文:大谷達也/写真:マクラーレン・オートモーティブ・アジア
4L V8ツインターボエンジンは、まるで自然吸気のようなレスポンス
「バリアブル ドリフト コントロール(VDC)」と聞いて、私はクルマが勝手にオーバーステアの態勢を作り出すシステムを想像してしまった。もっとも、余計な味付けを極力廃したハンドリングでファンを魅了してきたマクラーレンにとって、これは従来のスタンスと正反対に位置する考え方だ。では、VDCとはいったい何なのか? その答えを求めて、私はローマで開かれるマクラーレン720Sの国際試乗会に参加した。
処女作のMP4/12Cを2011年に発表して以降、5年間で11モデルもの新作をデビューさせたマクラーレン。現在、彼らは上から順に“アルティメイト”“スーパー”“スポーツ”からなる3つのシリーズをラインナップしているが、主力のスーパーシリーズはMP4/12Cで用いられたカーボンモノコック、エンジン、ギアボックス、サスペンションなどを改良しながら開発してきた。ところが、新登場した720Sではモノコックを一新している。
エンジンは排気量を3.8Lから4Lに拡大しただけでなく、パーツの41%を新設計してレスポンスの向上と高出力化(650ps→720ps)を図るとともに、電子制御されるサスペンションはセンサーの数を大幅に増やし、より緻密な動作を実現している。まさにフルモデルチェンジと呼ぶに相応しい内容だ。
試乗してすぐに気づいたのが心地いいエンジンサウンド。いわゆる抜けのいい乾いた音色で、これだけでエンジンレスポンスが勝手に3割ほど改善されたように感じる。いや、印象だけでなく、このエンジンは、まるで自然吸気式のような鋭いレスポンスとリニアリティに優れたパワーカーブを実現している。
エンジンはただクルマを加速させる道具というだけでなく、コーナリング中には姿勢を整えるのにも用いるので、レスポンスとリニアリティの改善はマクラーレンの進化として当然の方向性といえるだろう。なお、720Sではマクラーレンとして初めてツインスクロールターボチャージャーを採用したほか、ムービングパーツの徹底的な軽量化、そしてポップオフバルブを電子制御化することで、切れ味の鋭いエンジンを実現したという。
(後編へつづく)
マクラーレン720S 主要諸元(EU準拠)
●サイズ:全長4543×全幅1930×全高1196mm ●ホイールベース:2670mm ●車両重量:1419kg ●エンジン:V型8気筒 DOHC ツインターボ・3994cc ●最高出力:537kW(720ps)/7500rpm ●最大トルク:770Nm/5500rpm ●駆動方式:MR ●トランスミッション:7速DCT