問題で揺れたが、今、欧州ではディーゼル批判をかわすために、現実的ではないとわかっていても、政府もメーカーも電動化をアピールせざるを得ない状況になっている。実際に、ドイツの主要都市の渋滞がひどく、大気汚染も進んでいる。これまでCO2排出量削減を大義にして、NOxの規制値を緩めてきたツケがまわってきたのである。欧州の環境政策は誤っていたのではないかとも思う。

アメリカは欧州と逆で、NOxに厳しい規制(カリフォルニア州のマスキー法が発端)を優先し、CO2問題を先送りしてきた。中国でも、北京や上海といった大都市の大気汚染が進み、有害な排出ガスを規制する動きが活発となっている。

こうして、欧州、アメリカ(とくにカリフォルニア)、そして中国で、ゼロエミッション化の切り札としてバッテリーEVの普及を進めなければならなくなり、EVに有利な政策を実施しているというわけだ。

そうした中で、英仏両政府は「2040年に内燃機関を持つクルマの販売を禁ずる」方針を発表したが、その中身を精査すると、英国は無条件でエンジンの存在を否定しているが、フランスはPHEVの可能性を否定していない。一方、ドイツのメルケル首相は選挙前にはEVの将来性に言及し「ドイツもEVにシフト」と報じられたが、選挙後はディーゼルをかばう姿勢を見せる発言に変わっている。

ドイツ自動車メーカーの本音は「内燃機関を持つクルマを売りたいが、電動化の波にも乗りたい」、「最新ディーゼルをもっとアピールしたいが、ディーゼルへの風当たりが強いのでおとなしくしていよう」というところだろう。こぞって電動化を宣言をしているが、実際のところは少し違うようだ。

BMWは自動車ジャーナリストを招いてディーゼル問題を客観的に論じながら、メルセデスベンツは自動車業界の信頼失墜と回復の重要性に触れながら、電動化の必要性を強く語っている。そして、ディーゼル騒動の火種となったフォルクスワーゲンは今後の電動化への投資額の大きさを強調していた。

各社の発言が「EV」ではなくここに来て「電動化」という言葉に変わっているのは、すべてをピュアEVにするわけではなく、内燃機関を搭載したクルマがなくなるわけではないことを意味する。

ただし、電装化と電動化と電脳化は確実に進んでいく。電気ではないとできないこともあり、電動化が次世代の大きなチャレンジとなるのは間違いない。その中でメルセデス・ベンツとアウディが「水素燃料電池車も電動化のひとつの選択肢」と発表していたのも興味深い。

電動化=脱エンジンではないことはしっかりと理解しておきたい。
(文:清水和夫)

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